ほどよき繁盛でありました。
毎日、半分ほどのテーブルがにぎやかになり、
週末になるとほぼ満席という状態。
紹興酒よりワインが似合う中国料理のお店というのが、
当時の東京にはあまりなく、だからかなりの評判を得た。
なにより近所の住宅街のよいお客様に恵まれて、
滑り出しは好調でした。
ところがそれから、3ヶ月ほどたった頃からユックリ、
お客様が減りはじめたのです。
特に、足しげく通っていただけていた
ご近所さんの顔をみることが少なくなって、
週末でも誰も座らぬテーブルが
目立つようになっちゃった。
お店の中に、嫌な予感が漂いはじめる。
サービスが悪くなったわけでなく、
料理の腕はますます冴えて
開店当初より絶対おいしくなっているはず。
なのになぜ?
ちょっと弱気になりはじめていたある日のこと。
おなじみだった近所のご婦人に
バッタリ渋谷の街で会った。
お久しぶりですと挨拶しながら、
またのお越しをお待ちしてます‥‥、
とそう言うボクに彼女はこう言う。
あなたのお店はお腹すかせて、
おしゃれなかっこうで行かないと
いけないような気持ちがするの。
素晴らしすぎて、普段着なんかじゃ負けそうで、
もっと気軽に使えたらなぁ‥‥、って私は思うの、と。
パートナーと、その日の彼女の言葉を
しんみり考えました。
うつくしい店。
すばらしい料理。
ボクらの理想が形になって、
けれど理想をお客様にまで押し付けることは
本当はしてはいけないコトだったのかも
しれないなぁ‥‥。
人間関係でもそうじゃないか。
付き合っていた相手から
「あなたのコトが嫌いだから」と言われ、
わかれてしまうのはまだ納得が行くけれど、
「あなたは私に良すぎるから」って言われるコトは
けなされるより悔しく、哀しい出来事だろう。
考えてみれば今までずっと、
ボクらはボクらの考えを
お客様に言うことばかりに必死になって、
お客様がどうたのしみたいか
謙虚に聞いたコトはなかった。
さて、どうしよう。
まずお客様から、声をかけてもらえるように、
ボクらがまずは変わらなくっちゃ。
ボクはそのとき決心しました。
完璧なまでにうつくしい、
このレストランの、ボクはアバタになってやろう。
その日の夜から、ボクはお店のアバタになった。
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