LIFEのBOOK ほぼ日手帳

ほぼ日手帳2020 糸井重里インタビュー「生の声と生の手帳。」

「ほぼ日手帳2020」の発売に先がけて、糸井重里へのインタビューをご紹介します。
ほぼ日手帳に関わってくれている国内外26か所の工場や仕事場へ、半年かけてお礼行脚をした糸井重里。
使う人たちの声が、作る人たちへ届いているのを実感する旅になりました。

ほぼ日手帳を使う人を
裏切れない気持ち。

「ほぼ日手帳という商品は、ほぼ日が作っている」と簡単にまとめちゃうことはできるんです。
みなさん、そう思っているかもしれませんね。
でもぼくたちは、いろんな人の協力があってほぼ日手帳ができているんだと、お愛想じゃなく本心から思っています。
その中のすごく大事な部分が、買ってくれたり、使ってくれたり、紹介してくれたりする人たちです。

使ってくれる人の数が増え続けていて、ありがたいことに、今では85万人を超えています。
ぼくが広告屋の出身だから「宣伝がうまいから伸びたんだろう?」と思う人がいるかもしれませんが、そうじゃない。
食べてうまいから売れるラーメン屋みたいなもので、宣伝らしい宣伝はしていません。
ぼくらが言っていることといえば、「よかったら使ってください」ぐらいじゃないかな。
誰かに聞かれたら「こういうことを頑張りました」と言えることはたくさんあるけれど、あえて自慢することでもないですしね。

ほぼ日手帳を使ってくれているみなさんにどう喜ばれているのかを知りたくて、「ほぼ日手帳ミーティングキャラバン」の回数もずいぶん増やしましたし、「生活のたのしみ展」に来てくれたりもするし、使っている人たちと会う機会がたくさんあります。
アンケートやメールだけじゃなくて、実際に会っているからわかる「生の声」と、それぞれが完成品にした「生の手帳」を前にして、「いいですね!」と褒めてもらえることもあれば「もっとこうしてほしい」というご意見も聞きます。
「いいことだけ言ってください」ではない、掛け値なしのコミュニケーションができるぼくらだから、「生半可なことをしていたらこの人たちを裏切ることになるぞ」という、自分たちに対する脅かしの気持ちも、会えば会うほどに感じています。

ほぼ日手帳を作る仲間に
お礼を伝える旅に出た。

ほぼ日手帳を使ってくれている人たちと会う機会を増やせた一方で、手帳をいっしょに作っている仲間のことをよく知らないままで過ごしてきちゃったなと気づいたんです。
一年に一度、ほぼ日手帳を作るみんなで集まる全体ミーティングを開いているので、どんな会社で作っているかは知っていましたが、仲間の元を訪ねていなかったなと感じるようになったんです。
紙を漉いたり、手帳カバーに糊をつけたり、手を動かして作ってくれている側の人たちとぼくは会えていませんでした。

メールだけで感謝を伝えるんじゃなく、手間と時間をかけてでもお礼がしたくなって、「イトイのお礼行脚」というものをはじめました。
「依頼主」としてチェックをしに訪ねるのではなくて、普段のお付き合いの中でお礼の気持ちを伝えに行く旅がしたかったんです。
海外を含めた26か所、思いついたときのイメージでは10日間ぐらいで回るつもりでいたけれど、実際には7か月の時間がかかりました。
迎えてくれる側にも、緊張感はあったと思います。
必ずしも「いらっしゃい!」と大歓迎してくれるとは限りませんから。
それでも、おたがいの労をねぎらったり、工夫を褒め合ったりできたらいいなと思って行ったんです。

訪ねた先の工場や仕事場では、会社によって得意とするアイディアや改良の工夫についてのお話を聞けました。
それぞれの人たちがほぼ日手帳を作る「裏方」として働いてくださっていて、「もっとよくしよう」あるいは「間違いないものにしよう」と、いろんな部門が工夫して頑張ってくれていました。
いろんな会社の見学を続けていくうちに、ほぼ日手帳には無数の「なんとかしたい」の歴史が隠れていたことも確かめられました。
手帳に関係しているたくさんの関連会社と、その先に連なるたくさんの人びとの思い。
「ここに集まる心の総体が、ほぼ日手帳なんだよ」と、その場のみんなが感じた時間がありました。
訪ねた先で会った人たちから「ほぼ日手帳の仕事をやってよかった!」といつまでも言ってもらうために、今年より来年、来年より再来年、もっと喜べる手帳にしていきたいです。
足を動かして、顔を合わせて喋ったり、見学したりして、その気持ちがより強くなりました。

ものを作るためには、離れた人同士でも、どこかで、心をそろえられるチームワークが必要です。
半年をかけて旅した「イトイのお礼行脚」では、「ほぼ日」の社内にいる誰でもが、希望をすればいっしょに見学できるようにしていたのもよかったと思います。
ほぼ日手帳の担当者ではない乗組員であっても、ほぼ日手帳を作る工場や仕事場を訪ねて、顔を合わせてお話を聞くことができたんです。
機械の話、経営の話、アイディアの話、そして人間の話。
今すぐにこういう効果がある、ということではないでしょうが、大きな意味を持つ一年になったと思っています。
特にこの一年は、ぼくらにしかできないことをやれたという思いがあります。
「ほぼ日刊イトイ新聞」20周年だった年に、「思いを新たにやっていきましょう」とほぼ日手帳に関わってくださっているみなさんに対して言いやすくなりました。
ほぼ日手帳を作っているみなさんのお仕事を代弁して「ほぼ日手帳は、細かいところまですごいんだよ!」と自信を持って言えるようになりました。
ぼくたち「ほぼ日」にとっても、心を洗い直してひとつになれるきっかけになった旅でした。

使う人たちの声が
作る人に活かされる。

ほぼ日手帳を作っている人たちが一所懸命に取り組んでいることを目の当たりにして、身体に染み込ませた今、ほぼ日手帳を使ってくれている人たちの声が、作っている人たちの中にも染みこんできた感じがしています。
「もっとこうしてください」という要望だけではなくて、どんな喜び方をされているのかが、ちゃんと伝わってきていると思うんです。

何か製品を作っている人はみんな感想が欲しくてしょうがないものですが、恵まれていることに、ぼくらの元にはたくさんの声が届いてきています。
ほぼ日手帳を普通に使っている人たちが、来年も使ってくれる。
友だちに紹介してくれたり、プレゼントしてくれたり、受け止めてくれたりする人たちのおかげで、もっとしっかりしなきゃいけないなと思えるんです。

「ほぼ日手帳は、ほぼ日が作っているんですよね」と言われている以上は、ぼくらに一番の責任があるということを、改めて見直すことができて、本当によかったと思います。
お礼の行脚で海外も含めた26か所、全部をきちんと回り切れたことでぼくの心も満足しました。
これからもっといいものを作っていくことにも必ず繋がると思っています。

写真:川原崎宣喜