YAMADA
はじめての落語。春風亭昇太ひとり会

第6回 落語のよさって?



糸井 大学2年で全国優勝したあと、
じっくりまじめに落語を学んで精進する
みたいな方向には
いかなかったわけですよね?
昇太 そうですねぇ。そのときの落研が、
きまじめな感じじゃなかったんですよね。
あんまり古典だ、古典だ、っていう人が
いないクラブだったんですよ。
その、「古典をきっちり稽古しましょう」
みたいなことを言う人は、
わりと端っこに追いやられてたんですよ。
糸井 あああ、なるほど(笑)。
その、ぼくも古典はいいと思いますし、
古典の美しさっていうのは、
ほんとにたまんないなと思うけど、
その、なんていうんだろう、
必要以上に古典を重んじる、
「古典至上主義」みたいな人がいると、
新しい人を入ってこさせなくするような
気がするんですよねえ。
昇太 うん、そうなんですよ。
難しい問題ですけどね、
その、お客さんのことですから。
だいぶ減ってはきてると思うんですけどね、
古典至上主義、みたいな極端な人は。
糸井 過去、個人的につらかったなあと思うのは、
ぼくが落語のことなんかを
なんとなく書いたりするじゃないですか。
昇太 ええ、ええ。
糸井 そうするとね、怒られたりするんですよ。
あのね、典型的だったのは、
毎日僕は落語を聴きながら寝てるんです。
これ、いまもそうなんですよ。
いまは、iPodに入れて聴いてるんですけど、
もう7年くらい続けてて、
それがとってもいいんだってある日書いたら、
「落語を聴きながら寝られるなんて、
 落語をわかってない!」
って言われちゃって‥‥。
昇太 あああ‥‥がっくし(笑)。
糸井 そういうことがあると、もうね、
落語のこと言うのが切なくなっちゃって。
昇太 ああ、ああ。
糸井 それ以来、落語のことを言うときは、
「素人ですが、ホントにすいません」って、
とにかく枕に振るようにしてますね。
昇太 だから、あれなんですよね、その、
寿司屋に行ったときに、
「まずなにから頼んだらいいだろう?」
って考えること自体がおかしいじゃないですか。
好きなもん食やぁいいじゃないですか。
でも、その、なんか「寿司屋うんちく」
みたいなのが出てくるんですよね。
糸井 どーしても知りたいんだったら、
寿司屋に訊けばいいんだよね(笑)。
昇太 「なにから行けばいいですか?」ってね。
糸井 そしたら、
「ま、白身からいったらどうですか?」
とかね。
昇太 ええ。「今日はこれがいいですから」ってね、
言ってくれるわけで。
糸井 そうですよね(笑)。

昇太 そうなんです。ほんとうはね。
でも、落語ってのはまた、
うんちくが言いやすいんですよねぇ。
糸井 ああ、それはぼく自身にもあるからね。
あの、人に落語の説明してるときにね、
「あ、これ、嫌がられてないかな」ってね、
ときどき思うときがあるんですよ。
つまりね、なんだろう、落語にかぎらず、
「いいんだよ!」って言ってると、
つい人が変わっちゃうじゃないですか。
だから、その加減についてだけは
慎重に考えるんですよ。
とくに落語について言うときは、
「もしかしたら危ないな」
っていうことがあるんで、
いつも気をつけてるんですよね。
だから、言いたいことのね、
3割ぐらい言うようにしてるんですよ。
それくらいでちょうどいいかなと思って。
昇太 ああ、そうですねぇ。
糸井 そういえば昇太さんって、
落語自体のよさについて、
あんまり語らないですよね?
昇太 うん、そうですねぇ。ま、それ、
計算して語らないわけじゃないんですけど。
落語の場合は、やっぱり、
「いっぺん聞いてもらわないとわからない」
っていうところがあって。
糸井 あぁ〜、なるほどね。
昇太 だから、うまい料理があったとして、
食材の名前を挙げて、メニューの説明されても、
それがなんだかわからないと、
ぜんぜんわからないじゃないですか。
「これを、こう焼いてあるんですよ」
って言われても、ちょっと困るとこがあるんで。
だから落語の場合は、ほんとにもう、
説明しきれないんですよね。
まあ、「なんとなくこんなものです」
くらいのことは言えますけど。
糸井 そうですねえ。だけど、
「いま、落語を聴いてみたいんです」
っていう人がいて、
「説明できないんですよ」って言われると、
すごく困るんですよね。
実際、「聴いてみたい」っていう人は
多いってことが今回の件でわかりましたし。
昇太 そうなんですよねえ。
糸井 ジャズなんかもそうなんですよ。
昇太 あ〜。
糸井 ジャズって、いまじゃ、ラーメン屋なんかでも
かかってたりとかするじゃないですか。
そうすると、ジャズって邪魔になんないし、
ちょっとこう気持ちいいし、
よさそうだな、聴いてみたいなって
思っている人は多いんですよ、きっと。
ところが、どっから入っていいんだか
わかんないじゃないですか。
昇太 ああ、そうですね。似てますね。
糸井 ええ。だけど、それを、
「聴いてみなきゃわかんないんですよね」
ってとこに収めちゃうと、今度はまた、
聴く場所がない、みたいなことになる。
昇太 はいはいはい。
糸井 それでぼくなんかは、
これは以前にも書いたりしたんだけど、
「おんなじ演目を、いろんな人の噺で聴くと
 おもしろいですよ」っていう
すすめかたをするんです。
よく例に挙げるのは『寝床』なんですけど。
昇太 あ、なるほどねぇ。『寝床』には
落語の要素が、ひととおり入ってますしね。
糸井 そうなんです。
しかも話す人によって個性が出るんですよね。
僕自身がすごく好きな噺でもあるし。
ただ、まあ、そのすすめかたが
ベストなのかどうかはわからないですけど。
昇太 あの、「何人か聴いてみてください」
っていうのはね、やっぱり基本だと思うんですよ。
糸井 あ、そうですか。
昇太 やっぱりね、もう落語って、
噺家の顔の好き嫌いだけでもう、
嫌になったりしますからね。
糸井 そうですね(笑)。
昇太 ええ。だから、僕の落語がね、
「おもしろいから聴いてください!」
って言っても、ドンピシャで
合うかどうかわかんないですからね。
糸井 あ〜。
昇太 だから、何人か聴いてみて、
好きな人みっけてくださいっていうのが
ぼくのすすめかたですねえ。
(続きます!)

2004-08-12-THU

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