(CACUMA秋冬コレクションを見ながら)
あ、おもしろいですね。

―― ありがとうございます。

ファーストコレクションをごらんになった
植原(亮輔:キギ)さんが
良重さんのワードローブみたいだねって
おっしゃってました。

ええ、きっと良重さんが
いちばんお似合いになるんだと思う(笑)。

ああ‥‥これも、かわいいです。
すごく良重さんらしい。
春夏のブラウスと、パターンは同じですか?

―― そうですね。
七分袖を、長袖にしていたりはしますが。


↑cacuma2013秋冬「フリルのブラウス」
そうですか‥‥じゃあ襟ぐりとか、
袖まわりとかも、春夏と同じなんですね。

素材も同じ? 秋冬なのに?

―― はい、そうなんです。

良重さん、この薄い素材を
とっても気に入ってらっしゃるんです。

それに、冬はカーディガンやコートなど
上に厚手のものを羽織るから、
むしろ、薄いほうがいいとおっしゃって。

なるほど。
あ、ここ、ちょっとだけ色がちがいますね。


↑cacuma2013秋冬「プリントのスカート」
―― そうなんです。

おもしろいです。

―― 良重さん、
本当にアイディアが泉のように‥‥(笑)。

とても作りたかったんですね、洋服。

―― キギのオフィスのかたに聞いたんですが
良重さん、気づくと
CACUMAの仕事をやっているらしく‥‥。

あのかたは、やりたいことをいちばんに
なさるかたなんでしょうね。

そういうふうに
ずうっと、やって来られたんだと思う。

―― 関さんは、良重さんと
どれくらいのお付き合いなんですか?

私が『装苑』の編集長をやっていたのが、
2000年からで、
その当時、植原さんの手がけたお仕事を
いくつか拝見していたんですね。

シアタープロダクツや
ミハラ(ヤスヒロ)さんのインビテーション‥‥
紙の質や印刷、そして仕掛けの凝った
とてもおもしろいものをつくる人だなって、
ずーっと気になっていました。

そのときはまだ、
お会いしたことはなかったんですけど。

―― ええ、ええ。

ミハラさんのブランド「sosu」の
2002年A/Wのインビテーション
「pop ironies」は
封筒にたくさんセロテープが
貼ってあるような印刷で、
型抜きも半端ではなくて、
本当に斬新なものでした。

私、いまだにそれを持っているほど素晴らしくて。
その作品でADC賞を受賞されています。

―― はい。

で、そのあとくらいかな、
ギンザ・グラフィック・ギャラリーで
宮田識(さとる)さん率いるデザイン会社
DRAFT(ドラフト)の展覧会が
あったんです。

そこではじめて、植原さんにお会いしました。

で、いろいろお話しているなかで、
D-BROSの仕事を一緒にしていらっしゃるのが、
渡邉良重さんだと。

あのころ、すごい型抜きのカードとか、
おもしろい仕掛けのカレンダーを
いろいろ見ていたので、
「ああ、あのカレンダーをつくったの、
 あなたたちでしたか!」みたいな(笑)。

―― じゃあ、植原さんが「先」だった。

そう、それからは、
D-BROSの新製品が発売されると
見せてくださったり‥‥。

で、あるときにね、良重さんが。

―― はい。

「装苑で何かやりたい」って
おっしゃってくださったの。

本当にうれしかったです。

ちょうどあのころ、良重さんは
ISSEY MIYAKEの
皆川魔鬼子さんの「HaaT」に
テキスタイルの図案を描かれて
それがストールやTシャツになっていたりしたので、
ファッションにも興味がおありなのかな‥‥と
思っていたところだったんです。

―― ええ、ええ。

『装苑』でお仕事をお願いしたのは、
たしか、2005年ごろでした。

「レース特集」の巻頭6ページくらいを
やっていただいたんです。

どんなことをなさるのだろうって思っていたら、
文化服装学院の
服飾博物館に収蔵されているレースを、
何日もかけて調べて下さって。

アンティークのレースの写真ファイルが
たくさんあるんですけど、
その複雑なレースの模様をコラージュして、
素晴らしい作品をつくってくださいました。

後ろ姿の女性ふたり、
湖に浮かぶ白鳥、白馬、白百合‥‥。

そのとき、
こういう発想をする人は絶対にいないと、
確信しました。

―― はー‥‥見てみたいです。

アンティークのレースをコラージュした渡邉良重さんの作品(『装苑』2005年4月号掲載)

リトルモアから『ブローチ』を出したのが
その少し前で、
「これ、絶対に賞を獲りますね」
って話をしていたら、
案の定、
「ONE SHOW DESIGN」や
「NY ADC賞」金賞を受賞されて‥‥。

そんなふうに、
「すごい人がいる」って思ったのが、
2003年から2005年にかけてのこと。

それからもう、
みなさんご存知のように、あれよあれよと。

―― どんどん、有名になっていかれて。

ねえ、ほんとに。

でね、
良重さんご自身も素晴らしいんですけど
植原さんと組んでいるってことも、
とってもいい結果を生み出していると思うんです。

―― ああ‥‥。

建築家ユニットである
SANAAの妹島和世さんと西沢立衛さんとか、
陶芸の
ルーシー・リーとハンス・コパーみたいに、
ふたりの関係って、
なにか師匠と弟子のようで、同僚のようで、
きょうだいのようで‥‥。

―― はい、たしかに。

年齢とかキャリアなんかも
ぜんぜんちがう二人のユニットなんだけれど、
すごく、おもしろい仕事をする。

わたしのなかでは
SANAA、ルーシー・リーとハンス・コパー、
そしてキギのふたりは、
「3大最強ユニット」なんです。

―― CACUMAは
良重さんおひとりのプロジェクトですけれど、
キギとしてお会いしたときなどは
たとえば、
良重さんがおっしゃった提案に対して、
植原さんが、
「そこは、こういうコンセプトにしたほうが
 いいんじゃないかな」とか、
お互いに補いあうようなやりとりがあって。

あまり、重なってないですよね。

―― そうなんです。

たぶん、すごく異質なもの同士なんだと思います。

だからこそ、補え合えるというか、
ふたりが組むことで、
個々のお仕事が、もっとよくなるんでしょうね。

―― ちなみに、ここ最近の良重さんのお仕事では
何が印象に残りましたか?

もう、『ジャーニー』という絵本ですね。
あれは、本当に素晴らしかった。

私、すぐに良重さんに
「いったい
 どうしたらこんな本ができるのかしら!?」って
メールしたくらいです(笑)。


↑『ジャーニー』(出版社:リトルモア)
―― 長田弘さんの詩と
ジュエリー作家の薗部悦子さんと、
良重さんの絵が、コラボレーションした絵本。

あれが、いちばんドキッとしましたね。

空想と現実の境目がわからなくて‥‥。
でも宝石の「写真」が載っているってことは、
実際にあるわけだから‥‥とか
言葉が先なのか、絵が最初にあったのか、
宝石はどこから生まれたのか‥‥とか
いろいろと想像が膨らんでいきました。

―― 良重さんのクリエイションの魅力って
敢えて言葉にすれば、
どういうところにあると思われますか?

ひとつには「少女性」みたいなことだと
思います。
良重さんの場合、
それが単に「かわいらしい」だけじゃない。

何て言うんだろう‥‥。

少女期って、空想癖があったり、
ちょっと孤独だったり、潔癖であったり。
つまり「生きていくのに大変な部分」が、
絶対にあるじゃないですか。

良重さんの作品には
そういう「少女期」の要素が入っていて
「深く」て「不思議」なのだけれど
絶対に「暗く」「重く」ならない。

―― なるほど。

そこを突き抜けて、「軽やか」で「明るい」。

そういう部分が、
今の時代に
受け入れられているんじゃないかなと
思います。


↑cacuma2013秋冬で使用する渡邉さんのイラストのひとつ
<後編へつづきます>
2013-11-01-FRI