原田 |
不満を言う人に、
講演しているとよく会います。
「私の上司は
ぜんぜん仕事ができなくて……」
と愚痴をこぼす。
でも、上司が仕事できなくても
ラッキーじゃないですか。
完璧な人間の部下であるほど
仕事がやりにくいことってないですから。
上司がアホだからこそ
自分で仕事のできる余地がある。
だからその時に上司のために
仕事をすれば、
もっと仕事をさせてくれますよね。
上司がアホだという事実で
困っているはずがないんです。
陰で「アホだ」と言いつづけていれば、
それはどこかの態度に出てしまいます。
人間の感情のことですから、
それぐらいは上司にも伝わってしまう。
だけどそこを
「上司のために働いてやる!」
と思ってやっていたら、上司のほうも
「原田くん、こんな仕事をしたら?
一緒に社長のところに行こうよ」
というふうになるんです。
ぼくは、かつて若い頃、
上司をけっこう
バカにしていたほうでしたが、
それでもそう思います。
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糸井 |
原田さんは
ものすごい働いてるふうだけど、
犬を飼っているし、
バンド活動もやっているし、
人から見たら遊んでいるように
見える時間もちゃんと持っていますよね。
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原田 |
自己管理がどれだけできるかですよね。
いまだに週に一回
ヤマハ音楽教室に通う時間は
絶対に、取っていますからね。
若者でも三年続けるやつはいない中、
もうヤマハ音楽教室の
ドラム教室も三年続けています。
ヤマハが驚いています。
「社長、よく来られますね」
「社長だから来られるんだよ」
と言いますが……
もうドラムは通算で四十年続けています。
このまえの土曜も、
わざわざ電車に一時間乗って、
地下鉄三回乗りかえて、
ロサンゼルスから来た
ドラマーの特別セミナーに行ってきたね。
高校一年の頃から、
毎日、やっていましたからね。
当時はビデオなんてないし
教則本すらなかったから、
テレビでドラムの人の技を必死に見て
「こうやって叩いていたぞ。かっこいい!」
とかいって練習していたんですけどね。
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糸井 |
時代っておもしろいですよね。
今のドラマーって、
その頃に比べたら、
ほんとにものすごくうまいから。
時代の底上げというのはおそろしいなぁと思う。
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原田 |
スポーツの技術もそうでしょう?
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糸井 |
酒飲んで酔っぱらって
ホームラン打ったとかいう自慢が
通用した時代があるじゃないですか。
今、ないですもんね。
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原田 |
カラオケがではじめた頃は、
私は、目茶苦茶うまいと言われたんです。
そこそこのやつとダメなやつとの
バラツキがあまりにも大きかったから。
でも今は誰だってうまいもんね。
だからつまらないでしょう?
ふつうに歌っても盛りあがらないでしょう?
それも底上げですよね。
ぜんぶが標準化されている。
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糸井 |
表面は
ものすごい速度で底上げされる。
だけど、いちばん重要な
魂の部分みたいなものは、
何にも変わっていないはずですよね。
みんな、同じチカラを持ったと
錯覚してしまうけど、
それでズバ抜けたものにはなれない。
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原田 |
前に発売した
マッキントッシュの頃に
プロの方から言われました。
コンピュータで、プロもアマチュアも
おんなじようにできるようになった時代には、
音楽を作るなんてつまらないし、
芸術性の高いものなんて出てこないと……
でも違うでしょう。
道具は今までの
プロの創造性をもっと高めるための
ツールでしょうとこたえていました。
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(つづきます)
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