扇子のデザインというと、基本的には、
「どういう柄にするのかを考える」
ということだと思うのですが、
もっと‥‥なんていうんでしょう、
ひとつの立体物として全体をデザインできると
おもしろいなと思ったんです。
たとえば、扇骨をどうするのか。
この、紙の下の部分、ここの骨は、
扇子を開いたとき、隙間がないようにしたかったんですね。
富士山のシルエットに、隙間を入れたくなかった。
ところが、ここに隙間がない紙扇子っていうのは
今まで作ったことがなかったようで‥‥。
そういう意味では、
地味な部分でずいぶんわがままを聞いていただきました。
細かいチューニングのようなやりとりを繰り返して、
サンプルを何度か作っていただいて、
ご苦労をおかけしながら、
ひとつの立体物をつくることができたと思っています。
モチーフを富士山にしたのは、
扇子ってすごく日本的なものだから
そこにはやっぱりストレートに日本のものがいいかな、と。
定番のシンボルを、
扇子の全体におおきくレイアウトしたら
おもしろいんじゃないか、という思いつきもありました。
そしてなによりも、
「あっぱれ感」があるといいなと思ったんです。
今ってほんとうに、必需品というよりは、
「持っていたらたのしいもの」がよろこばれますよね。
単純に、扇子を開いたら、「あっぱれ」って感じる。
そういうものが作りたかったんです。
富士のうしろに後光がさしているようにも見えて、
「あっぱれ」ですよね。
裏側から見る様子もポイントです。
「透かし」を考えたモデル。
光にかざして裏から見ると、
霞の中に富士山があるように見えるんです。
ピーター・マクミランという、
「新・富嶽三十六景」というのを
描いているかたがいらっしゃるんです。
新しい、今の日本の富士山を描いている。
(ピーター・マクミラン/版画家、杏林大学客員教授。
アイルランド出身で、1987年に来日以来、日本に暮らす。
現代版浮世絵としてパリやニューヨークで好評を得た
「新・富嶽三十六景プロジェクト」は、
日本文化における富士山の素晴らしさを国内外へ発信)
そのピーターさんが、こんなことを言ってたんです。
「富士山についていろんな句が詠まれているけれど、
いちばん美しい句は松尾芭蕉の、
『霧しぐれ 富士を見ぬ日ぞ おもしろき』
という句なんだ。
霧の中にある見えない富士山が、いい。
これは、日本の美意識を象徴するような句だ」と。
なるほど、そうだなぁと思いました。
ですからこの扇子の裏側は‥‥
じつは、こっちが表なのかもしれませんね。
この扇子をどういう人に使ってもらいかというと、
やっぱり総理大臣(笑)。
日本を代表する人に使っていただいて、
恥ずかしくないようなものになるといいなぁと、
ずっと思っていたので。
‥‥というのは、極端な望みで、
もちろん、みなさんに使っていただきたいです。
扇子を使うのは
ちょっと恥ずかしいと思っていた人とか。
ビジネスシーンでも、いいですよね。
スーツの人たちがサラッと使えるようになると
おもしろいと思います。
シンプルなモノトーンなので、当然女性にも。