このコーナー、ひたひたと
カウントダウンがはじまっていることに
お気づきの方、
いらっしゃいますでしょうか。
今回は、仏像好きのみうらさんにとって
親しみが深い県の登場です。
奈良県 仁王像に睨まれる不自由さ。
みうら

(県のくじを引きながら)
ああ、もう残りの県が少なくなってきたね。

ほぼ日 はい。じつはラスト8県です。
みうら

こんだけ少ないと日本もさみしいね。

ほぼ日 ‥‥ええっと、次の県は
奈良県です。
みうら

あのですね、
奈良県は、夜が早いんですよ。

ほぼ日 え?
みうら

旅人としては、
夜、飲みにも行きたいわけですが、
やたらと店がやってないんです。
いまは、近鉄の奈良駅近くが
繁華街になり、クラブもあるほどですけれども
少し前までは、ほんとに何もなくて、
しょうがないから、
ホテルから外に出て、
東大寺に行ったもんです。

ほぼ日 はあ。
みうら

東大寺は、南大門のあたりは夜も入れます。
伽藍の中を進んでいくと、
遠くほうで、目が光ります。
それは、鹿の目です。
ものすごく集まってるんです。
昼間は観光客が
ものすごく集まってますけど、
夜は鹿がものすごく集まって
観光してるんですよ。

ほぼ日 ‥‥なるほど。
みうら 池のほとりなんて、
びっちり鹿がいます。
昼間、みんなは数匹の鹿を見て、
「かわいい」とか言ってますけれども、
夜はかわいくないです。
ものすごいですから。
観光客よりも鹿の数が多い場合は、それはもう
猿の惑星と同じ状態ですから、
鹿の惑星です。
ぼくたちのほうが変だ、ということで、
鹿がギロッと見てくるわけですよ。
「キュー、キュー」って鳴きます。
「なんだか変な奴来た」とか、
「フンたれるんじゃないか」などと
思われてると思うくらい、怖いんです。
ほぼ日 怖いのに、東大寺に行くしかない、と。
みうら それほど、夜の奈良県は
行くところがなかったんです。
そうそう、いま、
東大寺の南大門周辺は、
ライトアップされる時期がありまして、
なかなかいいムードなんですよ。
ライトアップの時期に
奈良ホテルあたりに泊まられた方は
東大寺の夜の散策をされるといいでしょう。
ただし、カップルの方だけですよ?
カップルじゃないと
まちがいが起きますからね。
そして、ライトアップされた場所で
運慶、快慶作の仁王像を
ロマンチックな気持ちで
見上げることができるでしょう。
しかしそこはやっぱり、仁王像の
阿行(あぎょう)吽行(うんぎょう)から
喝が入ります。
「何やっとるんだ」
「いまの政局はどうなっとるんだ」
とか、問うてきますよ。
ほぼ日 政局まで。
みうら

そうやって
「君たちのその煩悩はいかがなものか」と
右から左から叱られながら
ロマンチックな気分になるのも
一興ではあると、ぼくは思うんです。

ほぼ日 仁王像からですか。
みうら

ぼくは、19歳で上京してから
何かひとつ、物足りなさを感じていました。
それは、自由だからなんですよ。

ほぼ日 ???
みうら

彼女が家に来ようが
彼女の家に行こうが、
誰にも何も言われないんです。
はじめはそれが自由で楽しかったけれども、
おかんがいつ飛び込んでくるか、とか、
おやじが「もう、たいがいにせい!」と
ドアぐちで言うかとか、
昔はそうやってドキドキしながら、
少ない自由を貪り食ったもんですよ。
叱られる状況で調子こく、
というハラハラ感は、
人間としてはわくわくするものです。

ほぼ日 仁王像に睨まれるくらいが
ちょうどいい自由さである、と。
みうら

そうやって、東大寺を回ったあと、
まだ夜に困られてるみなさんには、
竹の館というおでん屋さんの存在を
お教えしましょう。
そこは、たぶん、
夜の1時か2時くらいまでやってたと思います。
それなら安心でしょう、みんなも。

ほぼ日

竹の館ですか。

みうら 竹の館というお店です。
そこをタクシーの運転手さんに教えてもらって
ぼくは奈良の夜から救われたんです。
ほぼ日 そんなに夜にご苦労を‥‥。
みうら ぼくもいまは精進して、
朝早く起きるようになりましたが、
リビドーが高い頃は
夕方に起きるような人間だったので
寝ないで朝に奈良に行って、
寝ないでお寺を回って、仏像を鑑賞し、
テンションが逆に高くなって
夜に寝られなくなって、
しょうがなくなってしまっていました。
どうしていいのかわからず、
お寺がせめて
セブン-イレブンであれば
思っていたときもありました。
ほぼ日 はははははは。
みうら いかんせん、お寺は
閉まる時間が早いんです。
いまは「4時半」というところも
多くなってきました。
不摂生な観光客は、ウトッとしてたら、
お寺はみんな閉まってしまいますよ。
ほぼ日 寺に入れたとしても、
4時半でもう解放されるんですね。
みうら そうです。
4時半からどうすればいいんですか、
ということなんですよ。
「奈良はいにしえの都だ」
なんていいますけど、夜は真っ暗です。
さぁ、どうしましょう、ということは、
JR東海も教えてくれないです。
ほぼ日 寺中心の観光は、4時半から
ひまでひまでしょうがないということを
肝に銘じておいたほうがいいですね。
みうら 奈良県といえば、みなさんにとって
若いころに修学旅行で連れて行かれた、
というところでしょう。
そこで最終的に見たのが、
東大寺の大仏だと思います。
そこから仏像に関する記憶が途絶えている方は
いまでも仏像を見ると、
「大仏、大仏」とおっしゃいます。
言っておきますが、
大仏というのは大きな仏のことであり、
あだ名なんですよ。
本名は「盧舎那仏(るしゃなぶつ)」
と言います。
ものごとを大きく把握しないで、
仏像のひとつひとつの名称を
わかっていただけると、
奈良を巡って、仏像ひとつ見ても、
おもしろくなっていくと思います。
東大寺だって、大仏殿だけじゃありません。
大仏殿の左には戒壇院(かいだんいん)という
日本一ハンサムな四天王がいるんです。
四天王ビートルズ状態の人ですよ。
ほぼ日 そうなんですか。知りませんでした。
みうら きっとびっくりしますから、
ぜひ、行ってください。
40過ぎたら修学旅行だ、と思って
心して、もう一度修学旅行
気持ちで行かれると、よろしいと思います。
中学生のころは、コクることばかり
考えていたと思いますが、
その歳になると、もう、
コクる人もいないでしょう。
その時期でコクってるようでは、
将来も大変です。
ほぼ日 ははは。
みうら ぼくは、こういう仕事が
フェイドアウトしましたら。
ほぼ日 フェイドアウトするんですか。
みうら まぁ、仕事先の方から
「いらない」と言われましたらですね、
最終的には、ベレー帽をかぶりまして、
おばさんを連れて、
奈良の仏像を得意げに解説している
おじいさん、
あれをやろうと思ってます。
ほぼ日 ガイドのおじいさんの。
みうら そのとき、きっとみなさんと
お会いすることがあると思います。
ベレー帽をかぶって、
禿げていなかったら
きっと長髪でいると思いますので、
「あ、みうらだ」と
思っていただければうれしいです。
今回のお話をノーカットでごらんになりたい方は
下の動画でおたのしみください。

ロン毛でベレー帽をかぶり、
たくさんのおばさんから
ドッと笑いを取っている
すごくうまい仏像解説のおじいさん。
いつか、そんなみうらさんも
見てみたいとは思います。
しかし、もうしばらく、
そのままでいていただきましょう。
また次の日曜、おたのしみに。

2008-06-22-SUN
みうらじゅんさん&安斎肇さんが
結成した「勝手に観光協会」作の
すばらしい奈良県ご当地ソング
「ブッツ仏像」をどうぞお聞きください。