第85芸
疲れた耳 |
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健康の話(病気の話でもあるんだけど)と、
変態の話は、どんなにしゃべっても
つきることがありません。
しかも、どんな人でも、
なにがしかの興味をしめすから、
ま、おかしなものです。
誰もが、「健康と不健康」「正常と異常」の
紙一重のところにいるから、
話題になるんでしょうね。
「あのサー、オレ、この頃、
肝臓が悪いみたいなんだ」
と、まずそうにお酒を飲みながら切り出します。
「あ、そ。
みんながどっかしら悪いんじやないの?」
みたいなことを言われるに決まってますから、
すかさず、
「自覚症状があるわけヨ。疲れが
ひどくなると、耳が硬くなるんだよ」
顔色が悪くなるとか、吐き気がするとかならわかるけど、
「耳が硬くなる」なんて珍しいから、
「や、うっそォ。ホントー?」なんて言われちゃう。
「ホントホント。骨みたいになっちゃうの。
ちょっと近くに寄ってごらん」と、相手の耳を、
自分の耳に近づけてもらいます。
「こうやって、耳を折っても、
普通だったら軟らかいだろ。
でも、いまなんか硬くてサ、音がするんだよ」
と、耳を折って、音を聞かせます。
ポキポキと、軟骨が折れるような音が、
相手の耳に届きます。
「や、やーあ、気持悪いわー。
誰でもそんなんなるのかしら?」
「なると思うんだけど……」
と、また、ポキッ。
「そんなに鳴らすと身体に悪いんじやない?
よしなさいよ、そんな、こと、するの」
相手が、すっかり信じこんだところに、
ダメ押しで、もう片方の耳を鳴らします。
この気味悪さの余韻を残したまま
「オレ、帰るわ」と帰れれば、一流と言えましょう。
(耳の後ろに、マッチ棒をはさんで、髪でかくしておく
のです。これを折ると、実にうまいこと、
ポキッという音が出るわけです)
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