糸井 |
昇太さんは、
ただの落語好きだった学生のときから、
真剣に落語家を目指してたんですか? |
昇太 |
う〜ん、そうですねえ‥‥。
あの、ぼく、中学校のときに、
ブラスバンド部にいたんですね。
で、いちおう3年間やったんですけど、
あんまり音楽の才能がないなって
わかったんですよ。で、高校に入って、
今度はソフトボール部に入ったんですね。
ソフトボール部ができたばっかだったので。 |
糸井 |
うんうん。ちょっと楽そうなところを選んで。 |
昇太 |
ははははははは。いや、うちの学校って、
すごくスポーツ盛んなところだったんで、
ブラスバンド部やってた者としては、
野球部なんか、とても無理なんですよ。 |
糸井 |
(笑) |
昇太 |
それで、高校時代はソフトボールを
やったわけなんですけど、
ま、スポーツの才能ないなって
わかったんですよ。 |
糸井 |
あー(笑)。
音楽はダメ、スポーツもダメ、と。 |
昇太 |
ええ。で、大学に入って、
たまたま落語研究部に入って。
で、大学2年生のときに、
『全国学生落語名人決定戦』っていう番組を
日本テレビでやってたんですよ。
これ、いま考えれば恐ろしい話ですけどね。
学生の、落研の大会を
テレビで1時間もやるんですから。 |
糸井 |
ありえないね(笑)。 |
昇太 |
ええ(笑)。で、そこに、
ぼくの先輩が出るはずだったんですけど、
その先輩が気が小っちゃい人で、
大会の直前に失踪しちゃったんですよ。 |
糸井 |
失踪(笑)! |
昇太 |
急にいなくなっちゃって、
みんなで探しに行ったりなんかして(笑)。
でも見つからない。アパートには、
どうもいるらしいけど出てこない、
みたいな感じで。 |
糸井 |
ははははははは。
|
昇太 |
そしたら、「じゃ、おまえが出ろ」
みたいな話になって。 |
糸井 |
ほぉ。ってことは、ちょっとこう、
芽があったわけですね?
おまえが出ろって言われるだけの、
ちょっと光るものが‥‥。 |
昇太 |
いや、ちょっとあったのかもしれないですけど、
ぼくが抜擢された理由はほかにあったんですよ。
その、ぼくに「出ろ」って言った先輩は、
いま放送作家になってるんですけど、
その人、じつは計算ずくでぼくを出したんです。
それはあとになってわかったんですけどね。 |
糸井 |
ほう。 |
昇太 |
っていうのは、大会に出てみたら、
ぼく以外は、ぜんぶ大学4年生なんですよ。
ぼくだけ2年生なんです。
2年生っていっても、その、2年の春だから、
要するに1年間しか落語やってないんですよ。
そのときぼくは、2席しか知らないんです。
『子褒め』っていう噺と、
『まんじゅう怖い』っていう噺。
ほんとにスタンダードな落語、
ふたつしか知らなくて。
ほかの人たちはもう、なんでもやれる人で。
で、その大会では、ぼくが優勝したんですよ。 |
糸井 |
へえ! |
昇太 |
でもこれは、いま考えるとわかるんですね、
なぜ優勝したのか。
だって審査員はぜんぶ落語家だったんですよ。 |
糸井 |
なるほどね。なるほど、なるほど(笑)。 |
昇太 |
そうすると、落語家っぽくしゃべる人は、
つまんないんですよ、落語家にとって。
でも、なんか、こう、
素人っぽいぼくなんかがしゃべると‥‥。 |
糸井 |
新しい空気があるのね。 |
昇太 |
ええ。なんか、こう、
ただ真っ直ぐしゃべってるみたいなやつが
いいな、ってことになったんでしょう(笑)。
だからそのときぼくを推した先輩は、
やっぱ計算したんだと思うんですよ。 |
糸井 |
アンダースロー投入、みたいなことだ。 |
昇太 |
ええ、ええ。みんな上から投げてるから、
「おまえサイドから行け!」
みたいな感じですよ。 |
糸井 |
「ぜんぶカーブで行け!
だっておまえ、
カーブしか投げられないんだから」(笑)。 |
昇太 |
いや、ほんと、そうです(笑)。
「これやればいいの、おまえは」って。
「時間だけは守れ!」とかね。 |
糸井 |
ああ、「時間守れ」かあ。 |
昇太 |
ええ。ほかの人は、持ち時間10分のところを
やっぱ20分やっちゃったりするんですよ。
話し切れなくて。 |
糸井 |
熱があって(笑)。 |
昇太 |
ええ。「この話は20分ないと!」
みたいな感じでやっちゃうわけですよ。
で、その人が言うには、
「これはテレビ番組なんだから、
それやっちゃダメだから」って言って、
「10分から出ないように!
おまえはこれだけ守ればいいから!」って。 |
糸井 |
いいプロデューサーだねえ、その人は。
その人、学生時代に、それがわかってたの? |
昇太 |
その人はもう、大学5年生ぐらいだったんで。 |
糸井 |
5年生っていったってさ、
いま思えば22、23歳じゃないですか。
その歳で、そこまで計算できるやつってすごいね。 |
昇太 |
ま、そのころ、すでに放送作家教室とかなんかに
通ってたみたいですけどね。 |
糸井 |
社会を知ってたんだね(笑)。 |
昇太 |
そうですね。だからもう、
その人の操り人形のようにやって、
あの、全国1位みたいな感じになったんですよ。 |
糸井 |
すごいねぇ〜。 |
昇太 |
そうなると、中学校のときにブラスバンド部で
音楽の才能のなさがわかって、
高校でスポーツの才能ないなとわかって。 |
糸井 |
それで大学2年で落語で優勝、と。 |
昇太 |
「オレはもしかしたら
こっちの才能があるのかもしれない」と、
まあ思うじゃないですか(笑)。 |
糸井 |
それは思って不思議はないよねぇ。
まあ、大正解だったわけだけれど。 |
昇太 |
だから、大学2年生のときに優勝して、
はじめて、その、職業選択のなかで、
「噺家って手もあるな」と。 |
糸井 |
なっるほどねぇ。 |
昇太 |
でも、その当時は
ふたつしか話を知らないんですけどね。
しかも、両方とも10分ぐらいの話(笑)。 |
糸井 |
ははははははは。
|
(続きます!)