オトナな会話(仮)
さくらももこ×糸井重里の対談です。

その16
「これが天国でしょ?」ってこと。

糸井 僕、ボロブドゥールの遺跡っていうの
行ったんですよ、バリから。
で、ボロブドゥールっていうのは、
小っちゃな島にね、
遺跡だけがある場所かと
勝手に思ってたんですよ。
だから今まで発見されないんだって
いうふうに思い込んでたら、
じつはあれ、ジャワ島にあるんですね。
さくら あー、そうか。
糸井 ジャワ島って日本よりずっと
デカいような島で、
ただ単に埋まってて隠れてた、
あるいは埋められたか隠したかなんですけど、
巨大な仏教遺跡があるんです。
行ったんですよ、正月の1日に。
そしたら、僕の考えてた、
鬱蒼とした森林の向こうに、
モヤに閉じ込められた遺跡が顔を出す、
って姿は、とんでもなくて、
浅草浅草寺(あさくさ・せんそうじ)
みたいになってて(笑)。
さくら はははははははは。ガクゥ。
糸井 もうインド状態なんです。
原色の服を着たり、
ニセのドラえもんの絵を描いた
シャツを着た人とかが、
ワーッ! っていて。
そこで、もう階段に邪魔なくらい、
もの食ってて。
それはそれで、OKだと思う。
みんなが喜ぶ場所を作ったんですからね。
でも、ありゃ〜、これかい!? と思って。
写真で見たときには、
人っ子ひとりいないんです。
ところがですね、
普段はいないらしいんですよ。
さくら あ、そう。正月だからいた?
糸井 そう、正月だからっていうことと、
いい時間に行ったってこともあるんですね。
で、その前に新婚旅行で
ボロブドゥールに行った友だちがいたんです。
ボロブドゥールの遺跡から、
遠く山が見えるんですよ、富士山のように。
で、その山が寝釈迦のかっこうしてるんです。
きれいなんですよ。
ボロブドゥールそのものは
浅草寺なんですけど、
その山の向こうはきれいなんですよ。
でも、よく見ると、
建物が1コだけあるんです。
それが、アマンジオなんです。
さくら おぉ〜(笑)!
糸井 ゾッとした?
さくら そうなんだ!
糸井 ふつうの人は誰も行けないような、
とんでもねぇ場所に、
そのホテルだけが建ってて、
そこに泊まった人に言わせると、
誰もいないボロブドゥールの遺跡を、
お茶を飲みながらいつでも上から
見られるっていうんだよ!
さくら 天国ですよね、ほんとね(笑)。
糸井 で、朝日が向こう側に、
バックライトで射すんだって。
さくら すっごい‥‥。
糸井 で、8〜9世紀ぐらいにできて
19世紀に発見されたような遺跡が、
シルエットで見えてきて。
さくら かっこいい‥‥。
糸井 で、宿泊客は、
「行かれますか?」って訊かれるんだって。
「え? 行ってみたいなぁ」って言うと、
朝、まだ鳥が鳴き始める
ちょっと前ぐらいに出てって、
ボロブドゥールの前に
人っ子ひとりいないところを、
ジープで出かけてって、
そこで日の出を拝むんだって。
すっかり誰もいないところで
その遺跡のほんとうの意味をね、
マンツーマンで、
「釈迦の一生はですね‥‥」ってのを聞いて、
いいとこだね、すごいね、
じゃあ帰りましょう、って言ったら、
ゾウが待ってるんだって。
さくら ああ、いいですねぇ〜(笑)!
糸井 で、密林を、ゾウに乗って、
山の上のアマンジオまで帰ってくるんだよ。
それって、アイデアじゃないですか!(笑)
さくら アイデア、アイデア。
ほんと、ほんと。すごい。
糸井 つまり、遺跡は、
いつものようにあるんですよ。
さくら ある、ある、うん。
糸井 それから、それを見晴らす山も、
いつものようにあるんですよ。
それが天国でしょ。ねぇ?
で、ホテルを建て、道を作ることは
金で解決することなんだけど、
その気持ちは、
金で買えなかったような気がしますよ。
さくら うん(笑)。
糸井 だって、遺跡がなきゃ、ないんだもん。
さくら そうだよね、うん。
糸井 つまり、これから先、
背景とか空気とか、
文化とかっていうものは、
今から作るわけにいかないわけですよ。
さくら そうそうそうそうそうそう。
そうなの、ほんと。
糸井 で、それを、いちばんおいしいとこだけ、
チューチュー吸ってくださいと。
歴史と文化のロイヤルゼリーですよ。
さくら ね‥‥ロイヤルゼリーですよね(笑)。
糸井 俺、今うまいこと言ったね。
さくら 歴史と文化のロイヤルゼリー(笑)。
糸井 天国のイメージっていうのを、
実現してる人が、ここにもいた。
つまり、アマンをつくったその人ですよ。
そんな人がいたりさ、
「自由であろうとすることは、
 ビジネスとして成立する」って言ってる
川久保さんがいたりだよ?
それはやっぱりさ、みんなが、
こうでなくちゃいけない、
って我慢を中心にして、
我慢・我慢・できた・我慢・我慢‥‥
って言ってることを、
プロセスそのものを楽しみつつ、
素晴らしいものを作るっていう
時代が来てるんだと思うんですよ。
さくら うん。

ああ、ちゅうちゅう‥‥
明日に、つづきます!
2005-05-30-MON
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