糸井重里は、むかしから、
急におかしなものを買う人である。
驚くようなもの、呆れるようなもの、
「これは‥‥なに?」という不思議なものまで、
じつにさまざまなものを自腹で買っている。
そんな個人的な買いものリストに、
このたび「サンパチマイク」が加わろうとしていた。
漫才に欠かせない、あのセンターマイクである。
これにはお笑い好きの乗組員も興味津々。
「なんで糸井さんが、サンパチを‥‥」
その気になる買いものの行方を、
ちょっと前のめりに追いかけてみました!
- 乗組員A
- やっぱり個人的には、
高砂のスタンドがいいなって思いました。
- 糸 井
- 台座に付いている品番プレートとか、
こういうのがいいよね。
- 乗組員A
- そうなんです(笑)。
オリジナルの証って感じがします。
- 糸 井
- それはエレキギターも同じなんです。
新しいほうがよくなってるというけど、
ほんとうはそんなこともない。
いろいろ探しているうちに
オーセンティックなものがほしくなるのは、
よくあることなんだと思います。
- 乗組員D
- 由来を知っちゃうと、
ますますほしくなりますよね。
- 糸 井
- でも、昔からあるものだし、
どこかに余っていたりしないのかな。
- 乗組員F
- 公民館の倉庫とかにありそうですよね。
- 糸 井
- そういえば、
毎年「ほぼ日曜日」でやってる
「ほぼ演芸場」はどうしているんだろう?
- 乗組員F
- 去年は床置きマイクを使っていたはずです。
- 乗組員A
- でも、サンパチもありましたよね?
- 乗組員F
- センターマイクとして置いていましたけど、
音はひろっていなかったはずです。
- 糸 井
- それもおもしろいね。
マイクとして使ってないのに、
真ん中には置いてあるってことだよね。
- 乗組員F
- そういう使い方でしたね。
スタンドはなにを使っていたんだろう。
- 糸 井
- 真ん中にサンパチがないと、
漫才はやっぱりやりづらいんだろうね。
出てくるときも離れるときも、
起点がないわけだから。
コンパスの軸みたいなもので。
- 乗組員A
- 立つ場所の目印にもなりますよね。
- 糸 井
- 昔のNHKの『のど自慢』も、
もしかしたらサンパチだったんじゃないかな。
- 乗組員A
- あー、漫才だけじゃなく。
- 糸 井
- 舞台にマイク1本だけあるっていうのは、
きっといろんな企画であったはずなんです。
『のど自慢』であろうが、トーク番組であろうが。
- 乗組員F
- そういえば、知り合いのエンジニアの人に、
サンパチの特性について訊いてみたんです。
「あれってどんなマイクなんですか」って。
その人いわく「三味線やお経に合う」と。
音の立ち上がりが、
ちょっとつぶれるみたいです。
- 糸 井
- まさしくNHKだね。
だって『のど自慢』もそうだよ。
立ち上がりがつぶれるというのは、
「音がやらかくなる」ってことですから。
声にエッジが立ってたら、ちょっと嫌だもんね。
- 乗組員A
- なるほど、音がやわらなくなるんだ。
- 乗組員F
- ウィキペディアの情報ですけど、
大瀧詠一さんの『A LONG VACATION』は、
サンパチマイクで歌声を録ったそうです。
- 一同
- えっ!
- 乗組員D
- えっ、それすごくないですか?
- 糸 井
- くちびるつんと尖らせて~♪
- 乗組員A
- あの名盤がサンパチから!
- 糸 井
- 大瀧さんの近くにいた方なら、
もしかしてサンパチのことも知ってるかもね。
- 乗組員A
- ぜんぜん漫才だけじゃないですね。
- 糸 井
- そういえば、サンパチっていつからあるんだろう。
- 乗組員D
- (ウィキペディアを見ながら)
‥‥ええと、1970年のようです。
「サンパチの原型になったモデルが
『NHK紅白歌合戦』ではじめて使われた」と。
- 一同
- へぇーーっ。
- 糸 井
- ということは、
高橋圭三さんも使ってたかもしれないね。
「どうもどうも、
高橋圭三(たかはしけいぞう)でございます」
‥‥って、いまの人は知らないか。
- 乗組員D
- NHKのアナウンサーの方ですよね?
- 糸 井
- そうそう。
「圭三プロダクション」というのがあって、
そこでアナウンサーを育成していたんです。
「どうも、どうも、どうも。
高橋圭三でございます。
事実は小説より奇なりと申しまして」
- 乗組員A
- 聞いたことあるような(笑)。
- 糸 井
- 高橋圭三さんは『私の秘密』という
番組もやっていたんですけど、
あれはサンパチよりもっと前ってことか。
- 乗組員A
- サンパチの前の機種ってことはありえますね。
- 糸 井
- 漫画の話をするときに、
Gペンとかカブラペンとか、
道具の話ってみんなが盛り上がるんですよ。
そういうものと似てますよね。
表現が「線」じゃなくて、
「話(わ)」というちがいなだけで。
- 乗組員A
- 「話芸」の道具。
- 糸 井
- そもそも「サンパチ」という専門用語を、
ぼくらが知っているのがおかしいよね。
みんなは、なんで知っているんだろう?
- 乗組員A
- ぼくは芸人さんのラジオですね。
ダウンタウンが
31年ぶりに漫才をして話題になったとき、
他の芸人さんたちが
「サンパチマイクが出てきて興奮した」
って話をしていたんです。
そのときに
「あのマイクってそんなに象徴的なものなんだ」
って思った覚えがあります。
- 糸 井
- フリートークじゃなくて、
漫才をやるんだっていうね。
「ガキの使い」のときは、
サンパチは置いてなかったですもんね。
- 乗組員A
- なかったです。
- 糸 井
- センターマイクを置いた途端に、
芸人さんたちの意識は変わるんだろうね。
逆に「M-1」は絶対マイクが要るわけで、
そのへんの話にも興味があるなぁ。
(つづきます)
2026-03-07-SAT
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