おいしい店とのつきあい方。
サカキシンイチロウの秘密のノート。



お店に行く、良い時間帯についての、3回目です。
1回目は「レストランにとって優しいお客様になれる時間」
2回目は「そのレストランを評価するのに適した時間」
でしたネ。
開店直後はそのお店の
やる気と誠実さを確かめる良い時間、と言いました。
その開店時間とは大抵の店にとって
午前11時から11時半。
つまりお昼前。
実はある種のレストランには、
もう一度、開店する時間があるんです。

ランチ後の休憩をおえたレストラン。
ディナータイムの幕開けのすばらしさ!

それはランチタイムが終わって中休みを取り、
夜の営業を始める夕刻5時から6時の間に、
再びお店が開店する時間帯です。
同じ開店時間でも朝の開店時は
「やる気と情熱」がお店の空気を支配してます。
でも夕方の開店時は、もうすこしユッタリとした
伸びやかな空気が店の中に充満しています。
昼の営業を終えた充実感と、
まかないを囲んで仲間同士が語り合ったり、
ときに反省会を催したり。
レストランの様々な専門知識の勉強をするのも
この中休みの間ですし、
厨房の中で新しい料理のレシピが誕生するのも
この時間帯だったりします。
直後の営業に備える準備をするにも、
朝とは違ってタップリの時間を使い穏やかな気分で行う。
忙しかったランチタイムに傷ついた
チームワークが癒され、修復されるのも
この時間を使ってですし、
働いている人それぞれが、
お客様をシアワセにするそれぞれの役割と
やり方を頭の中に思い描いて、
「夜の営業もがんばろう」
と誓う時間でもあったりします。
つまり、レストランがもっとも夢見がちで、
そのロマンティックの頂点が
夜の営業時間の始まりの頃‥‥
ということが出来るでしょう。

だからかどうか、夕方、営業を始めたばかりの
お店のドアを開けると、
なにやらほのぼのとした温かい空気に包まれる。
夢見がちな人たちの発散する、独特の空気です。
ボクは大好き。

中休みをとらないレストランもありますネ。
そんなお店はこんなふうに使いましょう。

お店の中にはこうした中休みをとらないお店もあります。
2時から5時の間を、
ティータイムのようにしてお客様をもてなすお店。
こうしたお店にとって夕刻の5時前後、
というのは逆にピリピリした緊張感の走る時間です。
ティータイムのメニューを
ディナー用のメニューに取替え、
テーブルセッティングを整える。
音楽や照明もディナー用に設定しなおし、
場合によってはテーブルクロスを交換したり、
というような準備に追われる。
だからそうしたお店の夕刻、
早い目の時間にはよほどの必要が無い限り、
なるべく利用しないようにしています。
どうしても6時までに食事を終えなくてはならない
用事のあるとき。
客席ホールの中を作業して回るプロの仕事振りを
どうしても見たくなったとき。
そんな特別の機会をのぞいては、
準備万端整うまでのレストランは、
ワタシ達お客様のの寄り付くべき場所ではない、
と思うのです。

一方、中休みをとり
再び夕刻に開業した直後のレストラン。
自分のペースで食事を楽しむのに、とてもよい時間帯です。

例えばランチタイムは
1時過ぎからが素敵な時間なんですよ、という
その理由を説明しました。
が、ランチタイムで一番お店が優しくなる時間が、
果たしてすべての人にとって優しい時間なのか?
というと、そうでもない。
その時間帯は常連のお客様が多い時間である、
と言いましたが、
そうした中にはじめての人が飛び込む。
これは大変なことです。
誰が来たのか、とにらみつけられてどぎまぎしたり、
あるいは「この店、雰囲気悪い」という
先入観を刷り込んでしまったりします。
常連のお客様ばかりでないにしても、
その時間帯は外食の上級者が好んでやってきて
独特の雰囲気を発散する時間帯ですから、
やはり初心者にとってはとっつきづらいのに
変わりはないかもしれません。

そのお店に行く初めての人にも優しく
しかもお店の人たちが元気と情熱を発散している、
昼前の開店直後の時間も良いのですけど、
いかんせん、すぐに
戦場のようなランチタイムがやってくる。
自分のペースで食事することは至難の業ですし、
そんな時間帯に自分のワガママを押し付けるような
勝手知らずのお客様にはなりたくはない。

時間と余裕をもって楽しみたければ
中休み後のディナータイムの一番客に!

たっぷりの時間があって、
時間だけじゃなくて心の余裕もタップリあって
エネルギーが体中にみなぎっているようなそんな時、
もし前から行きたかった店にいってみようと思い立ったら
ディナータイムの開店直後を狙って行ってみる。
なかなかのアイディアです。
なぜタップリの時間を必要とするのか?
開店直後と言えばお客様は自分くらいだろうから、
料理が速やかに出てくるであろう、
そう考えるのは当然ですが、
いささか手前勝手で事情知らずの判断です。
この時間のレストラン、実は体を休ませた直後ですから、
エンジンがかかるのに少々の時間を要する。
仕方ないです。
ホール側のサービスは迅速で
キビキビしているかもしれませんが、
厨房の中はちょっともたつく。
オーブンの火入れをしたり
冷蔵庫の中で休んでいた食材を
適切な場所に置きなおしたり、と、
調理準備のためにいささかの時間と手間を要するからです。
そのかわり飛び切り入念で丁寧な調理をしてくれる。
‥‥そう思いながら待ちましょう。

ホールのサービススタッフにこう笑顔で告げながら、
じっくり腰を落ち着けて待つと良いですネ。
「実はこのお店、初めてなのですが、
 勉強させていただけませんか?」
もうそのお店のとても素晴らしい部分は
あなたの手の中にあるのも同然です。
シェフの今までの経歴。
このお店を作るにいたったちょっとしたエピソード。
シェフが得意にしている料理のこと。
今日のお勧めの料理。
それにあわせてシアワセな食卓を完成させるワインの話。
そうしたちょっとした話を聞きながら、
ゆっくり時間を楽しめば良い。
そうこうしているうちに次々、
新しいお客様がやってきて気づけばお店が満席になる。
中にはドアを開けるなり名前を呼んで
迎えてくれるようなおなじみのお客様もいたりして、
なのにお店の人たちはあなたのことを
とても大切で親しいお客様のように扱ってくれる。
それが夕食時、開店直後のドアを勇気を持ってあけ、
お店のウォーミングアップに辛抱強く付き合ってあげた
寛大なお客様に対するご褒美なのです。

グッドラック‥‥、というコトですな。

illustration = ポー・ワング

2005-02-03-THU


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