ビートルズに間違われすぎた
前回の徳島県を経て、
今回は、日本一のもののせいで、
あるものが乱立するようになったという
県の登場です。
徳島県 ビートルズとして国籍超え。
みうら

じゃ、次いきましょうか。
(くじを引く)

ほぼ日 滋賀県です。
みうら

いま、ひこにゃんで
彦根城がクローズアップされていて、
次は奈良県のせんとくん、ということになり、
ここ数ヶ月、毎日のように、
「ゆるキャラ」をテーマにコメントを
求められるようになりました。
必ず、「どう思いますか?」
というひと言でコメントを求められるんですが、
ぼくは、どうとも思いません。
「ゆるいな」ということだけを思っています。

ほぼ日 ゆるい、と。
みうら

どうやら、世の中って
「いい」「悪い」に対しては
すごく厳しくて、
その間にいっぱいあるセンスについては
気づいていないようなんです。
「いい」「悪い」の間には
「ゆるい」とか「つらい」とか
いろいろ入っていると思うんですが、
それが「いいか悪いか」だけを、
特にマスコミは、決めようとします。

ほぼ日 たしかに。
みうら

だからぼくは、そこに
「ゆるキャラ」という名前で
そうじゃない世界があるということを
示したかったんです。
けれどもやっぱり、
ひこにゃんのようなキャラが出現するたびに
「これは、どうなのか」
という話題になります。
滋賀県で、ほんとうにいま、
話題になっていることが、あるのにねぇ。
それをご紹介したいと思います。

ほぼ日 何でしょうか。
お願いします。
みうら

自分は、いろいろと
本を出すこともあるんですけども、
出してもらえない場合は、
自分で本を作ります。

ほぼ日 はあ。
みうら

このように、
「飛び出すな坊や大全 全一巻」というのを
出しました。

ほぼ日 「飛び出すな」?
みうら ま、普通のアルバムで、
世の中に1冊しかないものです。
「滋賀県は飛び出すな坊やだ!」と、
写真を撮りはじめたのが高校時代です。
それからぼくは
何回も調査しに行っているんですが、
これは、滋賀県の、
おそらく湖北のあたりからはじまっている
伝承文化だと思います。
ほぼ日 はあ。
みうら 琵琶湖のまわりは道路が1本なんです。
後ろには当然琵琶湖があるわけですから、
坊やは後ろに行くわけにいかず、
前に飛び出してきますから、
危険です。
そういう理由から滋賀県は、
この坊やのプレートをいっぱい作っていこう、
ということになったんでしょう。
それから、このプレートは伝言ゲームのように
琵琶湖の周囲を伝わっていくことになりました。
「坊やは、ツバのある帽子をかぶっていた」
「目がくりくりしている」
「手はブンッと前に出している」
ほぼ日 そんな伝言が。
みうら

伝言があやふやになって、
伝来ミスを起こし、
形があまくなってきていることが
写真で認められると思います。
たとえば、この帽子のツバ部分。



これは帽子のツバなのか、または、
頭になにか赤いものをつけているだけ
なのでしょうか。
これを制作した人はきっと、
「何かがここにあったぞ」というだけで、
とりあえず入れているんだと思います。
「目がクリクリしてるって言われたから
 まつ毛があったほうがいいんじゃないか」
とか、そういった出鱈目のようなことを
地区ごとにどんどん考えていき、
この写真の坊やは
最終的にツバがオールバックになって
怖い人になっています。



手の部分の表現もよくわからなくなって、
さまざまなものが生み出されています。

ほぼ日 すごいですね。
みうら

しかし、この坊やはそもそも、
何をしてたかということなんです。
ボールを取りに行ったんですよね?
プレートの中にボールが描かれていないと、
何のために飛び出してるのか
わからないわけです。
ボールどころか、何の状態なのか
まったくわからなくなっているものがあります。



そして、最終的に、
ナナフシのようなことにもなっています。
これは、簡易化されたんでしょう。
記号化されていく、ということですね。









このようにして、飛び出すな坊やをたどって
湖のまわりを一周すると、
2日くらいかかるんです。

ほぼ日 ふははは‥‥たいへんですね。
みうら

ぼくは車の免許がないものですから、
たいへんでしたけれども、
みなさんは、大人なんですから
車の免許を持っておられると思います。
湖北から入って、湖のまわりの道路を
ぜひ一周してみてください。
文化が変遷していくようすが、
琵琶湖一周で体験できます。
湖北からはじまったポップアートが、
最終的に純粋な芸術になっていくさまを
滋賀県で味わっていただくとよいでしょう。

ほぼ日 伝来ミスが、しまいには
ナナフシのような前衛芸術に至るわけですね。
みうら

ある道路では、
見渡したところに10人くらいの坊やが
こちらをのぞいてる場所が、あります。
それは、すごい光景です。
おちおち運転もできないくらい
魔の地帯です。

ほぼ日

そういえば、みうらさんの事務所の入口には、
土佐犬のペスと並んで、
飛び出すな坊やがいつもいますね。

みうら 滋賀県のホームセンターには、
飛び出すな坊やが売っているんです。
正確には値段を忘れましたけど、
これは3500円とか4000円ぐらい
だったでしょうか。
ほぼ日 ずっとおみやげものだと
思ってましたが、
実用品なんですね!
みうら ええ、ホームセンターで売ってます。
ほぼ日 ここで、読者の方からの
おたよりを紹介します。
みうら はい、お願いします。
ほぼ日 「滋賀県は、琵琶湖のせいで
 地面が狭いと言われますが、
 実は琵琶湖は
 滋賀県の6分の1です(まるつ)」
みうら わかります、わかります。
京都府の碁盤の目の話もそうでしたが
滋賀県の人たちは、琵琶湖の中に住んでいると
思ってる方が多いと思います。
海底人じゃないんですからね。
淵のほうが面積が広いんですよ。
ご存知ない方は、
琵琶湖というプラモデルを
考えてしまうと思うんですが、
滋賀県の陸地はバリじゃありません。
広いです。
ほぼ日 (あまりプラモデルを発想しませんでしたが)
はい。
しかし、6分の1とは、
思っていませんでした。
みうら 広いですよ、滋賀県は。
三井寺(みいでら)のある大津のあたりから、
右端にも伸びてますからね。
滋賀県の湖南、
柿の種のように細くなった部分にも
いろいろあります。
そういえば、湖南には
檪野寺(らくやじ)というお寺が
あるんですけども、
そこのご住職は、イケジュウでした。
ほぼ日 は‥‥いけじゅう?
みうら イケてる住職、イケ住です。
やっぱりね、お坊さんのなかにも、
俗な人も、おられます。
しかし、その檪野寺のご住職は、
もう90歳近い方だと思いますけれども、
すごくエネルギッシュな方で、
とても痰が絡んで
話が聞きにくいんです。
それがすごいおもしろかったです。
ほぼ日 ははははははは。
それが、イケ住ということですか?
みうら ごめんなさい、話しているうちに、
全然違った話になっちゃいました。
でも、その方がイケ住であったことは
たしかです。
ほぼ日 ところで、飛び出すな坊やですが、
「飛び出し」坊やでいいんじゃないでしょうか。
みうら 昔はそう呼んでましたけど、
あたり屋みたいになる感じがするでしょ。
だから、「飛び出すな」じゃないのかな、
と、思ったんですよ。
ほぼ日 でも、看板は、
車の人に向けたメッセージですよね。
みうら 車の人も気をつけなきゃなんないですけど、
坊やも飛び出すなよ、
ということだと思うんです。
飛び出さなかったら
何の事件も起こらないわけですから。
ほぼ日 ああ、そうですね。
「飛び出し」では考え方が車本位すぎました。
みうら そうなんです。
やっぱり、因果応報の因は
飛び出すからなんです。
ほぼ日 そうですね。
発信元は、坊やですね。
みうら 主人公は坊やです。
今回のお話をノーカットでごらんになりたい方は
下の動画でおたのしみください。

滋賀県の琵琶湖の周囲に存在する
飛び出すな坊やの看板は、
ものすごい数だそうです。
ですが、みうらさんは、
この「飛び出すな坊や大全 全一巻」
に収められている写真が
全部だとおっしゃいます。
すごいです。
来週の県も、おたのしみに。

2008-06-15-SUN
みうらじゅんさん&安斎肇さんが
結成した「勝手に観光協会」作の
すばらしい滋賀県ご当地ソング
「びわ湖一円」をどうぞお聞きください。