糸井 |
僕、ボロブドゥールの遺跡っていうの
行ったんですよ、バリから。
で、ボロブドゥールっていうのは、
小っちゃな島にね、
遺跡だけがある場所かと
勝手に思ってたんですよ。
だから今まで発見されないんだって
いうふうに思い込んでたら、
じつはあれ、ジャワ島にあるんですね。 |
さくら |
あー、そうか。 |
糸井 |
ジャワ島って日本よりずっと
デカいような島で、
ただ単に埋まってて隠れてた、
あるいは埋められたか隠したかなんですけど、
巨大な仏教遺跡があるんです。
行ったんですよ、正月の1日に。
そしたら、僕の考えてた、
鬱蒼とした森林の向こうに、
モヤに閉じ込められた遺跡が顔を出す、
って姿は、とんでもなくて、
浅草浅草寺(あさくさ・せんそうじ)
みたいになってて(笑)。 |
さくら |
はははははははは。ガクゥ。 |
糸井 |
もうインド状態なんです。
原色の服を着たり、
ニセのドラえもんの絵を描いた
シャツを着た人とかが、
ワーッ! っていて。
そこで、もう階段に邪魔なくらい、
もの食ってて。
それはそれで、OKだと思う。
みんなが喜ぶ場所を作ったんですからね。
でも、ありゃ〜、これかい!? と思って。
写真で見たときには、
人っ子ひとりいないんです。
ところがですね、
普段はいないらしいんですよ。 |
さくら |
あ、そう。正月だからいた? |
糸井 |
そう、正月だからっていうことと、
いい時間に行ったってこともあるんですね。
で、その前に新婚旅行で
ボロブドゥールに行った友だちがいたんです。
ボロブドゥールの遺跡から、
遠く山が見えるんですよ、富士山のように。
で、その山が寝釈迦のかっこうしてるんです。
きれいなんですよ。
ボロブドゥールそのものは
浅草寺なんですけど、
その山の向こうはきれいなんですよ。
でも、よく見ると、
建物が1コだけあるんです。
それが、アマンジオなんです。 |
さくら |
おぉ〜(笑)! |
糸井 |
ゾッとした? |
さくら |
そうなんだ! |
糸井 |
ふつうの人は誰も行けないような、
とんでもねぇ場所に、
そのホテルだけが建ってて、
そこに泊まった人に言わせると、
誰もいないボロブドゥールの遺跡を、
お茶を飲みながらいつでも上から
見られるっていうんだよ! |
さくら |
天国ですよね、ほんとね(笑)。 |
糸井 |
で、朝日が向こう側に、
バックライトで射すんだって。 |
さくら |
すっごい‥‥。 |
糸井 |
で、8〜9世紀ぐらいにできて
19世紀に発見されたような遺跡が、
シルエットで見えてきて。 |
さくら |
かっこいい‥‥。 |
糸井 |
で、宿泊客は、
「行かれますか?」って訊かれるんだって。
「え? 行ってみたいなぁ」って言うと、
朝、まだ鳥が鳴き始める
ちょっと前ぐらいに出てって、
ボロブドゥールの前に
人っ子ひとりいないところを、
ジープで出かけてって、
そこで日の出を拝むんだって。
すっかり誰もいないところで
その遺跡のほんとうの意味をね、
マンツーマンで、
「釈迦の一生はですね‥‥」ってのを聞いて、
いいとこだね、すごいね、
じゃあ帰りましょう、って言ったら、
ゾウが待ってるんだって。 |
さくら |
ああ、いいですねぇ〜(笑)! |
糸井 |
で、密林を、ゾウに乗って、
山の上のアマンジオまで帰ってくるんだよ。
それって、アイデアじゃないですか!(笑) |
さくら |
アイデア、アイデア。
ほんと、ほんと。すごい。 |
糸井 |
つまり、遺跡は、
いつものようにあるんですよ。 |
さくら |
ある、ある、うん。 |
糸井 |
それから、それを見晴らす山も、
いつものようにあるんですよ。
それが天国でしょ。ねぇ?
で、ホテルを建て、道を作ることは
金で解決することなんだけど、
その気持ちは、
金で買えなかったような気がしますよ。 |
さくら |
うん(笑)。 |
糸井 |
だって、遺跡がなきゃ、ないんだもん。 |
さくら |
そうだよね、うん。 |
糸井 |
つまり、これから先、
背景とか空気とか、
文化とかっていうものは、
今から作るわけにいかないわけですよ。 |
さくら |
そうそうそうそうそうそう。
そうなの、ほんと。 |
糸井 |
で、それを、いちばんおいしいとこだけ、
チューチュー吸ってくださいと。
歴史と文化のロイヤルゼリーですよ。 |
さくら |
ね‥‥ロイヤルゼリーですよね(笑)。 |
糸井 |
俺、今うまいこと言ったね。 |
さくら |
歴史と文化のロイヤルゼリー(笑)。 |
糸井 |
天国のイメージっていうのを、
実現してる人が、ここにもいた。
つまり、アマンをつくったその人ですよ。
そんな人がいたりさ、
「自由であろうとすることは、
ビジネスとして成立する」って言ってる
川久保さんがいたりだよ?
それはやっぱりさ、みんなが、
こうでなくちゃいけない、
って我慢を中心にして、
我慢・我慢・できた・我慢・我慢‥‥
って言ってることを、
プロセスそのものを楽しみつつ、
素晴らしいものを作るっていう
時代が来てるんだと思うんですよ。 |
さくら |
うん。
|