糸井 |
大学2年で全国優勝したあと、
じっくりまじめに落語を学んで精進する
みたいな方向には
いかなかったわけですよね? |
昇太 |
そうですねぇ。そのときの落研が、
きまじめな感じじゃなかったんですよね。
あんまり古典だ、古典だ、っていう人が
いないクラブだったんですよ。
その、「古典をきっちり稽古しましょう」
みたいなことを言う人は、
わりと端っこに追いやられてたんですよ。 |
糸井 |
あああ、なるほど(笑)。
その、ぼくも古典はいいと思いますし、
古典の美しさっていうのは、
ほんとにたまんないなと思うけど、
その、なんていうんだろう、
必要以上に古典を重んじる、
「古典至上主義」みたいな人がいると、
新しい人を入ってこさせなくするような
気がするんですよねえ。 |
昇太 |
うん、そうなんですよ。
難しい問題ですけどね、
その、お客さんのことですから。
だいぶ減ってはきてると思うんですけどね、
古典至上主義、みたいな極端な人は。 |
糸井 |
過去、個人的につらかったなあと思うのは、
ぼくが落語のことなんかを
なんとなく書いたりするじゃないですか。 |
昇太 |
ええ、ええ。 |
糸井 |
そうするとね、怒られたりするんですよ。
あのね、典型的だったのは、
毎日僕は落語を聴きながら寝てるんです。
これ、いまもそうなんですよ。
いまは、iPodに入れて聴いてるんですけど、
もう7年くらい続けてて、
それがとってもいいんだってある日書いたら、
「落語を聴きながら寝られるなんて、
落語をわかってない!」
って言われちゃって‥‥。 |
昇太 |
あああ‥‥がっくし(笑)。 |
糸井 |
そういうことがあると、もうね、
落語のこと言うのが切なくなっちゃって。 |
昇太 |
ああ、ああ。 |
糸井 |
それ以来、落語のことを言うときは、
「素人ですが、ホントにすいません」って、
とにかく枕に振るようにしてますね。 |
昇太 |
だから、あれなんですよね、その、
寿司屋に行ったときに、
「まずなにから頼んだらいいだろう?」
って考えること自体がおかしいじゃないですか。
好きなもん食やぁいいじゃないですか。
でも、その、なんか「寿司屋うんちく」
みたいなのが出てくるんですよね。 |
糸井 |
どーしても知りたいんだったら、
寿司屋に訊けばいいんだよね(笑)。 |
昇太 |
「なにから行けばいいですか?」ってね。 |
糸井 |
そしたら、
「ま、白身からいったらどうですか?」
とかね。 |
昇太 |
ええ。「今日はこれがいいですから」ってね、
言ってくれるわけで。 |
糸井 |
そうですよね(笑)。
|
昇太 |
そうなんです。ほんとうはね。
でも、落語ってのはまた、
うんちくが言いやすいんですよねぇ。 |
糸井 |
ああ、それはぼく自身にもあるからね。
あの、人に落語の説明してるときにね、
「あ、これ、嫌がられてないかな」ってね、
ときどき思うときがあるんですよ。
つまりね、なんだろう、落語にかぎらず、
「いいんだよ!」って言ってると、
つい人が変わっちゃうじゃないですか。
だから、その加減についてだけは
慎重に考えるんですよ。
とくに落語について言うときは、
「もしかしたら危ないな」
っていうことがあるんで、
いつも気をつけてるんですよね。
だから、言いたいことのね、
3割ぐらい言うようにしてるんですよ。
それくらいでちょうどいいかなと思って。 |
昇太 |
ああ、そうですねぇ。 |
糸井 |
そういえば昇太さんって、
落語自体のよさについて、
あんまり語らないですよね? |
昇太 |
うん、そうですねぇ。ま、それ、
計算して語らないわけじゃないんですけど。
落語の場合は、やっぱり、
「いっぺん聞いてもらわないとわからない」
っていうところがあって。 |
糸井 |
あぁ〜、なるほどね。 |
昇太 |
だから、うまい料理があったとして、
食材の名前を挙げて、メニューの説明されても、
それがなんだかわからないと、
ぜんぜんわからないじゃないですか。
「これを、こう焼いてあるんですよ」
って言われても、ちょっと困るとこがあるんで。
だから落語の場合は、ほんとにもう、
説明しきれないんですよね。
まあ、「なんとなくこんなものです」
くらいのことは言えますけど。 |
糸井 |
そうですねえ。だけど、
「いま、落語を聴いてみたいんです」
っていう人がいて、
「説明できないんですよ」って言われると、
すごく困るんですよね。
実際、「聴いてみたい」っていう人は
多いってことが今回の件でわかりましたし。 |
昇太 |
そうなんですよねえ。 |
糸井 |
ジャズなんかもそうなんですよ。 |
昇太 |
あ〜。 |
糸井 |
ジャズって、いまじゃ、ラーメン屋なんかでも
かかってたりとかするじゃないですか。
そうすると、ジャズって邪魔になんないし、
ちょっとこう気持ちいいし、
よさそうだな、聴いてみたいなって
思っている人は多いんですよ、きっと。
ところが、どっから入っていいんだか
わかんないじゃないですか。 |
昇太 |
ああ、そうですね。似てますね。 |
糸井 |
ええ。だけど、それを、
「聴いてみなきゃわかんないんですよね」
ってとこに収めちゃうと、今度はまた、
聴く場所がない、みたいなことになる。 |
昇太 |
はいはいはい。 |
糸井 |
それでぼくなんかは、
これは以前にも書いたりしたんだけど、
「おんなじ演目を、いろんな人の噺で聴くと
おもしろいですよ」っていう
すすめかたをするんです。
よく例に挙げるのは『寝床』なんですけど。 |
昇太 |
あ、なるほどねぇ。『寝床』には
落語の要素が、ひととおり入ってますしね。 |
糸井 |
そうなんです。
しかも話す人によって個性が出るんですよね。
僕自身がすごく好きな噺でもあるし。
ただ、まあ、そのすすめかたが
ベストなのかどうかはわからないですけど。 |
昇太 |
あの、「何人か聴いてみてください」
っていうのはね、やっぱり基本だと思うんですよ。 |
糸井 |
あ、そうですか。 |
昇太 |
やっぱりね、もう落語って、
噺家の顔の好き嫌いだけでもう、
嫌になったりしますからね。 |
糸井 |
そうですね(笑)。 |
昇太 |
ええ。だから、僕の落語がね、
「おもしろいから聴いてください!」
って言っても、ドンピシャで
合うかどうかわかんないですからね。 |
糸井 |
あ〜。 |
昇太 |
だから、何人か聴いてみて、
好きな人みっけてくださいっていうのが
ぼくのすすめかたですねえ。
|
(続きます!)