糸井 |
話を戻すと、そもそも、
落語のソフトというのは、
レコードにしろ、CDにしろ、お店では、
ものすごく目立たないところにしか
置かれなかったわけですよね。
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志の輔 |
ええ、ええ。
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糸井 |
小さい店じゃ、ほとんど置かれてなくて、
置かれてたとしても、
サントラとかアニメの歌とかといっしょの棚に
お店が「いちおう置いてあげるよ」っていって
置いてもらってたわけです。
でも、音声データというかたちで
「iTunes Music Store」から販売すれば、
売場の棚のことは気にかけなくていいんです。
そういうレベルじゃ、なくなっちゃうんです。
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志の輔 |
うーーーーん。
いやいやいや、驚いた。
すごいことになっちゃったんですねえ。
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糸井 |
いわば、お客さんと、つくり手が
直でつながるようなものですから。
そういう道ができてしまったんですよ。
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志の輔 |
なるほど。
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冨田 |
たとえば、おもしろい落語のCDを
いくらおすすめしたとしても、
お店にそのCDがなかったら、
その人が落語に触れる機会は
それだけで遠ざかっちゃうんですよ。
それが、こういう形で気軽に買えるようになると
バンバン広がるというか。
とくにまだ落語のおもしろさを知らない
若い世代の人たちのところに。
CDを買って、それをiPodに入れてっていうと、
買うのも苦労だし、入れる手間もあるんですけど、
パソコンにデータがすぐに入るとなると
ものすごく距離が縮まると思うんです。
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志の輔 |
そうですねぇ。
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西本 |
個人的にぼくは、
落語をカーステで聴くのが好きで、
人とドライブするときとか、
渋滞のときなんかに
ほんとに重宝してるんですけど、
買う機会さえ増えれば、
そういうことも一般的になっていくだろうなあと。
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冨田 |
いまは、iPodをカーステにつなぐ人も多いですし。
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志の輔 |
はぁーーー。なるほどねぇ。
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糸井 |
あの、あえてひとつ、逆の話をしますと、
いままで落語のファンだと思われてた人、
寄席に通っているような人の多くは
パソコンを持ってない人なんですよ。
だから、そういう落語ファンにとっては
馴染みにくい販売方法かもしれない。
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志の輔 |
そうでしょう。
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糸井 |
ところが、ぼくらのやりたいことっていうのは、
「パソコンを持ってるような人たちが
おもしろそうに落語の話をする」
っていうことなんですよ。
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志の輔 |
ああああ、そうか。なるほど。
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糸井 |
新しい人たちに、
おもしろい遊びとして、
落語を教えてあげたいんです。
それは、昇太さんと
「はじめての落語。」をやったときから
ずっと変わらないコンセプトなんです。
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志の輔 |
はい‥‥はい‥‥。
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糸井 |
やっぱり、まだちょっと、
ピンとこない感じですか(笑)?
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志の輔 |
えぇとね、その、考えてみるとですよ?
長い時間かかって、
はじめて自分がCDを出したときの
喜びがなんだったかっていうと、
発売日になって、石丸電気へ行ったとき、
CD売場の落語のコーナーに、
志ん生、文楽、米朝‥‥ってあったところに、
自分のCDがあったときの、
あの、背表紙を見たときの、あの喜び!
その喜びが、ないんじゃないかと(笑)!
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一同 |
(爆笑)
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志の輔 |
ま、ようするに、心配というか、
ピンときていないのは、
まあ、そういうことでね(笑)。
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糸井 |
わかりますよ(笑)。
でも、聴く人の数は圧倒的に増えますよね。
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志の輔 |
そりゃ、そうですよね。
だから数でいうと話にならないんだけど、
あのレコード屋の棚に並んでいるっていう
喜びはもう‥‥。
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糸井 |
それは、ないですね。
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志の輔 |
忘れていかなきゃダメなんですかね。
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糸井 |
いや、それは、つまり、
文庫本出してる人と同じですよ。
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志の輔 |
文庫本?
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糸井 |
たとえば夏目漱石がいま生きててね、
自分の本が文庫本になってると知ったら、
腑に落ちないと思うんですよ。
新潮文庫の棚かなんかを本屋で見てね、
「なんで自分の本が、
この『糸井重里』なんかと
並ばなきゃいけないんだ!」と。
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志の輔 |
アハハハハハハハ。
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糸井 |
「なんだ、この『椎名誠』は!」と。
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志の輔 |
ふはははは、なるほどね(笑)。
うわあ、こりゃ頭のなかを、
1回全部追い出さない限り、
話を聞いてて驚いてるばっかりになっちゃうな。
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糸井 |
とにかく、いちばん重要なのは、
ライブの価値が圧倒的に上がったってことですよ。
ソフトを生み出す人が強いんです。
それが、本来のかたちですよね。
流通する人や、お店の人も大切ですけど、
やっぱり、その場でそれを
生み出す人がいちばんすごいんですよ。
だから、いちばん重要なのはライブです。
志の輔さんのライブも、ふつうの人は
気軽にチケットを取れない状態ですよね。
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志の輔 |
そうですねぇ。
だから、もどかしいのは、
チケットが売り切れたときに、
それはとってもうれしいことなんですけど、
入れなかった人が、
10人なのか、100人なのか、
ぜんぜんわからないってことで。
とにかくもう、売れてしまうと、
中に入れた人に向かって
一所懸命しゃべるしかありませんからね。
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糸井 |
あああ、そうですねえ。
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志の輔 |
このまえも、おかげさまで
チケットが10分とか15分で売れてしまって、
買えなかった人にご迷惑をおかけしたんですけど。
その高座にあがったときに
「このたびはチケットのことで
いろいろご迷惑をおかけしまして‥‥」
ってしゃべったんですけども、
「いや、考えてみたら、みなさんは
入れたんですから、いいんですよねぇ」って。
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糸井 |
ははははははは。
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志の輔 |
会場に入れなかった人たちに
「ごめんなさい」
って言わなきゃいけないものを、
入れた人に言ってる場合じゃない、
っていう、
よくわかんないことになってまして。
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糸井 |
でもその高座をすぐに販売できたら、
その状況も変わってきますよね。
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西本 |
チケットについて、
もうひとつご報告しておくと、
このイベントのチケットは
「完全抽選販売」にしようと思ってます。
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志の輔 |
ああ、そうですか。
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糸井 |
それがいいでしょうね。
昇太さんのときもそうだったけど、
「行きたい!」っていう
基礎票が多すぎるでしょうから。
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冨田 |
昇太さんのときはペアで販売したんですけど、
はじめての人が誘い合ったり、
落語に慣れている人が
はじめての人を連れてきたりして、
すごくうまくいったんですよ。
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志の輔 |
ああ、それはすばらしい作戦でしたねえ。
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