コンピュータを用いた設計は、
現代ではほぼ欠かせないものになっています。
ひと昔前までは、図面を描くときには
ドラフターや平行定規という道具を使って
人の手で描いていましたし、
面積を算出するときも手計算で求めていましたが、
今ではほとんどがCAD(Computer Aided Design)
を用いています。
図面すべてをCADで制作するようになったのは
建築の設計では20年ほど前のことなんです。
今でも、設計のスタート時には、
手描きのスケッチによるスタディを重ねたり、
簡易な模型をたくさんつくりながら、
イメージを固めていきます。
東京スカイツリーもスケッチから始まっています。
ですが最近は、
コンピュータ上でスケッチができるソフトも出ており、
最初から最後までコンピュータだけで設計を行う人が
今後増えてくるかもしれませんね。
さて、設計におけるコンピュータ利用については
図面制作がいちばん一般的な利用方法です。
東京スカイツリーでは、
平面形が三角形から円形へと徐々に変化し、
立面形において、そり・むくりをもつ複雑な形状です。
三角形から円形へのなめらかな変化の付け方では
コンピュータソフトの接線作図機能も使っています。
また、個々の部材の接合部分では3次元CADを活用して、
いろいろな方向からくる部材が重ならないように、
調整しながら設計しています。
この、部材がつながる座標ポイントは、
小数点以下一桁(0.1mm単位)の精度が必要でしたが
これもコンピュータを用いなければ大きな負担でした。
こうした図面は、
実際に工事を行う施工者さんやメーカーさんへと渡り、
そのデータを基にして、施工図や製作図などの
「モノをつくるための図面」がつくられ、
部材などでは、そのデータを製作機械に入力して
鋼管を切断したり、組み立てたりされているわけです。
また、設計のシミュレーションでも活用されています。
以前にお話した、地震に対する安全性を検証するための
解析シミュレーションなどがそうです。
これもコンピュータの進化によって
目覚しく変化してきています。
昔はコンピュータ解析にかかる時間として
「日」単位でかかっていたものが
「時間」単位で済むようになっています。
とはいえ、東京スカイツリーの解析では、
ひとつの地震波に対する解析に
6〜7時間かかることもあり、
一時はパソコンがフル稼働状態になっていました。
こうした解析に先立って、3Dモデルをつくります。
3Dモデルは各種の解析に使われるほかにも、
タワーデザイン、ライティングデザイン公表時に
広くイメージを伝える華やかなCGの制作や、
設計の意図や方向性を分かりやすく伝える
説明的なCG制作までさまざまに使われていきます。
ちなみに、東京スカイツリーの3Dモデルを構成する
ポリゴン(構成要素)数は70万!
幅60m、奥行60m、高さ160mの超高層ビルの3Dモデルだと
10数万ポリゴンです。
もちろん、要素数ですから、
建物に凸凹が多かったり、ランダムなデザインだと
ポリゴン数は多くなりますし、
データのつくり方によっても変ってくるのですが、
東京スカイツリーの「一見シンプルながら実は複雑」
をよく表している数字だと思います。
建築設計におけるコンピュータの活用は
いまも進化していて、
BIM(ビム/Building Information Model)という手法が
現在、発展途上にあります。
これは、コンピュータの中の3次元空間に、
プラモデルをつくるように「モデル」を組み上げて
設計する手法で、飛行機や自動車の設計では、
建築に先駆けて使われています。
まず3次元のモデルをコンピュータの中につくり、
2次元の図面は、必要によってそのモデルから
切り出すという手順になります。
モデルと図面は完全に連動していますから、
壁の位置変更なども全てに反映されるのです。
このBIMを使うことによって、
品質の向上や高効率化が期待されています。
さらには、建物の竣工情報をBIMにまとめておけば、
いわば「建物カルテ」となって、
施設管理や改修時の検討なども容易になります。
なにより、専門家じゃなくても分かりやすくなる
というのも魅力です。
まだまだ、BIMのガイドラインづくりや標準仕様の統一、
情報共有方法など、課題はありますが、
世界的にもBIMを推進していこうという方向にあります。
今や昔か、図面を手描きするのは緊張するものでした。
CADだといくらでも後で編集できますが、
手描きだと、全体を予め決めてから取りかからないと、
あとで一から描き直し、なんてこともありますから。
建築設計に使うツールは変っても、
当時のような緊張感を失わずに取り組んで行きたいなと
考えている昨今です。 |