前回の福井県は、冒頭で
飛騨牛について語りましたが、
今回の県も、牛で有名です。
しかしながら、みうらさんにとっては
牛を上回る、
大きな存在がありました。
山形県 即神仏、青春の光と影
ほぼ日
次は、山形県です。
「語り県地図」が
なんだか地つなぎになる傾向がありますね。
みうら
ああー、好きなんだ、山形県は、
ほんとに好きなんだ。
山形県の鶴岡に、お寺があるんです。
そこには、
鉄門海上人(てつもんかいしょうにん)
という方の、即身仏(そくしんぶつ)が
おられるんですよ。
ほぼ日
即身仏。
断食してそのまま
ミイラのようになるという‥‥?
みうら
鉄門海上人という方は、
鶴岡にやってきて修行されたんですが、
途中でね、
知り合いの遊女が訪ねて来たんですよ。
煩悩を絶とうと思ってたときに、
セクシー攻撃されたんでしょう、きっと。
いちおう伝説ですよ、これは。
ほぼ日
はい、はい。
みうら
これはいかんと思って
鉄門海上人は自らの手で
金玉を引きちぎり、
川に投げた
という伝説があるんです。
その、金玉のカリカリになったようなものも、
現存しているといいます。
山形といえば、松尾芭蕉が「おくのほそ道」で
“しずかさや いわにしみいる せみのこえ”
という句を山寺で詠みましたが、
この地にはしゃべってはいけないことがある、
というような内容の芭蕉の句もあるんですよ。
ほぼ日
“かたられぬ ゆどのにぬらす たもとかな”
というのもあるようですね。
みうら
それはたぶん、即身仏のことじゃないかと
いうことになってるんです。
ほぼ日
はあ。
みうら
即身仏というのは、そもそも、
弘法大師空海が中国から持ち帰った
「即身成仏義」という巻きものから
はじまっているんじゃないかと思います。
生きながらにして仏になるという、
まぁ、ちょっと前でいうと、
“生きながらブルースに葬られ
 ジャニス・ジョップリン”
というような状態です。
そこには、そういうようなことが書いてあった。
しかしそれは、「悟る」という意味であって、
ミイラ化することではないとは思うんですが、
曲解をされたのか、
そういうシステムができたのかどうかは
ぼくにはわかりません。
ほぼ日 はい。
みうら
日本全国各県にも
即身仏は何体かありますが、
とにかく山形に多いんです。
山形=即身仏、
即身仏=山形、
みたいなことになっています。
ほぼ日
なぜ山形に集中しているんでしょう?
みうら

例えば、湯殿山にバスで登って行きますと
注蓮寺(ちゅうれんじ)と、
大日坊(だいにちぼう)があります。
注蓮寺には鉄竜海上人が、
いっぽう大日坊には
真如海上人(しんにょかいしょうにん)が
おられます。

ほぼ日 即身で。
みうら ええ、即身で。
その方には、強い思い出があります。
ぼくは、小学4年生のときに、
仏像に光を見て以来、
友達をどんどんなくしていく
仏像趣味に入っていったんですが、
京都の藤井大丸というデパートの催事で
出羽三山のミイラ展をやっていたんですよ。
そこに「即身仏」って書いてあった。
よく知らないし、
「仏」と書いてあったら仏像だ、と思って
見に行ったところ、
黒い人だったんです。
黒ーい人が、ガラスケースにお入りになって
わりにこう、ダラッとなってるんですよ。
これは、仏像なのか?
仏像に、入れていいのか?
すごく悩みましてね。
その頃、ぼくは仏像の写真を集めて
スクラップ帳に貼っていたんですが、
弥勒菩薩の横に、黒い人を貼った場合、
なんだかちょっと違和感があるんです。
ほぼ日 それは、むずかしい問題ですね。
みうら 仏像ブームの前に、ぼくは
小学1年生から4年生まで
怪獣のスクラップをやっていました。
ところがあるとき、
『猿の惑星』という映画が封切られて、
そこにはオランウータン人とか
チンパンジー人のような人たちが
出演していました。
これは、怪獣なのか、怪人なのか、
というよりサルじゃねぇか。
小学生のぼくに、ものすごく疑問がわきました。
ゴジラの写真の横に
チンパンジー人の写真を貼ったとき、
どうしようもない違和感があって、
それで、怪獣ブームをやめました。
時を経て、即身仏を弥勒の横に貼ったとき、
またすごい悩みがやってきて、
仏像ブームをやめたんです。
ほぼ日 分類について、ひじょうに
厳密でいらしたんですね。
みうら

そこからプツッと30歳くらいまで、
仏像ブームは、来ませんでした。
それほどのインパクトを与えてくれた
真如海上人でした。
このように、即身仏は、
仏像ブームが絶たれることとなった
原因でもあったんですが、
人生って、やっぱり
リバーシブル
じゃないですか。

ほぼ日 え?
みうら 好き嫌いが入れ替わる、ね?
服にはさ、
オモテに「好き」って書いてあって、
ウラが「嫌い」って書いてあるでしょ、
だいたい。
ほぼ日 はあ。
みうら

何だって、裏返しにも
着られるわけですよ。
40歳を超えたあたりで
裏返しに着てみたところ、
即身仏が気になりだしました。
ほら、こんなに本も出てるんです。
最終的に、ぼくは6200円もする
『日本ミイラの研究』というものまで
買ったんですよ。



ほぼ日 1冊で、6200円。
みうら

「即身仏、ものすごく流行ってる!」
という証拠が
ここにあります。
湯殿山は大日坊の、
真如海上人テレカです。



ほぼ日 ‥‥‥‥‥‥。
みうら もう、こういうのが出てんですよねー。
しかし、このテレカでいったい
誰に電話をかけるというんですか?
霊界にでもかけるんですかね、これは。
ちょっとおしゃれな飲み屋で
彼女が電話したいな、なんて言ったときに
「あ、貸すよ」って
パッとこのテレカを渡したら
どう思われるんでしょうか。
ほぼ日 ええっと‥‥。
みうら あ、即身仏はもういい?
あとはね、山形県には、
「化けものまつり」というお祭りがあります。
昼間っから、みなさん、
お酒飲んでるんですけどね。
ほぼ日 そういうお祭りなんですか?
みうら ええ。編み笠のようなもので顔を覆い、
道行く人に、ちゅーっと
酒をふるまったりするというだけの祭りです。
着物着て、駅前で。
ほぼ日 駅前で?!
みうら ええ、駅前にも立っておられました。
ま、観光客が来ると
見込んでのことだったのでしょう、
ぜんぜん来ませんでしたけど、
駅前でうろうろされてました。
どう言ったらいいんでしょうねぇ、
‥‥日本だな、と思います、山形県は。
ほぼ日 どういうことですか。
みうら 日本の、青春の光と影が
混在しています。
山形は、駅前が
ロックフェスになってるんですよ。
そんなにたくさんは繁華街がないから、
駅前がサマソニみたいになっているんです。
バンドのさかいめのところに座っていたら
どっちの歌かわからないくらい、
夜は合戦なんですよ。
ほぼ日 音楽活動が盛んなところなんですね。
みうら ええ。やりきれない気持ちをそこで発散、
ということじゃないでしょうか。
ほぼ日 背後に湯殿山の
即身仏がひかえている場所で。
みうら ああ、そうそう、湯殿山には
湯殿山ホテル以外に
宿泊できる場所がほとんどないんですが、
ワールドカップというものがあった日に、
ぼくはそこに泊まったんですよ。
その日は、日本対日本以外の国の試合が
やっていたらしいんですが。
ほぼ日 日本対日本以外の国‥‥、
みうらさんは、サッカーに
あまり興味がおありじゃない、と。
みうら それまで日本中みんながサッカーの話題で、
「どこどこのなんとかだ!」とか言ってて
うっさいなー、と思ってたんだけど、
湯殿山ホテルでは一切、
その話題がありませんでした。
腰の痛みなどの話は出ても、
サッカーの「サ」の字も出ないんです。
ですから、サッカー嫌いは、
そういうところに行ってみるのもいいかもね。
サッカー圏外ですから。
今回のお話をノーカットでごらんになりたい方は
下の動画でおたのしみください。

たしかに、サッカーのアンテナは、
立っていなさそうな、湯殿山。
即身仏が多くおられるその地で、
日常とはちがう空気にふれるのも、
よいでしょう。
ところで、墓を掘り起こすことが
禁止になってからは、
即身仏を掘り出すことができなくなり、
「セミの幼虫のようになって
 出てきていない方が
 けっこうおられるようだ」と
みうらさんはおっしゃっていました。
みなさん、来週もまた、
次の県にまいりましょう。
2007-09-23-SUN
みうらじゅんさん&安斎肇さんが
結成した「勝手に観光協会」作の
すばらしい山形県ご当地ソング
「ガッタ山形」を
どうぞお聞きください。