おきがる寝グルメマガジンねむれないくまのために

ほぼ日オリジナルの入浴剤
							ねむくまの森のおふろができるまで
別府温泉の「湯の花小屋」編
PÄÄAIHEITA

特集

江戸時代からつづく、
別府温泉の「湯の花小屋」とは

別府温泉の湯の花成分をまるごとつめこんだ、
ヤングビーナスさんの入浴剤「湯躍」。
「ねむれないくまのために」では、
「くまのおすすめ温泉のもと」として
ご紹介してきました。

このたび、
「湯躍」の「ねむれないくまのために」
オリジナルバージョンが誕生しました。
その名も、
「ねむくまの森のおふろ」です。

別府温泉のゆたかな成分はそのままに、
私たちの顧問である
快眠セラピストの三橋美穂さんに監修していただいた、
眠りによい香りをあわせました。

今回の寝グルメマガジンでは、
「ねむくまの森のおふろ」に使われている、
湯の花を収穫するようすをご紹介します。

案内してくださったのは、
ヤングビーナス薬品工業株式会社の田中努さんと
湯の花職人の草牧信彦さんです。

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10月のある金曜日、
私たちねむくま編集部は、
長らく温泉地として栄えてきた、
大分県の別府温泉にやってきました。

宿泊していたホテルを朝早くに出発し、
ヤングビーナスの田中さんの案内のもと、
湯の花を収穫している場所をめざして
別府の山の中をすすみます。

江戸時代からつづく
「湯の花小屋」

田中

見えてきましたね。
こちらです。

──

おお、
これは‥‥。

──

‥‥すごい。

田中

こちらは、
湯の花職人の草牧さんです。

草牧

どうも、こんにちは。

──

こんにちは。
本日は、どうぞよろしくお願いします。

すさまじい量の湯気がたつ森のなかに、
小屋がならんでいる‥‥。
ほんとうにすごい景色です。
こちらで、湯の花を?

草牧

ええ。
この「湯の花小屋」で、湯の花を収穫しています。

──

湯の花小屋。

草牧

湯の花を収穫する小屋のことを、
ここらへんではそう呼んでいるんです。

──

なるほど。
藁葺のかまえが、ほんとうにすてきです。

草牧

ありがとうございます。
いわゆる、合掌造りとおなじ構造です。
この小屋は、
一度たてれば3年くらいもちます。

──

‥‥え、3年?
3年たつと、使えなくなってしまうんですか。

草牧

高温の蒸気を、
24時間ずっと浴びつづけるわけですから、
だんだんと傷んでしまうんです。
そうしたら、まるごと建て替えます。
このくらいの小屋だったら、
1人で建てられますから。

──

草牧さんがおひとりで?

草牧

ええ。
もう、ずっとやっていますからね。
昔は、
まわりに湯の花小屋をやっている人も多かったし、
みんな農家で、ここらへんにいたから、
手伝い合ったりしていましたけど。
今はもう、みんな外へ勤めにでてしまって。

──

そうだったんですか。

草牧

昔は、湯の花を
「ミョウバン」と呼んでいて、
染物や薬だとかに、広く使われていたんですよ。

──

あ、ミョウバン!
ここにくる道中で、
「明礬温泉」という看板をたくさん見かけました。

草牧

ええ、ここらへんは
江戸時代からつづく、一大産地でしたから、
そう呼ばれているんです。
ここの地域のだいたいのひとが、
ミョウバンをつくっていたんじゃないかなぁ。

──

なんと、そんな昔から。

草牧

ですが、時代がすすみ
ミョウバンが人工的に
安くつくれるようになったので、
湯の花小屋の数は減っていきました。
今は湯の花として、
入浴剤をつくるために収穫をしています。

「湯の花小屋」のしくみ

草牧

よかったら、
小屋の中をのぞいてみますか?

──

いいのでしょうか。

草牧

ええ。
いま、扉をあけます。

──

ありがとうございます。



──

おお。

わ、あつい‥‥!

草牧

温泉の蒸気を、
小屋じゅうにめぐらせていますからね。

──

すこし中をのぞいていただけで、
体がぽかぽかしてきました。
香りも強くて、
温泉に入ったような気持ちになってきました。

草牧

ははは、そうでしょう。

──

この床一面に広がっているのが、
湯の花ですか?

草牧

はい、そうです。

──

ほんとうに、一面、びっしりと。

草牧

もうすこしたつと、
さらに湯の花の層が厚くなります。
そうしたら、収穫します。

──

‥‥すみません、
そもそものお話になってしまうのですが、
湯の花とは、いったい何なのでしょうか。

草牧

温泉の成分が、白く塊になったものです。
そこには、イオウだったりミネラルだとか、
ほんとうにさまざまな成分が含まれています。

──

なるほど。

草牧

湯の花小屋では、
湯の花を結晶化させて収穫します。

──

結晶化?

草牧

ええ。
では、湯の花小屋のしくみを
順を追ってご紹介しますね。

──

おねがいします。

草牧

まず、地中に噴気の通り道を作って、
各小屋にいきわたるようにします。
白く、もくもくと見えるのが
地下から吹き出す、温泉の噴気です。

草牧

つぎに、小屋の中に石畳を敷きます。
噴気を床全体に、
均等にいきわたらせるためです。
そしてその上に、「青粘土」をしきつめます。

──

青粘土。

草牧

ほら、ここの湯の花の下に、
すこし見えるでしょう。

──

あ、ほんとうだ。

草牧

焼き物なんかに使われるような、
青っぽい土です。
青粘土のミネラルに温泉の成分が反応して、
だんだんと湯の花が、結晶化していきます。

──

そうか、
この青粘土がないと、
結晶にすることができないんですね。
ただ温泉の蒸気を集めているだけではない。

草牧

そのとおりです。
うまく結晶ができるように、
粘土を足したり、新しいものに交換したり、
こまめに手入れをしています。
しばらく敷きっぱなしにしていると、
どんどん成分が安定してきて、
温泉の成分と反応しなくなってしまうんです。

──

この一面の粘土を‥‥。
それはとてつもない作業ですね。

草牧

いまは、粘土を掘り出すときなどに、
重機が使えますから、
ずいぶん楽になりましたよ。
ただ、小屋の中に敷き詰めるのは
やはり、手作業ですけどね。

草牧

この屋根も、湯の花を結晶化させるために
欠かせないものです。
わらを葺いてしばらくすると、
わら同士がひっついて、保温性が高まります。
雨も入らなくなるのですが、
中の蒸気だけは、うまく抜けていくので、
小屋の中の環境を、いい状態に保ってくれるんです。

別府だけの、
とくべつな結晶

草牧

そうしてできた湯の花の結晶を、
このコテで収穫します。

──

このコテは、専用のものですか?

草牧

そうです。
収穫しやすいように、
自分で作ったものを使っています。
昔は、鍛冶屋さんにもっていって、
まめに修理をしてもらっていたのですが、
鍛冶屋さんも最近では減ってしまってね‥‥。

──

収穫も、手作業ですか?

草牧

はい。
藁葺の屋根なので、どうしても
ぱらぱらとカスが降ってきてしまいます。
そのカスをひとつひとつ、取り除きながら収穫します。

──

なんと。
ほんとうにすべて手作業で
やっていらっしゃるんですね。

草牧

もちろんです。
結晶が、おおきなかたまりに
なってしまっているところなんかは、
こうやってほぐしながら。

草牧

今のような寒い季節には、
あったかいな、という感じだけれど、
夏場はたいへんですよ。
あつくてあつくて、
30分作業するのがやっとです。
小屋に入って、出て休憩して、
また入ってをくりかえすんです。

──

はー。

草牧

履物も、厚めのものにしないと
足の裏をやけどしてしまうくらい。

──

あの勢いよくあがる温泉の噴気が、
小屋中に行き渡っているわけですものね。
自然の、ものすごいエネルギーです。

草牧

うちは、祖父の代から
湯の花小屋をつづけているのですが、
やり方はずっと変わっていません。

──

昔ながらの手法を、
受け継いでいらっしゃるんですね。

草牧

基本的には、
昔ながらの方法でないと
湯の花の結晶は、収穫できません。
小屋にプラスチックなどは、
一切使えないんです。

──

ほう。

草牧

プラスチックを小屋に使ってしまうと、
結露が発生してしまいます。
そうして溜まった水滴が小屋の中に落ちると、
湯の花がうまく結晶化しなくなってしまうんです。
金物もおなじ理由で、使えません。

──

この小屋が、湯の花にとって、最適な形なんですね。

草牧

はい。

──

ここに来る道中で、
この小屋での湯の花の収穫が
「重要無形民俗文化財」に登録されているという
看板をみかけました。

草牧

この方法で湯の花を収穫しているのは
このあたりの地域だけですから。

──

そうでしたか。

草牧

一般的に流通している湯の花は、
温泉に沈殿した成分を乾かして
粉末状にしているものが多いです。
そうすると、
お風呂に溶かすときに、
完全に溶けきらないことがあります。
ですが、
湯の花小屋で収穫した湯の花は、
ぜんぶの成分が、すぅーっと、溶けるんです。

──

ほかの温泉地で、
同じように収穫することはできないのでしょうか。

草牧

なかなかむずかしいでしょうね。
下に敷いている「青粘土」が重要ですから。
日本に温泉地はたくさんありますが、
この青粘土がとれる地域は少ないです。

──

そうか、
温泉だけではできないんですね。
豊かな温泉と、このとくべつな土壌の
両方がそろってはじめてできる、
まさに、別府ならではのもの。

草牧

そのとおりです。

──

草牧さんも、
昔からこの湯の花の
入浴剤をつかわれていたんですか?

草牧

いや、使わないね。

──

えっ。

草牧

うちのお風呂には、もともと温泉をひいているから。

──

ああそうか!
湯の花を入れなくても、そもそもが温泉なんですね。

草牧

湯の花を使うことといったら、
子どもにあせもができたときに、
洗面器でちょっととかして、
薬みたいにつかうくらい。

──

ほんとうに、
温泉が生活の一部になっているんですね。

草牧

いわれてみれば、そうかもしれません。

──

こうやって、
別府の湯の花が入浴剤となり、
私たちも使えるなんて、うれしいです。

草牧さん、本日は貴重な体験を、
ほんとうにありがとうございました。

(入浴剤の工場見学へ、つづきます)

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