CACUMAって
良重さんが「ライフワーク」にしようと思って
やってらっしゃるような気がします。

―― 良重さんは
CACUMAで初めてお洋服をつくったわけですが、
ファッションご専門の関さんから見て、
そのあたり、どんなふうに思われましたか? 

そうですね‥‥つくると言っても、
良重さんご自身が
パターンを引いたり、縫えるわけじゃない。

だから、パタンナー、布地を選ぶ人、縫製工場‥‥
それぞれのプロが彼女の意図を汲んで
レベルの高い部分できっちりサポートすれば
いけるだろうと思います。

―― そうですか。

「デザイン」やこだわる部分は
絶対に「ゆるぎない」わけですから。

―― そうですよね。

CACUMAって、
ふつうの「アパレルブランド」と
同じように考えないほうがいいと思うんです。

既存のアパレル用語で語らないほうが
このブランドの本質を
つかめるような気がすると言いますか。

―― つまり‥‥。

「トップス」とか「ボトムス」とか、
「インナー」とか「アウター」とかではなくて、
あくまでも
「ブラウス」であり、「スカート」であり
「ワンピース」であるというような、ね。


↑cacuma2013秋冬
「フリルのブラウス」「ウールの巻きスカート」「フリルのワンピース」
―― なるほど。 

ふだんの生活のなかで
お母さんと子どもが
好きな洋服についてしゃべっているような、
そういうイメージを
持ちつづけたほうがいい気がします。

―― 仕事仕事しすぎない、ということですか?

うーん‥‥たぶん、ふつうのブランドは、
「この春夏シーズンは何十アイテム」
「ロットがいくら」
みたいな部分から「逆算」をして、
値段やデザインを決めていくわけですけど、
CACUMAの場合は
その埒外でやっていったほうが、絶対よくなると思う。

―― なるほど。 

値段だって「安ければいい」のかっていうと、
必ずしも、そうではない気がする。

たぶん、値段を下げるためには、
生産のロット数を増やさなくてはならなかったり
コストダウンを目指して
素材や縫製工場を変えたり、というようなことが
必要になってきますよね。

―― ええ、ええ。

そういうことに一生懸命になるよりも、
もうちょっと‥‥なんだろう、
先日、良重さんにも伝えたんですけれど、
「神は細部に宿る」って。

たとえばボタンやボタンつけの糸やボタン穴が
特別きちんとていねいだったり。

そういう、特別な感じがあると‥‥。


↑cacuma2013秋冬「フリルのブラウス」
―― うれしいですよね。 

そうでしょう?

そのために
もしかしたら500円とか1000円とか
コストがアップするかもしれないけど、
でも服を着るほうにしてみたら
そういう「細部に宿った神」に
心をつかまれたりするわけですから。 

―― たしかに、
CACUMAのお洋服を着てくださるかたって、
着ていてうれしくなるような洋服を着たい、
という人が多いと思います。


私、ミナ ペルホネンがスタートしたころから
ずっと見てきているんですが
皆川明さんも、そういうようなことを
初期からおっしゃっていましたね。

実際に、そういう服をつくってらっしゃるし。

―― 着ていて、うれしくなるような。

たとえば、
sometimes luckyという名の
クローバー模様の服には、
一枚だけ葉が手刺繍で加えられて
四つ葉のクローバーが一輪混ざっているんです。

着ている人だけがふと気がつく、
それも、着はじめてしばらく経ってから、
「‥‥あ!」って気づくようなこと。
―― そういうのを発見したときって、
すごくうれしいですよね。

なにか、大切に着てるのはこっちなのに
逆に、
大切にしてもらっているような気がして。
 
ですから、CACUMAの服にも
「着ている人だけが気づく」ようなよろこびが
ひとつずつプラスされていったら
もっともっと素晴らしいものになると思います。

時間や手間がかかることだと思うんですけど
CACUMAは、
もうひとつ「強く」なる‥‥というかな。 

―― なるほど。

CACUMAの服って、
良重さんの作品の「新しいジャンル」として
定着していくといいなと思うんです。

つまり
フワラーベースとかカレンダーとか
レターヘッドなど
もう「定番」になっている商品みたいに。

↑キギの植原亮輔さんと渡邉良重さんが手がけた「フラワーベース」D-BROS
―― はい、私たちもそう思っています。

あらためて、なんですが、良重さんの作品って、
関さんのおっしゃる「少女性」はありつつ、
そのイラストのクオリティからは
なにか「すごみ」すら感じることがあって‥‥。

わかります。

以前に良重さんが手がけられた
D-BROSのカレンダーに
「リボン」がテーマのものがあったんです。

そこに女の子の絵が描いてあるんですけど、
ワンピースのウエストのリボンとか、
イラストで描かれたリボンが
途中から「本物」になっていくんです。

描かれたリボンと本物のリボンが、
トロンプ・ルイユ(だまし絵)みたいで‥‥
あれは、すごく「不思議」で素敵でした。
そういったものが
CACUMAのシグネチャーになるとか。


↑渡邉良重さんがてがけた、2008年カレンダー『Ribbon』(D-BROS)
―― ひとつ、素朴な疑問をよろしいでしょうか。

ええ、どうぞ。

―― 「洋服って、なんなんだろう」
と思うことがあるんです。

好きな洋服を見つけたときの
「わあ、ぞくぞくっ」とするような感じ、
買うときのわくわくする気持ち、
10年くらい前のものでも気に入って
いまだに着ているものもあったりとか‥‥
洋服って、なんなんだろうって
今さらながら考えることがあります。

長くファッションに関わってこられた関さんは、
洋服ってどういうものだと思っていますか?
 
うーん‥‥むずかしいですけれど‥‥
ひとつには
「自分のポテンシャルを上げてくれるもの」
という感じはします。
―― 着ることで。

そう、単純に好きな服を着ていると
気持ちが前向きになったりしますから。

―― なるほど‥‥たしかに。

あるいは、私が関わっていた『装苑』は、
「他の人とちがう自分」を
表現したい子たちに向けてつくっていたので、
一般の女性誌がやっている
「みんなと一緒でありたい」とか、
「トレンドの服を着たい」とかとは
真逆の雑誌だったんです。

ですから
「いかに個性的であるか」を表現することも
洋服の役割のひとつでしょうね。

―― 関さんが、ずっと着ている洋服って‥‥。

ありますよ。
気づいたら、何十年も着ているシャツとか。

―― ずっと着ている理由って、何でしょうか。

まずは、デザイン的に着やすく、
はやりすたりが無いこと。
素材が心地いいこと、
あとはやっぱり、
自分の体型にしっかり合っていることかしら。

―― なるほど。

とくに、私くらいの年齢になると、
自分のスタイルが確立していますから
「着やすいもの」しか着たくなくなります。

そうすると
もう、気がつくと何十年も着ているものが
あったりするんです。

―― CACUMAも、
「ずっと着てもらえる洋服」を目指して
良重さん、
本当に細かくシルエットを調整していて。

そうでしょうね。

―― 良重さんご自身も
「ずっと着てるものは、
 10年経っても20年経っても残る」って
おっしゃっていました。

良重さんが生産チームに
「こういう生地がほしい」って説明するときに
見本として持ってこられるのって、
20年くらい前の
カーディガンとかシャツだったりするんです。

きっとそうですよね。

だから、将来的にCACUMAの服、
たとえばこのブラウスも
ブランドのなかの「定番」になっていく可能性が
あるじゃないですか。

そうなったときに、願わくばなんですが‥‥。

―― はい。

あの‥‥私ね、家にいるときは
セント・ジェームズか
オーチバルのボーダーシャツなんです。

もう何十年も、ずっとそれだけ。

―― へえー‥‥。

でも、あるとき半袖シャツを買おうとしたら
もう、お店に売っていなかった。
日本では
厚手の半袖が売れなかったらしいんです。

―― そうなんですか。

だから、このCACUMAのブラウスも
また同じものを買おうとしたときに、
ちゃんと買うことができて、
かつ、柄や素材のちがいで選べる‥‥みたいな
そういう商品になってほしいなあと。

―― まったくおなじことを
良重さんがおっしゃっていました。

白いシャツがお好きだそうなんですが
あるブランドのものを気に入って
また買いたくなっても、売ってないのって。

だから、CACUMAでは
「このかたちが気に入った」とか、
「すごくよかった」って
言ってもらえるようになったら、
いつでも買えるようにしていきたいと。

ほんとにそう。
でもCACUMAは、そういう服だと思いますよ。

―― そう言っていただけると、
良重さんも、よろこばれると思います。

私、良重さんのファンだから(笑)。

みなさんが
CACUMAの服を永く愛してくださると、
いいなと思います。


↑cacuma2013秋冬で使用する渡邉さんのイラストのひとつ

<次回は青木むすびさん編です>
2013-11-03-SUN