休符と珈琲。
対談 タナカサトル ✕ 糸井重里
コラボレーションブレンド、
「Torahebi 1101 Blend」
の完成と発売を記念して、
虎へび珈琲オーナー・タナカサトルさんと、
糸井重里の対談をお届けします。
お店にはよく訪れている糸井ですが、
サトルさんとゆっくり話すのは、この日がはじめて。
コーヒーの香りに包まれながらの会話は、
最後までたのしくころがりました。
新潟から上京してファッションの道に進み、
やがて「虎へび珈琲」をうみだすまで、
サトルさんの半生をたどる、全4回の物語です。
タナカサトルさんのプロフィール
虎へび珈琲について
第3回
休符と珈琲。
糸井
2000年に始めたファッションブランドは、
なんという名前なんですか。
サトル
ぼくの名前そのままで、
「SATORU TANAKA(サトルタナカ)」です。
糸井
「虎へび珈琲」を始めたのは?
サトル
2020年です。
糸井
そこにはけっこう間がありますね。
サトル
40代の後半くらいからぼく、
海外を旅するようになって、
海外に住みたいと思うようになったんです。
それまでにも旅はたくさんしてたんですけど、
きちんと住んだことがなかったので。
最初、マルタ島に半年住んで、
そこからエストニア行ったりとか、
フィンランド行ったり、ロシアにも。
そのあと南米に入って、
ペルーとかアルゼンチンを回って、
最終的にマイアミに住んでたんですよ。
マイアミに半年ぐらい居て、
ここでもう永住するかな、
くらいの気分でいたときに、
父親が他界しまして。
糸井
戻らなきゃ、となった。
サトル
そうですね。
15で家出をして、
ほとんど新潟に帰らずにいましたし。
マイアミから新潟に戻りました。
そのとき車で迎えに来たのが、
甥っ子の彼(焙煎士・今井さん)なんです。
糸井
新聞配達から始まった物語に、
ようやく彼が。
サトル
そのとき彼からいろいろ話を聞いた中で、
まあ彼もたぶん、安易だったと思うんですけど、
「コーヒーの焙煎士になりたい」と。
糸井
さっき彼のことを
「パタンナー」と呼んでましたけど、
こんなコーヒーをつくっちゃう
パートナーと出会うのは簡単ではないですよね。
でもそうか、親戚だ。
サトル
姉の息子です。
糸井
それは簡単だったね(笑)。
サトル
そうですね(笑)。
マラリアウィルスのワクチンを研究していた
科学者だったのに「焙煎士になりたい」と。
糸井
その転身も興味深いけど、
まあ、なにしろ、コーヒーと出会った。
サトル
出会ったというか‥‥
これはぼくの憶測なんですけど、
以前おふくろから電話がかかってきたときに、
「お前はそうやって海外でぷらぷらしてるけど
このあと何するんだ?」と言われて。
なんとなくぼくは深く考えもしないで、
「カフェでもやろうかな」
くらいのことを言ったんですよ。
それを覚えていたおふくろが、
焙煎士になりたい彼に、
「サトルはカフェをやりたいんだって」と。
糸井
くっつけた。
サトル
彼もファッションは好きだったんです。
ぼくの洋服の在庫を
勝手に着たりしてたし(笑)。
それで、まあ、じゃあやってみようかと。
糸井
マイアミから戻ってきたのは何歳でした?
サトル
ええと、47、48ですね。
糸井
ああ、いい年齢ですね。
ぼくはその歳のころに、
ほぼ日を始めようとしてましたから。
サトル
あ、そうですか。
糸井
ぼくはほぼ日を50で始めてます。
45から47くらいは、
もう、「一回ぜんぶやめたい」と思ってた。
サトル
同じくらいの歳に、ぼくもそういう気分で、
ファッションを1回捨てて、
世界中を回ってました。
そこから戻ってきて、
「虎へび珈琲」を始めたのが50なんです。
糸井
ああ、すっかり同じ年齢です。
でもそうですか、
ファッションも1回は捨てていた。
サトル
はい。
糸井
何ていうんだろう‥‥。
だからつまり、
「おんなじことをやってても、おんなじだなぁ」
と思っちゃうんですよね。
サトル
ああ、そうです(笑)。
糸井
そう思うのがいやだから、
もっと夢中になることとか、
一所懸命やらないとできないことを、
やりたくなるという。
サトル
ほんとに、そういう気持ちでした。
糸井
ふたりが親戚同士っていうのは、
お得でしたね、お互いに。
サトル
そうですね。
やっぱり血縁関係があると強い
という感覚はあります。
糸井
マフィアですよね。
ただし、犯罪の無いマフィア(笑)。
サトル
(笑)
糸井
冗談のように話してますけど、
濃いつながりというのは、実は大事で。
サトル
はい。
マフィアでもコミュニティでも共同体でも、
言葉として違うだけで、
濃く結びつきたい気持ちは大事にしています。
「虎へび珈琲」という名のもとに、
強い者たちが集まって、
「ただコーヒーを出すとか
単にモノを売るということではないんだ」
という信念をしっかりとみんなで持って、
ゆくゆくは次のステップへ昇華させていきたい、
という思いがあります。
糸井
それには、
おふたりだけじゃないチームが必要ですね。
サトル
ええ。
仲間たちはもっと必要で、
それはすこしずつ集まりつつあります。
糸井
うーーーん‥‥。
これは‥‥。
ここまでお話をうかがって思うんですけど。
サトル
はい。
糸井
運がいいですね。
やっぱり、運がいいです。
サトル
いいんでしょうか。
糸井
いいと思う。
しかも、ものすごくいいと思います。
お母様は「成功してない」とおっしゃいますが、
さっきも言ったように、
あのコーヒー屋さんをやっているわけで。
うちの会社の誰かさんなんか、夢中ですよ。
サトル
はい(笑)。
糸井
ファンの数は増えてますよね?
サトル
そうですね、おかげさまで。
糸井
成功と失敗を何が決めるのかは
わからないですけど、
80歳になってから、
自分の成功に気づくことはありますから。
サトル
そういうものですか。
糸井
ぼくは横尾忠則さんとの付き合いが
ずっとあるんですけど、
最近になって横尾さん、
「絵を描くのが嫌だ、めんどくさいって、
ずーっとぼくは言ってきたけど、
思えばそうでもなかったような気がする」
って、いま言うんです。
88ですよ?
サトル
すごいことですね。
糸井
そういうことだと思うんです。
あとはそう、
新しいことを始めるとき、
間に「休符」が入っているのが大きいと思う。
サトル
休符。
糸井
音楽の、楽譜の中にある「休符」です。
サトルさんのやってきたことには、
ぜんぶ休符が入ってますよね。
サトル
ああ‥‥。
糸井
ちょっと休んで、すぐ次へ。
今の場所から出て、別な領域へ。
すべてを捨てちゃって、新しいことを。
短い休符も、長い休符もある。
サトル
そうですね。
糸井
それ、すごく大事なんです。
休符がないと、
前に入れたものでいっぱいで、
新しいのを入れられないんですよ。
冷めちゃった水は、
1回こぼすか捨てちゃわないと、
あったかいお湯を入れられないんです。
サトル
なるほど。
糸井
何回も休符があったから、
そこに運がきたんじゃないですかね。
長い休符のときには、
甥っ子のコーヒーが入ってきたりして。
サトル
言われてみると、そういう気がします。
糸井
ぼくもほぼ日を始めてから、
しょっちゅう入れるようにしてるんです。
サトル
休符を。
糸井
入れたほうがいいとぼくは思ってます。
2024-10-11-FRI
(つづきます)
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