糸井 アンリさんが作るものって、
いたずら心があるんですよね。
茶目っ気なんだけど、ユーモアだけじゃない、
ちっちゃい男の子がやるような、
ちょっと悪いこと、
ちっちゃい子がさ、いたずらするときにさ、
目をくるくるっと動かしてさ、
いいこととは限らないんだけど、
ああしてやろう、こうしてやろうっていう、
そんな気分が、アンリさんって、
ずっとあるじゃないですか。
今も、見た通りなんだけど(笑)。
アンリ あまり発育してない子どもみたい。
ぼくは、ずっとこのままなんですよね。
糸井 そうかもしれないね。うん。
アンリ 2週間前のことなんですけれども、
何か作りたいのにアイデアが出てこなくて、
1日半、もう何も出てこなくて、
もうイライライライラしてきて。
まさにその気分は子どもが遊びに行けない、
雨が降ってて外に出られなくて
イライラしてくるような気持ちを
味わいました。
それもまた、子どもっぽいですよね。
糸井 うん(笑)。だから、ずーっと変化してますよね。
アンリ そうです。
いまも、いろんな技法について、
あたためているものがいろいろあるんです。
糸井 うん。
アンリ ほんとは言っちゃいけないんだけど‥‥
ああ、今にでも、
糸井さんに見てもらいたい。
糸井 おおー?!
アンリ たとえばエルバ島でぼくが
1970年代に初めて使った技法とか。
糸井 戻ったんだ。
ゲットバック。
ふみこさん 何か最近原点に戻りたい、
戻りたいってずっと言ってて。
糸井 いいじゃないですか。ね。
アンリ で、どうしてこれを
もう1回やらないのかって、
1週間前にピッて閃いて。
きっとそれは糸井さん、好きだと思う。
糸井 聞いただけで好きだよ。
アンリ ファンタスティーク!
いまは、それだけしか言えないんですけれども。
糸井 ああ、いいです、いいですよ。
アンリ 糸井さんにね、好奇心をどんどんどんどん沸かせて、
ちょっとぼくはサドかもしれない、
待って、ドキドキしててください。
糸井 このスプーンのときもそうだったよ(笑)。
アンリ 糸井さん、
「好きじゃないっていうのは不可能だ」
っておっしゃった。
糸井 いいなあ、それ(笑)。
アンリ 糸井さんは絶対ぼくと通じるところがあるので。
ふみこさん もう言いたくて言いたくてしょうがないんですよ。
しかも糸井さんが全然喋られてない。
糸井 聞きに来たんだからいいんですよ。
アンリ ちょっと話が逸れちゃうんですけれども、
10個とか100個とか
たくさんの、いろんな物があったときに、
それを使って何かを作らなきゃいけないとなると、
ぼくは迷ってしまうんです。
物がなければないほど、
いろんな物を作る、作り出すっていうことは
ぼくにとってはそれはワクワクすること。
物があり過ぎるっていうことは、
人間の創造性っていうものをなくしてしまう、
ぼくは、そう思えるんです。
糸井 このスプーンのペンダントも、
まさしくそうしてつくられたものですね。
このペンダントには、アンリさんが、
“PRIMORDIAL”(プライモーディアル)
という名前をつけてくださった。
プライモーディアル。
“根源的な”
“根本となる”
“原始の”
“原始時代からの”‥‥。
アンリ イタリア語では
“PRIMORDIALE”(プリモディアレ)。
生きるためには食べる、
食べるとおいしい、
おいしい顔になって、
お腹いっぱいになって、
幸せになって‥‥、
だからこのスプーンは
ほんとに幸せのシンボルなんです。
糸井 うん、うん。なるほどね、うん。
「食うにこまらない」わけだ。
それに、程よく小さいんで、
食べ過ぎなくていいね(笑)。
アンリ そう、これをつけていれば
小さくてもずーっと長く、
食べている時間になるから。
糸井 うん、そうだね。
そして顔が描いてあるのが、
いたずらっ子。
やあやあやあ、こうして話せて、
とてもよかったです。
1年経つと、何も変わってないけれども、
じつは変わってること、いっぱいあるね。
海の景色とかも、変わらないけど、
心の中で、変わってるじゃないですか。
アンリ まさにそうですね。
そのときの自分の気持ちとか、
何を考えてるかによっても
すごく変わってきますよね。
だからやっぱり
自分の感情っていうのを押し込めないで、
出した方がいいですよね。
そのほうが健康的です。
糸井 そうだね。
アンリ たぶん、ぼくたち──、皆さんの中にも、
自分が子どものときだったことっていうのは
ずーっとあるんだと思う。
そして、あるとき、その子どもが出てくる。
そのことを忘れないようにした方が
いいんじゃないかな。
子どもの心に帰るって、
絶対恥ずかしいことじゃないんだよ。
糸井 うん。
アンリさん、盛んに原点返りしてますね。
60歳になったら、還暦っていって、
またゼロからスタートなんだよ。
アンリ ならぼくはあともう1回、
60歳になるまで生きる(笑)。
糸井 そうだね。ぼくはもうちょっと
長い方がいいんだけど。
アンリ (笑)。
糸井 いやあ、面白い。
1年経ったけど全く同じですね。
確かに若返ってるかもしれない。
アンリ 1年後はもっと若返ってるよ!
(おわり)
2011-08-05-FRI

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