おいしい店とのつきあい方。 |
割り勘のスマートな方法はありませんか? まず、割り勘は恥ずかしいことではない‥‥、 これを確認しておきましょう。 家族で食事したり、 あるいは会社の上司や取引先におごって貰う、という 特殊な状況以外の外食は、 基本的に割り勘が当たり前です。 世界の常識です。 ただ割り勘の仕方、 特にタイミングを間違えると これはかなり恥ずかしいことになります。 恥ずかしい以上に、迷惑ですネ。 ここ、肝に銘じておきましょう。 数人がレジの前で押し問答する。 ワタシが払いますから、 いえいえ、今日はワタシにご馳走させて! 云々云々。 ‥‥見苦しい! 伝票を奪い合いながら、挙げ句の果てに じゃあ割り勘にしましょうヨ、と計算を始める。 後ろでは会計したくても出来ないお客様が行列を作って、 暴動寸前な状態になる。 ‥‥これは見苦しさを通り過ぎて、 醜く、人に怒りの念を催させる景色です。 会計をテーブルの上で出来ないカジュアルな店の場合は、 割り勘の時もまず誰かがまとめて払って、 お店を出てから精算、がスマートでしょう。
問題は、テーブル上で会計する店の時。 まず注文するときに、 「今日は割り勘にしようと思いますので‥‥」 と言っておきましょう。 丁寧なお店なら、これでお客様一人一人に 別々の伝票を作ってくれる。 お勘定をする際、伝票をお願いします、と言えば、 一人に一つ、つまり自分用の伝票に記載された 合計金額を払えば良い、ことになりますネ。 そうした配慮を レストラン側がすることを忘れてしまった、 あるいは食事の最中に割り勘にしようと思いついた、 ような場合でも、会計の際に、 「割り勘にしたいのですけれど」と、一言。 そして、明細書を持ってきて下さい、と言いましょう。 そのテーブルで何を提供したのかの一覧表が届きます。 そこからが一騒動。 お店によっては注文した商品と値段が活字になって きれいにプリントアウトされて届くことがあるけれど、 それは例外だと思った方がよいかもしれません。 大抵の、特に小さなお店のほとんどでは手書きの伝票、 それもフランス語やらイタリア語やら、 場合によっては中国語の記号のような いたずら書きのようなモノがクネクネならぶ、 呪文のような紙切れで、 それを解読することからはじめなきゃいけない。 まあ、でもそれがまた楽しかったりするのですネ。 お店の人に聞きながら、ペンを借りて、 これはワタシ、これはあなた、 という具合に振り分けて行き、 商品名の頭に記号をふりながら 今日の食事を思い出して行けばよい。 ‥‥楽しいです。 欧米の人はえんえんこの作業に半時間ほど費やすくらい、 楽しくやる。 で、印をふり終わったらそれを係りの人に渡せば良い。 後は彼がそれぞれの支払い分を計算して、 正式な伝票にして持ってきてくれますから。 現金でも良し、あるいはカードでも良し。 4人で行って、4人が4人とも 別々のクレジットカードで支払いをする、 ようなかなりわがままなお願いをしたときは、 多少、時間がかかることを覚悟しましょう。
海外のレストランで、 たまたまひとりで食事をしていたボクの 近くのテーブルに、 日本人の女性ばかり3人のグループが座る、 という状況に遭遇したことがあります。 彼女たちはかなりしっかりした現地の言葉で、 しっかり料理を注文し、 ウェイターとの会話も楽しみ、 素晴らしいマナーと素敵な笑顔で食事をしていました。 ああ、彼女たちは旅慣れているのだな、と、思いました。 彼女たちの素敵な思い出を、 同じ日本人のおじさんが横で食事していた、 という記憶で傷つけぬよう、 ボクはしっかり気配を消して食事しました。 とは言え、まあ観察だけはしっかりとしていたのですけれど。 そして食事は大団円。 会計です。 何を思ったのかその段階になり、 彼女たちはメニューを下さい、と言ったのです。 テーブルの係りのウェイターは、 一体どうしたことか? とビックリです。 この段階での、メニューを頂戴、は お腹が一杯にならなかったからもう少し料理を頼みます、 の意志表示です。 彼はメニューをおそるおそる手渡して、 いつ注文をもらえるモノかと、 いつ呼ばれてもいいように、 そのテーブルのほど近く、 柱の陰にスタンバイしたのです。 そして彼女たち、‥‥どうしたと思います? 一人がハンドバッグの中から電卓を取り出した。 同時にもう一人がメモ帳を取り出し、 メニューを持った一人が それぞれが食べたモノを読み上げ、 ついでに値段を読み上げて書き写し、 それから一人一人の精算額を計算し始めたのでした。 お酒も入っていたからでしょう、ホールに響きわたる声。 見事な手際で電卓をたたく指。 まるで珠算の読み上げ算をしているようにも見えました。 ‥‥見せ物としては面白かったのですけれど、 でもそれはお店の人がすべきこと。 レストランのテーブルは仕事をするデスクではないのです。 係りのウェイターはもうひっくり返らんばかりに笑って、 同僚を呼んでまで見てました。 彼女たちは海外旅行の度に こうした面白いことをしてたのか? と思うと、 一言、「へんてこりんですヨ、それ‥‥」と、 言って上げようかな、とも思ったのだけれど、 でもボクはこの2時間ほど、 彼女たちにとって「いない」存在であったので、 それも果たせず、 でも意気揚々と引き上げて行く彼女たちに、 ココロの奥で 「いつかは気付けヨ‥‥」 とエールを送りました。
ハナシがちょっと脇道を通ります。 英語で割り勘にしない? をどう言うでしょう。 以前にも書きましたが、ここでおさらい。 二つの言い方があります。 ひとつは「go Dutch.」。 オランダ式? ‥‥どういう意味でしょうか。 それは自分が食べた分だけの支払いをする、 割り勘スタイルをとらないか? ということです。 なぜそうした割り勘の仕方をオランダ風と呼ぶんでしょう? 英国とオランダはかつて 世界の覇権を争ったときのライバルでした。 どちらも本国は小さな国で、 だから海外に出ることで活路をみいだそうとしたのです が、最初に勢力を伸ばしたのはオランダで、 英国人はそれがくやしくて仕方なかった。 だから誇り高い英国人は、 「少々嫌でへんてこりん」なことを表現するのに 「オランダ式」という言葉を使いました。 ダッチオークションといえば、せり下げ式の入札方法。 ダッチアクションといえば、自殺のことをいったり、 あるいは「オランダ式の奥さん」‥‥、 詳細の説明は控えましょう。 考えてみれば「自分が食べた分だけを払う方法」は 計算するのが面倒くさい。 なにより仲間内なのに水臭いような感じもするし、 こまかなコトにくよくよこだわる 小さな人間のような印象を与える。 合理的で公平なのだけれど、面倒くさい。 ‥‥で、イギリス人はそうした支払方法を 「オランダ風」と呼ぶことにしたのだと言われます。 それならオランダ式とは違う割り勘方法、 つまり総額をスパッと人数分で均等割りして 支払う方法を「イギリス式」というのか、 というとそうじゃなく、ただ単純に 「split the bill.」(伝票を分けよう)と言います。 割り勘というと、たいてい、 この方法に落ち着くんじゃないでしょうか。 ただしこのときにはある程度の心配りが必要でしょう。 例えば四人で行ってワインを頼んだ。 その中の一人がひときわ沢山、ワインを飲んだ。 「ワイン代の半分をワタシに払わせて下さい。 ‥‥あとは均等割りで」 飲んだ人がこう言うのがスマートです。 そうして食事代+ワイン代の半分を足して 4で割ったら、450円の端数が出たら? 「その450円、この店を選んだワタシに払わせてネ」 素敵です。 こうした方法、‥‥臨機応変な均等割り、 イギリスから見てオランダのちょっと手前だから、 ベルギースタイルとでも呼べばいいかしらん。 割り勘を厳密に考すぎると楽しくなくなる。 シアワセな気持ち、 シアワセな空間をぶち壊しにしないよう、 会計はスマートに‥‥、です。 次回は「おしぼり」のお話です。 illustration = ポー・ワング |
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