第105芸
ハードボイルド・スモーキング |
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男の魅力は、「軽いニヒリズム」
「世間に迷惑がかからない程度の粗野」
「秘められし情熱」などにあるものです。
単に二枚目だからモテるなんて時代は、
もう終りなのだ、というか、終りにしたいのだ。
煙草を吸うにも、やはり芸がほしいものです。
ここでは都会の憂愁をただよわせた、
ハードボイルドな喫煙法をご紹介します。
ぁなたは、スナックの椅子に腰をおろします。
眉と眉の間にシワを寄せ
「何やら心に傷があるわたし」を表現します。
おもむろに煙草をくわえ火をたっぷりつけます。
フィルター部分を、歯でしっかりくわえ、
ますます渋い顔をします。
そして、フィルターを噛んだまま、煙草の菓の側を
指ではさみ「スパーッ」と外します。
つまり、フィルターは依然として歯でくわえられている、
そしてなおかつ煙草本体は指でしっかりはさまれている
状態になるわけです。
煙草は乱暴にひきちぎられているのですが、
まだ、あなたは吸います。
歯の間に残ったフィルターをペっと吐き出し、
「あ、ギムレットでももらおうか」と言います。
ああ、これほどハードボイルドな喫煙法が
あったでしょうか。
煙草の出発(たびだち)を思いとどまらせようと、
必死で押さえる男の歯、
そして、煙草に冒険をうながす男の指。
この両者に、専売公社の温室育ちである煙草は
ひき裂かれボロボロになるのです。
この「ハードボイルド・スモーキング」を
突行するにあたって、必要なのは、
ただ勇気のみであります。
周囲の目が、最もあなたに集中している瞬間を選んで
「スパッ」とやっていただきたい。
恥ずかしいからといって、誰も見てないところでやると、
単なるゴミ製造人になってしまいます。
また、相手の好みを考慮して実行にふみきってくださいね。
「バカ」とののしられた男を、たくさん知ってます。
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