糸井 |
昇太さんの理想とする落語家の姿っていうのは
どういうものになるんですかね? |
昇太 |
う〜ん、だから、けっきょく、あれですよね、
落語家って、すごく、その、
好き嫌いがあるわけじゃないですか。 |
糸井 |
ええ。 |
昇太 |
「オレ、この人が好きだけど、キミはどう?」
っていうときに、「こいつ嫌いだよ」
っていうことはいっぱいあるんですよ。
だから、要するに、100パーセント
ウケる落語家なんかいないんですよね。 |
糸井 |
うん。 |
昇太 |
となると、ようするに、
その人間が好きかどうかってことなので。 |
糸井 |
そうですね。そうなっちゃいますよね。 |
昇太 |
ええ。だからこう、その、人間力みたいのがね、
もしあるとしたら必要なわけで。
そういう意味でいうと、
(笑福亭)鶴瓶師匠なんかは、
その人間力を持ってる人だから、
もう、おもしろいんですよ。 |
糸井 |
そうなんですよね。
だから、これからあとの鶴瓶さんはもう、
上手になるばっかりですからね。
トータルに最高のものに
なるかもしれないですよね。 |
昇太 |
そうですよ。これはもう、
すごいことになるかもしれないですよ。 |
糸井 |
宝物になる可能性がありますよね。 |
昇太 |
あります、あります。 |
糸井 |
でも、昇太さんもその意味ではさ、
やっぱり目指すはそういう場所でしょ?
なりたいな、っていうのは。 |
昇太 |
そうですねえ。やっぱり、なんかこう、
おもしろいことじゃない言葉も、
この人のフィルターを通すと、
なぜかおもしろくなってるみたいなのは、
理想なんですよ。だから、たとえば、
「ナス」っていうことばだけで笑える人。 |
糸井 |
あ〜(笑)。 |
昇太 |
べつにその単語はおもしろくなくても、
「牛が‥‥」なんて言ったときに、
なんかおもしろい、みたいな。
最終目標があるとしたら、そこなんですよ。 |
糸井 |
昇太さんのなかにも、それはありますよね。 |
昇太 |
それをやれればね、
いちばんいいなと思ってるんですよ。
|
糸井 |
今度企画する「ひとり会」でも、
そのあたりは期待してもらっていいですよね。
たぶん、たくさんの人が来て、
この企画を落語の「入口」にすると思うので。 |
昇太 |
そうなってくれるといいですね。 |
糸井 |
昇太さんを「入口」にしてくれると
いいなあと思うんですよ。
だって、ぼくは、ものすごく落語のことをね、
好きになってほしいからね。
だから、素直に入ってきてほしいんですよ。
勉強から入ってったら、
落語って、間違える可能性がありますから。
そもそもぼくは、なんで落語に
縁があるかっていったら、ラジオなんですよ。
ぼくは年寄りに育てられたから、
小さいときに、ラジオから絶えず
落語が流れてたんですよ。
で、ほんっとにおもしろいと思ったんです。 |
昇太 |
うんうんうん。 |
糸井 |
だから、「おもしろい!」っていう
素直なところから入ってこられて、
よかったなって思うんです。 |
昇太 |
そうですねえ。あの、ぼくは、
「落語を聴いたことがない」
っていう人たちに対しては、
「とりあえず日本に暮らしてるから、
いいじゃない、1回くらい」
っていう言いかたをしてるんです。 |
糸井 |
あー。なるほどねえ。 |
昇太 |
へたしたら、日本人のなかでも、
1億人ぐらいは落語を聴かずに
死んでいくんだと思うんですよ。 |
糸井 |
そうですねー。 |
昇太 |
それは、ちょっとあまりにも
もったいないじゃない、っていう。
ま、聞いた結果、合う合わないがあるから、
おもしろくないってこともあるかもしれない。
ま、すごく合って、「おもしろい!」って
言ってくれるかもしれない。
それはわからないけど、死ぬ前に1回ぐらい、
生の落語、聴いてもいいんじゃないの?
っていうふうに思うんですよね。 |
糸井 |
はぁ、はぁ、なるほどね。
|
昇太 |
それ、ぼくね、はじめて歌舞伎を
観たときなんかにそう思ったんですよね。
もちろん落語もそうなんですけど、
「へたしたら、生涯、これを聴かずに
死んだのかもしれないな」と思ったらね、
ちょっと怖くなったんですよ、ほんとに。 |
糸井 |
うん。うん。 |
昇太 |
だから、
「長生き」っていう観念があるとすると、
長い時間を生きるっていうことも、
たしかに「長生き」なんだけど、
いろんなものを見たっていうことも、
ま、「長生き」のなかに入ると思うんですよ。 |
糸井 |
ああ、ああ、そうですよね。 |
昇太 |
ま、寿命は決まってるはずだから、
だとしたら生きているうちに、
いろんなものを、自分の興味以外のものも、
たくさん見ようって思って、
ま、ぼくはいちおうがんばってるんですけど。
なかなか難しいことではあるんですけど。
だから、とりあえず、あの、一度。
ま、落語を聴いたことない方は、落語を、
とりあえず聞いてみてちょうだいっていう。 |
糸井 |
そうですよねえ。 |
昇太 |
そうだと思うんですよね。
だから、ま、つまんなくてもいいじゃない、
っていうことです(笑)。そんな、あの、
自信ないわけじゃないんですけど(笑)。
たとえあなたがつまんないと思ったって、
いいじゃない、1回ぐらい、っていう。 |
糸井 |
うん。そのすすめかたは、とってもいいですね。
しかも、そんなふうに言って、
「悪い気はしない」っていう人は、
いま、とっても増えてると思うんです。
だから、まあ、
「日光を観ずに結構と言うなかれ」ってことで。 |
昇太 |
はい(笑)。 |
糸井 |
今日はどうもありがとうございました。 |
昇太 |
ありがとうございました。
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