「石川直樹さんとKIKIさんと森に行く」で、 森をいっしょにあるいた石川さんとKIKIさん。 撮影のあと、キャンプ場にあるバンガローで、 お話をうかがいました。 まずはアウトドアに関心が深いお二人に、 森の魅力について、語っていただきました。 |
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KIKI | きょうは雨が降って、撮影とかは困るかもしれなけいど、 雨の森ってすごく好きなんです。 とっても気持ちいい。 晴れがつづいて、乾いてるときは、 植物も、人が喉が渇いているときみたいに、 なんかこう、恐かったりするんですよ。 適度にうるおってるほうが、なんとなく落ち着く。 |
石川 | なんだか、森にも余力があるっていうか。 |
KIKI | そうそう。 生きてる感じっていうのか、 いろんなものが、空気中をとんでるような。 |
石川 | 目に見えない、ちっちゃいものがね。 森がいいのは、森全体としてもいいんだけど、 こう、ちっちゃい部分で見ていっても、 世界のすべてがあるっていうのかな。 |
KIKI | ああ、うん、そうそう。 |
石川 | 部分があつまって、世界ができてるってことが、 森に行くとわかる。 葉っぱでも土でも木の幹でも、なんでもいいけど、 とにかく、ふだんは気にしていないような、 いろんなディテールに気づくよね。 |
KIKI | 雨がふると、きのこがわっと出てきたりね。 |
石川 | そうそう、苔とかも。 森のなかに入っていくと、 歩くことと考えることって直結してるんだなって、 実感できる。 |
KIKI | あ、そうだね、直結してる。 |
── | はー、なるほど。それは、石川理論? |
石川 | いえいえ。むかしっからいろんな人が言ってて。 『森の生活』を書いた ソロー(ヘンリー・デイヴィッド・ソロー)の、 『ウォーキング』っていう本があるんですけど、 森のなかをぐるぐる歩きながら、いろんなこと、 世界のこととかを考えていくんです。 彼の散策には、目的地がない。 けれど、森のなかを歩きつづけることで 日常から解き放たれて、 自分をとりまく環境を客観的に見ることができたり。 |
KIKI | ああ、そうだー。そうかも。 歩きながら頭にいろいろ浮かんでくるっていうのは、 たしかにあるね。 |
石川 | 「歩きつづけることが、 考えることにつながっていく」 って、ソローは言ってるけど、 森を歩くと、たしかにそうだって思う。 |
── | さっき、焚き火でお茶をわかしましたけど、 待ってるあいだ、火が燃えるようすをじっと見てるのって、 ぜいたくな時間だなあって思いました。 |
石川 | なんにもしないでね。 |
KIKI | そういえば、登山とかしてても、なんにもしない時間が、 ふいに生れるときがあるんですよ。 だいたい雨が降って、天気が悪くて 停滞してるときなんですけど、 それって、ふだんの生活にはない時間だから、 わたしはけっこう、愉しいんです。 |
── | ふだんと時間のすごしかたが、ちがうわけですね。 |
石川 | 街での生活は、暖房つけてあったかくして、 冷房つけて涼しくして、 自分以外の環境を変化させるけど、 山とか森とか自然のなかにいると、 まわりをコントロールするんじゃなくて、 自分を適応させていかなきゃならないから。 ぜんぜんちがうよね。 |
KIKI | 石川さんがよく旅をするのは、 そっちのほうが好きだから? |
石川 | いやー、どうかな。 ふだんは茫洋と生きてるけど、 たまにやっぱり、体をちゃんと使いたくなるっていうのか、 そういうのはあるよね。 寒かったら、自分が体を動かしてあったかくしたりとか、 まわりを変えていくより自分を変えていくほうが、 ぼくの場合はたのしいです。 |
── | えっ、石川直樹も、ふだんは茫洋としてる? |
KIKI | うふふふ。 |
石川 | そうですよ(笑) ぼーっとしてたって時間はすぎていくし、 なんか雨がふったら、ねえ、 地下にもぐればいいか、なんて思うけど、 山で雨にふられたら、どこにも雨宿りできないから、 レインコート着なきゃとか、 雨やむまでほら穴とか木の陰でかくれてるかとか、 いろんなこと考えるじゃないですか。 やっぱりこう、感覚をいつもより動かしてる感じがする。 |
KIKI | 音とかにも、すごく敏感になるよね。 |
石川 | なる、なる。 |
KIKI | テントとかで寝てて、天気がくずれてくると、 風や雨の音が、すごく気になりだしてきて。 だんだん風の方向までわかってくるんです。 いま風向きが変わったな、とか。 外はどんなことになってるんだろう? って思って出てみると、 意外とそんなにひどい天気じゃなかったり(笑) でも、それくらい集中するときがある。 |
石川 | 想像力がひろがるっていうのかな。 |
KIKI | ね、ふくらむ。 |
石川 | テントのうすい生地の外は見えないから、 いろんなことを考えちゃったり。 ちょっとした足音とかすると、 ひょっとしてクマじゃないかとかってね。 たんなるリスとか小動物なのに。 |
KIKI | すごくドキッとしたりする。 ふだんだと、どうだろう。 帰り道にうしろから足音がして、 ちょっと怖い思いするくらいしかない(笑) |
石川 | それは、ちょっとじゃなく、怖いよ(笑) |
石川 | アラスカとかカナダとかでキャンプしててると、 クマがいるっていわれてるところだから、 テントの外でシャカシャカ音がしてると、 もう「クマかもしれない」って、すっごい恐ろしくて。 |
KIKI | うわあ、怖いなあ。 |
石川 | 開けてみたら、でかいネコっていうか、 チーターみたいなやつがいて。 それがぼくが生涯でいちばん怖かった体験。 |
KIKI | よく開けて見られたね。 |
石川 | いやほんと、なんかシャカシャカシャカシャカって、 四方八方で音がして、うろついてる感じがあって、 これほんとにやばいと思って見たら、 クマじゃなくて、トラみたいなのがいて、 ほんと腰抜かしそうになって。 |
一同 | 笑 |
KIKI | うっわーーーーー(笑) |
石川 | そんなのがいること自体知らなかったし、 ほんとなんだから、それ。 こんな、トラみたいなネコ。 ギエーーーッとかいって、こっちを見てたんです。 |
KIKI | で、どうしたの? |
石川 | どうもこうも、バッって入り口しめて、 あとはもう、ぶるぶるぶるぶる‥‥ (ふるえるマネ) |
KIKI | こわーーーー。 |
石川 | それ、ほんとにこわかった。 |
KIKI | そういうのって、 「おじゃましてるんだな」っていう気がしますよね。 森にしても、山にしても。 わたしはそんな恐い経験してないけど。 たぶんね、彼らの場所。 |
石川 | そうそう、彼らのテリトリーだから。 森って、人間の力のおよばないところだよね。 (後編につづきます) |
撮影:神ノ川智早 スタイリング:井伊百合子 ヘアメイク:益田貴子 ぬいぐるみ:金森美也子 |