志の輔 |
古典をそのまましゃべるということでいうと、
ほんとだったら、最初にその噺をつくった人に
ぼくらは印税を払わなきゃいけないわけです。
ところが、落語の場合、
なぜかそれをしなくていいんです。
あれ、一席しゃべるごとに印税を払うとすると、
かなーり、私たちは
困窮することになると思うんですが(笑)。
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糸井 |
それは痛いですよね(笑)。
そっか、印税はないんですね。
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志の輔 |
落語には印税がないんですよ。
印税がないから続いてきた世界なんですけど、
印税がないおかげで、
栄えなかった世界であるともいえるんです。
というのは、
もしも印税を払ってしゃべるとすると、
その元を取り返さなきゃいけないから、
絶対にウケることをやらないといけないわけです。
1万円の印税を払ってしゃべって、
5000円のギャラだったら儲からないんですよ。
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糸井 |
あーー、いい話だなぁ(笑)。
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志の輔 |
つまり、印税がないおかげで、
ぼくら落語家は、のほほんと暮らせるんです。
そのかわり、印税がないおかげで、
みんな、そんなにひっちゃきにならなくても、
「今日も明日も大丈夫」なんですよ。
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一同 |
(笑)
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糸井 |
そうかぁ、JASRACが
突如集金に来たりはしないわけですね。
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志の輔 |
そうなんですよ。
まえに、びっくりしたことがありましてね。
富山の放送局で、故人の落語のCDをかけて、
前後の枠を私がつけるという番組があるんです。
で、CDをかけるんだから、
「著作権はちゃんとしといてくださいよ」
と言ったら、
放送局の人がJASRACに電話したんですよ。
「もしもし、あのー、
落語をかけたいと思うんですけど、
著作権のほうは
どういうふうにしたらいいんでしょう」
とラジオ局の人が訊いたら、JASRACの人が、
「いやー、ウチでは
落語というのは扱っていませんけれど‥‥
いいんじゃないんですかぁー」
って言われて(笑)。
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糸井 |
あはははははは、すごい(笑)!
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志の輔 |
信じられないような話ですよ。
売り出されていれば、
もう、その時点で著作権はないんですよ。
すごいですよねぇー。
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糸井 |
新作(その人が創作したオリジナルの噺)
なんか、どうなるんですかね?
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志の輔 |
新作でもなんでも、ぜんぶ。
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糸井 |
じゃあ、志の輔さんの新作を
他の落語家がそのままやるということも
ありうるわけですか。
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志の輔 |
いやいや、もちろん、
そういうことはやっちゃいけないという
不文律はあります。
もっというと、古典にしても、
「誰かに教わったものでないと
やってはいけない」
という不文律があるんですよ。
なぜ、そういう不文律ができたかというのを
自分なりに考えてみると、
おそらく、昔はそれが、
米びつだったからだと思うんです。
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糸井 |
ああ、メシのタネですね。
いわば、マジシャンにとっての手品のタネだ。
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志の輔 |
そうなんです。
ところが、いまはデパートで
手品のタネが売っている時代ですから‥‥。
そうなってくると、
「あれは、オレが考えた」
とかいう問題ではなく、
「売ってるんだから、やっていいじゃん」
っていうふうになっちゃうんですよ。
「CDで発売されているものを
覚えちゃったんですよぉ」っていう状態。
だから、まあ、やろうと思えば、
私の新作だってなんだって、
そのまんまやれちゃうんです。
「いくらなんでも生きている人の新作を
そのままやるのは申しわけない」という
ハートの問題でやらないことに
なってますけどね。
だから、私たちが著作権なしで
のほほんと古典を使っていたことの
しっぺ返しが、ここで来てるんですよ。
自分のものにも著作権はないんですよ(笑)。
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糸井 |
いーい話だなぁ(笑)!
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