今シーズン、わたしたち〈O2〉チームも
早く袖を通したいあまり、
季節が秋に変わるのをたのしみにしていたシリーズが
デビューします。
その名も「エア・スウェッツ」です。
綿花を仕入れるところからはじまり、
紡績から編み立て、染色加工、縫製まで、
自社工場で一貫しておこなう「第一紡績株式会社」の
オリジナルブランド「IITO」とのコラボレーション。
ぐんぐんのびて、かるい。
着ていることを忘れてしまう‥‥
というとおおげさですが、
そう言いたくなるくらいの心地良さ。
「あら、気づいたらこればかり着ているわ」
となりそうな「エア・スウェッツ」は、
どんどん着て着て、着たおして、
くたびれてきたらパジャマや作業着にして。
きっと毎日の相棒になってくれます。
素肌にまとって眠りたいほど、気持ちのいい素材の秘密。
そのひとつは、
「ミッドエアーという空気の力で糸を形成する
特殊な機械で、
わざとかための糸をつくっているからなんです」
と教えてくれる、第一紡績さん。
こんなにやわらかいのに、かための糸で作られている‥‥?
そもそも「糸をつくる」「布をつくる」とは、
いったいどのような作業なのでしょうか。
せっかくご一緒させていただく機会ですから、
熊本にある第一紡績株式会社さんの工場に
見学に行かせていただくことにしました。
向かったのは、お父さんがマンションの管理人で、
ご自分はペットボトルのフタを集めていた
ほぼ日の塾4期生のライター中前結花さんです。
ちえちひろさんのイラストといっしょに
おたのしみください。
前編・後編の2回にわけて
おとどけします。
その言葉を聞いて思い出したのは、
中学生のころの友人の言葉だった。
その友人は、宿泊行事の最中に、
「あんた、スウェット着たら
ホームステイ先のおばさんみたいやな」
と、そっと笑いながらわたしの耳もとで囁いたのだった。
腰高で胸まわりのたくましいわたしのスタイルを
そう揶揄されて、
「ホームステイなんてしたこともないくせに」
と歯ぎしりをしたい思いだったけれど、
壁掛けの大きな鏡に映った自分の姿を見て、
「なるほど、うまいこと言うものだな」
と妙に感心してしまったことをよく覚えている。
たしかに、ちょっと日本人離れした体型が際立って、
簡単に言うと、
まあ、とても「格好悪かった」のだ。
それからは、「わたしとは相性が悪いもの」として
なるべくスウェットを避けてきた人生だった。
そして、こんなふうにひょんな形で再会した。
「スウェットですか。」
熊本まで行けば、そのスウェット生地づくりの工程を、
糸になる前から見せてもらうことができると言う。
「糸をつくる現場‥‥」
わたしは、工場やものづくりの現場を眺めるのが大好きなのだ。
しかも、そのスウェットは、
特別な生地と計算されたデザインで、
着る人のスタイルを上手くカバーして、
たとえばわたしのようなひとを傷つけないばかりか、
「なんだか、格好よく」見せてくれるのだと言う。
(本当だろうか)
なにより工場のある「九州」は、その言葉を聞くだけで、
なんだかとてもおいしそうだ。
「行きます、行きます。一泊します」
かくして、そんなわけで、
まだ空が白みはじめたばかりの朝4時、
イヤホンでは中島みゆきを聞きながら、
「糸」の工場を見学するため空港に向かった。
飛行機、列車、新幹線、と乗り継ぎ、
「新玉名」という駅に着いた。
駅には、大河ドラマ「いだてん」でもおなじみの、
日本マラソンの父・金栗四三さんの銅像が
凛々しい佇まいで立っていた。
駅まで迎えにきてくれた、
第一紡績の高本さんが車の中で
「ロケもこの近くでやってましたよ」
と教えてくれる。
20分ちょっとかかって、いよいよ第一紡績の本社が見えてきた。
「長旅でしたでしょう」
と社長の村田さんが出迎えてくれる。
ーー
「それにしても広いですね」
村田さん
「ここは、全部で9万平米。東京ドーム2個弱ぐらいですかね」
わからないなりに想像してみるけれど、
やっぱりだめだ、見当もつかない。
村田さん
「ここでは、糸をつくって、それを編み立ててニットにして、
染色加工をして、縫製もしています」
第一紡績は、紡績から縫製までを一貫して自社でおこなう
「垂直型一貫ライン」という形式を採用していて、
これは国内では唯一だ。
村田さん
「今は、縫い子さんが少なくなったから、
縫製に関しては
自社ブランドの肌着を生産するぐらいですけれど。
平均年齢68歳ぐらいの縫い子さんたちで、
腕は確かで口も達者(笑)。みんなすごいプロですよ。
もう、うちぐらいなんです、一貫でやってるのは。
通常、みなさん分業になっていますからね」
一貫しておこなうと、なにか「いいこと」があるらしい。
それについては、工場を見て帰るころに、
ちょっと言い当ててみたいと密かに思った。
村田さん
「だけど、糸の技術開発がいちばんの強みかな。
元々が、やっぱり糸の会社なので。
アメリカだとかオーストラリアだとかから、
原綿を買ってくるところから」
ーー
「あれは、ポンっと弾けて開いてあの形になるんですか」
「そうです、そうです。ポンっと。
あれはお花じゃないんだよね。
花は、黄色いのが咲くでしょ?」
と村田さん。
高本さんが、そうそう、と頷く。
村田さん
「だから、花の咲き終わったあとに、ポンっと。
タンポポと一緒で」
ーー
「綿毛!」
村田さん
「そう、つまり綿毛なんですね」
これが、糸になり、布になり、製品になる。
ますます不思議な気持ちで、制作の現場へと移動した。
「工場の中は温度が高くて、低温サウナ状態ですよ」
と聞いてはいたけれど、
たしかに建物の中はモワッと熱気のようなもので充満して、
入って数秒でじんわりと汗がにじむ。
外はすこし雨が降っていたから
「これでも今日はずいぶんマシなんですよ」と教わって驚いた。
大きなブロック状になった白いかたまり。
「これが綿花なんです」と高本さん。
綿花の白い綿毛だけをぎゅっと固めたこのかたまりは、
海を越え、山を越え、はるばるここまでやってきた。
そして、今から糸になり、布になる。
それからはその9万平米の敷地に広がる工場の中を、
約5時間半かけて巡らせてもらった。
どの工程・どの仕組みにつけても、
「はあ!」だとか「ほう!!」だとか、
精度や分かれる工程の細やかさに
心の底から感心してしまっていたけれど、
今になって、はたと思うのは、その工程ひとつひとつの
「なぜ、こうしたら、こうなるのか」の理屈については、
からっきしわからないものがほとんどであった。
機械の仕事があまりに高度で難しく、
見惚れてしまうばかりなのだ。
そんなわけで、
覚えている限り、わからないなりにまとめてみるけれど、
「糸をつくる」とは、大まかに言うとこんな流れだ。
白いブロックから、カスやホコリのようなものが、
不安になるほどたくさん出てきた。
トイレットペーパーのようになった繊維から、
揖保乃糸(ソーメン)の束みたいなのが出てきた!
今度はキッチンペーパーみたいになって、棒にくるくると巻かれていた!
大まかすぎるほど大まかに説明してしまったけれど、
こうして、綿花が「糸」に生まれ変わるまでの工程だけで、
全部で約2週間がかかる。
あの「ブロックのような白いかたまりが‥‥」と思えば、
たしかに果てしなくも感じるけれど、
それだけ丁寧に丁寧に手を加えて、
細く繊細な「糸」へと整えていくのだ。
そして、この「糸」がこのあと「布」に生まれ変わると言う。
「不思議なことがあるものだなあ!」と、
わたしは高本さんの背中について行った。
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illustration:ちえちひろ