糸井重里、サンパチマイクを買う。

糸井重里、サンパチマイクを買う。

あこがれの漫才マイク「C-38B」を、自腹で。

糸井重里は、むかしから、
急におかしなものを買う人である。
驚くようなもの、呆れるようなもの、
「これは‥‥なに?」という不思議なものまで、
じつにさまざまなものを自腹で買っている。

そんな個人的な買いものリストに、
このたび「サンパチマイク」が加わろうとしていた。
漫才に欠かせない、あのセンターマイクである。
これにはお笑い好きの乗組員も興味津々。
「なんで糸井さんが、サンパチを‥‥」
その気になる買いものの行方を、
ちょっと前のめりに追いかけてみました!
#01 愛、あるいは、敬愛。
ほぼ日では週に一度、「道場」と呼ばれる
クリエイティブミーティングがひらかれます。
相談したいこと、共有したいことを、
糸井重里を交えて自由に話しあう場です。
この日のテーマは、サンパチマイク。
糸井重里はどうしてサンパチマイクを買うのか?
気ままなおしゃべりの記録を、全4回でどうぞ!
写真
乗組員A
サンパチマイク、
ほんとうに買うんですか?
糸 井
ぼくは買いますよ。
乗組員B
あ、本気なんですね。
糸 井
もちろん本気です。
乗組員A
値段を見てびっくりしたのですが、
サンパチマイクって30万円くらいするんですね。
一同
えぇーーっ!
乗組員C
はーー、高級マイクですね。
糸 井
知ってます。
ぼくは自腹で買いますから。
乗組員A
素朴な質問なのですが、
どうしてサンパチマイクなんでしょうか。
糸 井
知りたい?
乗組員A
知りたいです。
乗組員B
そういえば、まだ一度も聞いてないですね。
乗組員C
興味あります。
糸 井
そもそも物事というのは、
シンボリックな事象があったり、
事件があったり、人がいたり、
いろんなものがうねりとなって動きますよね。
写真
乗組員A
はい。
糸 井
ギターの世界に例えるなら、
エレキギターの世界にはいろんな伝説があります。
「このギターはすごい」とか、
「あいつがこのギターを使ってたぜ」とか。
ぼくはそういうのと同じように、
お笑い、とくに漫才の世界には、
「サンパチマイク」があると思ったんです。
乗組員C
ロックミュージシャンのギターのように?
糸 井
そうです。
しかもギターの世界には、
ギブソンとかフェンダーとかありますけど、
漫才の世界を見てみると、
みんながサンパチマイクを使ってますよね。
たぶんそれって、
みんなが「これでなきゃ」と思っているからで、
それ自体すでにすごいことなんですよ。
乗組員D
たしかに‥‥。
糸 井
そこまで漫才にとってシンボリックで、
東京といえば東京タワーのようなものがあるとしたら、
オレはそれが‥‥ほしいっ!
写真
一同
おぉーーーっ。
糸 井
だって、ワクワクするじゃないですか。
サンパチを持ってるって思うだけで。
乗組員A
あの、ひとつ聞いてもいいですか。
糸 井
どうぞ。
乗組員A
漫才師にとって
サンパチマイクが大切なものというのは、
なんとなくイメージできるんです。
でも、それを糸井さんが買ったところで‥‥。
糸 井
いい質問です。
「そんなの買ってどうすんだ」という声は、
ぼくの耳にも届いています。
乗組員B
あ、その声は届いてる(笑)。
糸 井
そりゃあ、そうですよ。
ぼくがサンパチマイクを買ってどうするの?
一同
(笑)
写真
乗組員A
わはははは。
糸 井
そりゃあ、みんなそう思いますよ。
「そんなの買ってどうするんだ」って。
そう言いたくなる気持ちはわかります。
だけど、これはある種、
ぼくのお笑いへの「愛」だと思ってください。
乗組員C
愛?
糸 井
愛、あるいは、敬愛ですね。
それがあるがゆえに、
もしサンパチマイクをぼくが持っていたら、
ぼくの人生のなかで、
「サンパチマイクのある俺」が動き出すんです。
乗組員A
サンパチマイクのある俺‥‥。
糸 井
それは「ある」ってだけで動き出すんです。
だってそうじゃなかったら、
レスポールもテレキャスも買いません。
そもそもギター弾けませんから、ぼくは。
乗組員A
弾かないのにギターを買うんですか?
糸 井
「持ってる男」です。
乗組員B
糸井さん、いろんなギター持ってますよね。
糸 井
けっこう買いました。
でも、買った時点でほんとうは終わりなんです。
だって弾かないわけですし。
一所懸命ギターを練習するなんて、
そんなの子どものやることですから。
乗組員B
わはははは。
乗組員A
まったく弾かないんですか?
糸 井
弾かなくていいんです。
ぼくにとってはギターが「ある」ってだけでいい。
写真
乗組員D
「集めてる」ってことですか?
糸 井
いや、コレクションともちがうんです。
「ある」です。
乗組員D
「ある」。
乗組員A
そのギターはいまどこにあるんですか。
糸 井
いま家にあるのは2本だけです。
オベーションというギターは、
誰かが遊びに来たときに、
弾けるやつが弾いていいように置いてます。
あと、リッケンバッカーもあります。
あれは「見る」のに必要なんです。
ジョン・レノンを偲ぶときとかに見たりします。
いま家にあるのは、その2つ。
他のギターはみんなあげちゃいました。
乗組員A
あげちゃった?
糸 井
ストラトとテレキャスは、
知り合いのミュージシャンにあげました。
ちなみに、ほぼ日のYoutubeで、
最初に流れるサウンドロゴがあります。
乗組員C
ギターの「ウィユ~ン♪」という音ですね。
糸 井
あれは、そのミュージシャンの方が、
ぼくのあげたストラトで収録してくれたそうです。
一同
へぇーーっ!
糸 井
レスポールはとあるバンドマンにあげました。
ずいぶん昔のことですが、
その人がレスポールに似たギターを使っていて、
「ホンモノ弾きたい?」って聞いたら、
「弾きたい」って言うから、
「じゃあ、あげる」って言ってあげました。
乗組員C
レスポールをあげちゃう(笑)。
写真
糸 井
そのあとしばらくして、
彼から現金書留でお金が送られてきました。
なのであげたといっても、
それはもう彼が買ったレスポールですよね。
‥‥という流れからのサンパチ。
乗組員A
話が戻ってきました。
糸 井
つまり、何がいいたいかというと、
ギターでそういう感じですから、
サンパチマイクを買ったとしても、
ぼくの家に置き場所なんかないんです。
乗組員A
わはははは。
乗組員B
わはははは。
乗組員C
でも、買うんですよね?
糸 井
ほしいです。
みなさん、想像してみてください。
誰もいないステージで、
サンパチマイクにだけ照明が当たっている姿を。
乗組員A
(目を閉じたまま)かっこいいです。
乗組員B
(目を閉じたまま)絵になりますよね。
写真
糸 井
ほぼ日の學校のスタジオとかで、
そういう写真を撮ってみたいんです。
他になんにもなくても、
スッと立ってるだけでかっこいいじゃないですか。
乗組員C
それだけで雑誌の表紙になりそう。
糸 井
でも、その写真が撮りたいからって、
会社が買うのはちがいますよね。
だってサンパチマイク、必要ないですから。
乗組員F
そうですね。
マイクの数は足りてます。
糸 井
なので、ぼくはじぶんで買います。自腹でね。
乗組員B
サンパチマイクって、
ふつうの人でも買えるものなんですか。
乗組員C
たしかに、どこに売ってるんだろう。
糸 井
よくぞ聞いてくれました。
そこで登場するのが、
そちらに座っているDさんです。
乗組員D
どうも。
糸 井
じつはDさんの知り合いの方が、
サンパチマイクをつくる工場にいたんです。
一同
えぇーーっ!
乗組員B
そうなの(笑)?
乗組員D
ほんとうにたまたまなんですけど、
昔、いっしょに働いていた方が出世されて、
いまはサンパチマイクをつくる工場で
社長になられていたんです。
乗組員B
サンパチの社長!
乗組員C
すごい展開(笑)。
乗組員B
サンパチの工場ってどこにあるんですか?
乗組員D
大分県です。
乗組員B
大分県!
乗組員D
大分の「ソニー・太陽」という会社です。
サンパチマイクを製造している唯一の場所で、
現在もひとつひとつ、
手作業で組み立てられているそうです。
一同
へぇーーーっ!
糸 井
ね、おもしろいでしょ(笑)。
写真
(つづきます)
2026-03-02-MON