BUSINESS
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第24回
「e」branding


いまどき、どの業界、どの世界をみても、
「e-XXX」もしくは「.com」である。
しかしながら、ビジネスモデルの模倣のしやすさ、
早さ、顧客から見たときの比較情報の多さ、
スイッチングコストの低さ、などから判断して、
近々のe-事業単体での大成功は
そう簡単ではなさそうである。
むしろ、既存old economyの大事業者が、
その本業のサポートとして
「e」を本格的に使い始めると、
産業革命になるのであろう。

ただし、こうした本格的な産業革命に至る前でも、
少数の成功者は輩出されるはずである。
それは誰か。
ブランディングに成功した者である。

より成熟した社会になればなるほど、また、
提供物の本質的な価値に差がなくなればなるほど、
「ブランド」が大切になってくる。

「e」の世界もまたしかりである。
決して成熟した業界ではないが、
ビジネスモデルの特性のみでは
継続的な競合優位の持続が困難なe-事業においては、
ブランドはかなり重要な位置を占めるようになる。
いきおい売上の何倍もの広告宣伝費を投入する
e-事業主も現れるわけである。

翻って、我が「ほぼ日」であるが、
事業主(イトイさん)の知名度に加え、
コンテンツそのもの、あるいは運営方法の妙により、
ブランド力を着実に蓄積してきていると思う。
T-シャツといい、永久紙ぶくろといい、
「ほぼ日」は、ついに「モノにつく」
本物ブランドとなったと言ってよいのではないだろうか。

このように「e」事業が生き残るには
ブランディングが重要であるのだが、
また「e」の世界で培われたブランドは、
実は他のブランドとは異なる
限りない可能性を秘めている。

普通、ブランドというものは
まず「モノ」に付いてくることが多い。
例えば「ルイビトン」と言えば、
「革製品」というモノのブランドである。

事業主は、このブランド力を生かして、
他の製品・サービスのイメージをも
向上させようと企てる訳である。
しかしながら、モノに付いてしまっているブランドは
強ければ強いほど
brand image conflictを起こしてしまい、
別のモノのブランドにはなりにくい。

例えば前述の「ルイビトン」は
食べ物や飲み物のブランドにはなり得ない。
革臭いイメージがしてとても食べられないだろう。

要は、ブランドというものは、
抽象化されていればいるほど、
他のアンブレラブランドとしての活用の幅が
増えてくるという訳だ。

トヨタが来年からF1に参戦を表明しているが、
これもその例である。トヨタはこれまで
WRC(ワールドラリーチャンピオンシップ)に参戦し
チャンピオンにもなっている。
WRCでは市販車を改造したラリーカーが活躍するため、
実績の善し悪しがダイレクトに市販車のイメージに
影響を及ぼし、一見マーケティング上
効率が良いように見える。
しかし、これでは高影響が出るのは、
ラリーに出場している当該車種
(セリカ、カローラ)のみになってしまい、
実はそれほど効率は高くないのである。

そこで、「トヨタ」という抽象概念に
ブランド力を持たせるべく、
F1への参戦となった次第だ。
F1の場合、走っている車は市販車とはかけ離れており、
消費者には「技術力のある」とか
「格好良い」などといった抽象イメージのみが残る。
これだと、基本的にはどの車種にも
適応できるブランドとなるわけだ。

Web上のブランドにも同じことがいえる。
Realの世界では、
ブランドは特定のモノに付いて成長するが、
web上では、サイトのもつイメージ・特性といった
抽象的な概念に付いて育つ。
即ちwebを通じて育てるブランドは、
育て方によっては、非常に強力で
広範な影響力をもつブランドとなる可能性が
あるということだ。

「もともと強いブランド力を持っている」プレーヤーは、
web上での事業において成功するのみならず、
web上で別のブランドを育成することで、
オフラインも含んだ更なる事業機会の獲得が可能である、
ということになろう。

2000-05-19-FRI

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