〈O2〉なロンTをつくる メンズ篇 お得だなと感じる要素を いっぱい足してあげたいんです。 ウエストオーバーオールズ デザイナー 大貫 達正さん

半袖Tにつづく〈O2〉のプロダクトは「ロンT」です。
「男性のためのロンT」のほうは、
いまをときめくデニムブランド
「ウエストオーバーオールズ」のディレクター、
大貫達正さんにデザインをお願いすることにしました。
襟つきシャツの代わりに着られるような、
きれいめなロンTをイメージしていたのですが、
大貫さんから返ってきた答えは意外にも‥‥?
まるで『三国志』に登場する関羽のごとく、
ゆたかな髯をなでさすりながら
大貫さんが語ってくださったデザイン哲学は、
実にユーザー目線に立ったものでした。

大貫 達正(おおぬき たっせい)

フリーランス デザイナー。
小学生のころからヴィンテージ古着に興味を持ち、
アメリカやイギリス、フランスの古着を中心に
販売からバイヤー、ショップディレクションまで
幅広く携わる。
2010年には自らのブランド
「MANUFACTURED BY SAILOR'S」を立ち上げ、
現在はフリーランスとして「HELLY HANSEN」の
クリエイティブアドバイザーをつとめるほか、
「HELLY HANSEN R.M.C」「OLDMAN'S TAILOR」そして
「WESTOVERALLS」の企画ディレクションを手がける。

ありきたりのロンTを、実はそんなに人は着ない

――
そのほうが慣れてるので、
達正(たっせい)さんと呼んでいいですか。
大貫
はい、もちろんです。
――
きょうは達正さんのデニムブランド
「ウエストオーバーオールズ」の展示会中に
おじゃまさせてもらいました。
なんだかとても盛況ですね。
大貫
ありがたいです。
ことデニムに関しては、ずっと、
それなりの思いをもってつくってきたので、
よい評価をいただけるのはうれしいです。
――
達正さんには男性用のロンTをつくっていただきましたが、
今回のテーマをお聞きになって、まずどう思いましたか?
大貫
ロンTって、半袖のTシャツにくらべると、
意外と着る人がすくないんですよ。
袖や胸にロゴがついているデザインは、
ストリートっぽいファッションでは根づいていますが、
無地だと興味をもってもらえないかもと思いました。
――
ありきたりのロンTを、実はそんなに人は着ないと。
大貫
早くいえばそうですね。
――
オファーの内容からして、まちがっていた(笑)
で、いろいろ考えて出してくださった答えが、
ぼくらとしてはかなり意外でした。
大貫
見たことないくらい肉厚なワッフル生地で、
ロンTをつくることを提案させていただきました。
――
「ワッフル生地できたか!」とおどろきました。
その意図はなんだったんでしょう。
大貫
まず、ふつうのロンTには
「お得感」がないと思ったんです。
よい素材でよっぽど安いとか、そういうんじゃないと、
惹きつけられないというか、印象が弱い感じがしませんか。
――
なるほど、たしかにそうかもしれません。
大貫
でも、厚手のワッフル生地を使ったロンTなら、
スウェットのようにも着られるし、
ニット感覚でインナーにシャツを着たっていい。
着こなしの幅がひろがって、お得に感じられるものが
つくれそうだと思いました。
――
ああそうか、達正さんの言う「お得感」っていうのは、
価格のことだけじゃないんですね。
大貫
使い勝手がいいとか、ありそうでなかったとか、
結局、「人によころんでもらえるものかどうか」
ということだと思います。
――
あ、そこは、ぼくらもいっしょです。
そういうものをつくりたいと思っています。
大貫
ほかにはない、特長のあるものじゃないと、
やっぱり人はほしくならないですよね。

「ギャップ」がほしい

――
その意味ではたしかに、今回のサンプルを見たとき、
「おっ!」って思いました。
「こんな分厚いワッフル生地があるのか」って。
大貫
この生地は、たとえばサーマルシャツとか、
一般的なワッフルのアイテムとはちがって、
20番手という太めの糸を、
2本撚り合わせた糸で編まれているので、
ボリュームがあるし、凹凸感もしっかり出ます。
――
はい、すごく存在感があります。
大貫
日本中の生地屋さんから、
ワッフルの編地見本をひと通りあつめてみたんですけど、
そのなかでいちばんヘビーウエイトなものをえらびました。
でも、厚みはあるけど目がつまりすぎていなくて、
着てみるとやわらかいんですよ。
――
一見、がっしりしてそうに見えますよね。
大貫
そう、ぱっと見はしっかりした生地なのに、
さわってみるとやわらかさがある。
自分自身もそうなんですが、そんなふうに
見たときと着たときのギャップががあると、
印象に残るし、うれしい気持ちになるでしょう?
――
なるほど、ギャップかぁ‥‥。
大貫
たとえば、格闘技で体格の大きい人が勝っても、
「そりゃそうだよね」でおわるけど、
そうじゃない人が意外にどんどん勝っちゃったりすると、
「すごいな」って思うじゃないですか。
そういう、びっくりとか感動とかおどろきがあるほうが、
やっぱり印象に残るし、惹かれると思うんです。
だから、ぼくはなるべくそういう視点で
ものをつくるようにしています。
――
そうか、「ギャップ」は達正さんの方法論なわけだ。
このロンTでいうと‥‥
大貫
一般的なワッフル生地のイメージとのギャップ、
見ためと着てみたときのギャップ、
2つのギャップを仕込んでいるつもりです。
――
そうですね。

お得だなと感じる要素をいっぱい足してあげたい

大貫
結局、ぼくがものをつくるときって、
販促的要素を多めにしたいんです。
――
販促的要素?
大貫
人がものを買うときに、お得だなと感じる要素を
いっぱい足してあげたい。
――
ああ、さっきの「お得感」につながる話ですね。
そうか、ギャップもその1つなわけだ。
大貫
ほかの例でいうと、
ぼくがやってるウエストオーバーオールズのジーンズは、
買うと箱がついてくるんです。
ほんとは別になくてもいいんだけど、
ちょっとうれしいじゃないですか。
そういうのがぼくらしいというか、
なんか、やりたくなっちゃうんですよ。
――
そういう意味でいうと、
この内がわにキュッとカーブする袖のリブも‥‥。
大貫
まさにそうですね。
これはもともと、1930~40年代にアメリカでつくられた
スウェットにあったディテールです。
当時のヴィンテージを見ていて、いいなと思ったので、
今回取り入れています。
――
これって何か意味があるんですか?
大貫
いちど、すごいマニアの人に聞いたことがあるんですけど、
とくに理由はないんじゃないかって(笑)
ぼくは、単純にかわいいから入れちゃいました。
――
販促的見地から言えば、
なんかちょっとお得に感じるディテールを
サービスで入れておくか、みたいな(笑)
大貫
そういうことです。
あ、でもこれ、マズいかな。
あんまり「ほぼ日」っぽくないですかね、これ?
すみません、感覚的な理由で。
――
いや、あのう、使うことばはちがうけど、
ぼくらも似たようなことをやっているというか、
実はとても近いと思いますよ。
大貫
そうなんですか?
――
「どうだったら、お客さんはうれしいんだろう」とか、
「もうちょっとなんか魅力を足せないか」とか、
達正さんの言う「お得」とか「販促」と
おなじようなことをいつも考えています。
大貫
そうですか。だったら、よかったです。
――
そういうふうに考えてものづくりをするようになった
理由って、なにかあるんですか?
大貫
まあ、もともと目立ちたがり屋なので‥‥
――
それは見ためからも伝わってきます(笑)
大貫
ですよね(笑)
いや、見ためはともかくとてして、
やっぱり人にほめられたいわけですよ。
――
あ、ほめられたい。
大貫
人に認められたい願望が、すごくつよいんです。
だから、もっともっと人をびっくりさせたい、
よろこんでもらいたいっていうことが常に頭にあります。
――
そっかあ、たしかにぼくらも、
つくったものがほめられるとうれしいもんなぁ。
大貫
ね、単純にうれしい。
――
このロンTがみなさんの手にとどいたあと、
ちゃんとほめてもらえるといいですよね。
きょうはありがとうございました!

(おわりです)

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