新潟の日本酒「有りがたし」の梅酒と古酒をご紹介します。 新潟の日本酒「有りがたし」の梅酒と古酒をご紹介します。
「有りがたし」というお酒を
はじめて「ほぼ日」で紹介したのは、
いまから21年前、2003年のことでした。



その前年、「ほぼ日」4周年の創刊記念日、
総勢14人だった当時の乗組員一同は、
新潟県中頸城郡(現在の上越市)吉川町を訪ねます。
当時、必要最小限の水と肥料で作物を育てる
「永田農法」を提唱している農業研究者の
永田照喜治さんと親しくしていたご縁で、
永田農法が実践されている田畑を見学に行ったのです。
永田農法の玄米で酒を仕込む
そのとき、永田農法で育てた酒米「山田錦」を
玄米に近い状態(精米歩合90%)で仕込んだという、
とくべつな日本酒の存在を知りました。
吉川町には「よしかわ杜氏の郷」という
第三セクター(地方自治体と民間企業による共同出資。
2023年には民営化されました)の酒蔵があり、
地元の米と水で酒づくりをするなかで、
そのお酒がうまれ、
2000年から販売を始めたということでした。
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そもそも──、日本酒をつくるときには、
まず「米を磨く」工程が必要です。
米をより多く磨く(削る)ことで
香り高く華やかでスッキリとした味わいに仕上がるとされ、
普通酒で70%(つまり周りを3割ほど削ります)以上、
吟醸酒なら60%、大吟醸酒は50%以上、
なかには「20%以下まで磨いた」、
およそ8割を削ってしまうような
高級なお酒もあるほど。
そんななか「90%」という精米歩合は、
日本酒づくりにおいてたいへん難しく、
また、とてもめずらしい事例だということでした。
当時、まだ若く日本酒の味もよくわかっていなかった
「ほぼ日」乗組員たちですが、
それでもそのちょっと特別なおいしさには
驚いたものでした。
命名は糸井重里
当時、このお酒には、
まだちゃんとした名前がついていませんでした。
そこで、ちょうど吉川町をおとずれていた
糸井重里に命名が託されます。
そうしてつけた名前が「有りがたし」でした。



当時、糸井重里はこんな文章を寄せています。
これだけたっぷりの天然の恵みをいただいて有りがたい、
と言う気持ちが第一にありました。
ありがたい、という言葉は、もともと「有り難し」。
この酒が有ることそのものへの驚きが、表現されてます。
さらには、この酒をつくる人と時に対しての感謝も。
そして、誰かに感謝の気持ちを伝えるときに、
この酒を携えて行けたら、いいなぁと思いました。
それから「有りがたし」は製品化され、
いまや「よしかわ杜氏の郷」を代表する
日本酒になりました。



これだけのご縁があるのですから、
いまの「ほぼ日」だったら「ほぼ日ストア」で
このお酒の販売を行なったことでしょう。
けれども2003年当時は「ほぼ日」が
お酒の販売免許を持っていなかった‥‥どころか、
ちゃんとした通信販売の仕組みすらなかった頃。
「有りがたし」のことは、
副産物である酒粕を販売したことが数度ありましたが、
お酒じたいは紹介をするのみにとどまっていたのでした。
時をこえて
この「有りがたし」の重要なキーパーソンが、
「よしかわ杜氏の郷」で世話役をしていた
山本秀一さんでした。
山本さんは杜氏(酒づくりの専門家)ではなく、農業家。
永田先生の弟子であり、
吉川町で最初に永田農法による
山田錦の栽培を始めたひとです。
吉川町と「ほぼ日」のつながりにおいて
ずっとハブのような役割を
引き受けてくださった山本さんから、
ひさしぶりに連絡をいただきました。
すでに酒づくりの現場を離れて10年の山本さんでしたが、
「このお酒だけはみなさんに紹介したくて」と、
2023年のある日、電話をくださったのです。



「『有りがたし』で梅酒を仕込んだんです。
ふつうの梅酒はアルコール度数の高い焼酎や
ホワイトリカーで仕込むので、
度数の低い日本酒でつくることじたい、
うんとめずらしいことなんですよ。
しかも、とてもおいしくできて、
全国の品評会で銅賞をいただいたんです。
お送りしますので、いちど飲んでみてください。
それから、『有りがたし』の古酒があるんです。
仕込んだ年からずっと保存していたもので、
2013年から2016年のものが
すこし多めにあるので、
それもお送りしますね。こちらも味見をどうぞ。
めずらしいものですよ!」
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純米酒で梅酒をつくる
梅酒の名前は「純米梅酒 リキュール」。
銀色の梅がおおきく一輪描かれたシンプルなラベル、
そしてシールには
「純米酒『有りがたし』仕込み」とあります。
アルコール度数は10度。
通常の梅酒は、梅を35度程度のお酒に漬けることで、
カビや腐敗をふせぎながらエキスを抽出し、
結果、20度程度のお酒ができあがります。
けれども「有りがたし」の原酒は、
アルコール度数が高くても17~18度。そこから
「どうやって梅の香りと旨みを引っ張り出すか」が
かなりの試行錯誤だったのだそうです。
山本さんによると「企業秘密」ということでしたが、
「よしかわ杜氏の郷」はある方法でそれを成功させます。
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「世の中には、
純米酒でつくった梅酒は存在します。
けれどもおそらく、
僕らのやりかたでつくっているところは、
ほかには無いんじゃないかなあ」



ちなみに「有りがたし」の原酒の味の特徴は、
旨みがひじょうに強いということ。
一般的な大吟醸などのお酒にくらべて
3~4倍のアミノ酸が含まれています。
もちろんこの梅酒には、そのおいしさが生きています。



「ですから梅酒づくりに
ふつうは入れる氷砂糖は、
ほとんど入れていないんです」



梅の実については、
吉川町で1本ずつ手植えをして育てようとしたところ、
残念ながらうまくいかなかったそう。
それで同じ吉川町と同じ上越市内の名立区で
有機農法で特別栽培をしている梅のなかから
“いちばんいいと思う梅”を使いました。
あ・い・う・え・おっ!
そうして届いた「有りがたし」の梅酒を、
さっそく「ほぼ日酒店 YOI」のメンバーで
試飲することになりました。



山本さんによる前評判は「飲んだ人がみんな唸る」。
「あぁ!」「いい!」「うわっ」「えっ?」「おぉ‥‥」と
飲んだ人が言うのだそうです。
とくに、酒飲みゆえに、
梅酒はそんなになじみがない人が驚くと。
そんな前評判をうけ、
ビール好き、焼酎好き、ワイン好きが
試飲をしたのですが──、
(香りを嗅いで)「えっ?」
(ひとくち飲んで)「あぁ!」「うわっ」
(飲み終わって)「おぉ‥‥」「いい!」。
まったく山本さんの言う通りになってしまいました。
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まずグラスに注ぐとき立つ香りが、梅そのもの。
花が咲いたような香りが鼻をくすぐります。
グラスに口を寄せるとその香りはますます強くなり、
口にふくむと、こんどは味と香りが一体に。
もともと「有りがたし」の持っている旨みとともに、
梅らしい甘さが、とても自然に感じられます。



「この梅酒、このままストレートで飲みたいなあ」
と、ふだんはビール党の乗組員。
たしかに「おつまみに何を準備しようか?」
なんて考えなくても、
これだけでじゅうぶん「ごちそう」になる印象でした。
ワインのような日本酒を
そしてもうひとつ、
山本さんが送ってくださったのが
「有りがたしの古酒」。
メモには「2011年から2016年までの、
それぞれの年の古酒を送ります」とありました。



ワインと違い、日本酒には
「ヴィンテージ」(ぶどうの収穫年)という考えは、
あんまりありません。
それは、その年の気象条件によって、
同じ品種、同じ畑であっても
収穫したぶどうの味が左右されるため、
できあがるワインの味も、
年によって個性がうまれるためです。
「2015年のブルゴーニュはぶどうの当たり年」
なんて言い方がされるのも、それゆえなんです。



けれども日本酒は、原料がお米(酒米)で、
年によって収穫量の増減はあっても、
大きく味がかわることがありません。
さらに、ワインはその土地の
ぶどう農家と醸造家がタッグを組んで
つくることが多いのですけれど、
日本酒の場合は、お米をつくるのは農家、
お酒をつくるのは蔵元(醸造所)と
分かれている場合がほとんど。
そのお米も、流通業者が入ることで
いろいろな人がつくった酒米がブレンドされて
使われることもすくなくないんですって。
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けれども「よしかわ杜氏の郷」で
山本さんが目指した酒づくりは、
まさしく「ワインのような」つくりかた。
酒米づくりから醸造、販売までを
一連の流れで行なうだけでなく、
果皮や種も一緒に発酵させる
赤ワインの製法をとりいれて、
お米をまるごと、でんぷんだけでなく
たんぱく質までも残したまま仕込むので、
お米本来がもつ旨みも一緒にお酒になる、
というわけなんです。



山本さんは言います。



「そもそもは、酒づくりを始める前に、
永田農法の永田照喜治先生に
フランスのボルドーに連れていっていただいたことが
きっかけだったんです。
ボルドーはいわずとしれたワインの名産地。
シャトー(ボルドーにおいて、ぶどうの栽培から
醸造・熟成・瓶詰めまでを自分たちで行う生産者)を
訪ねたり、醸造学部をもち、ヨーロッパ全土から
ワイン造りを学ぶ学生が集まる
ボルドー大学の学長と話したり。
そんななかで、あたらしい日本酒づくりを考えると、
自分で原料を作って、
その酒屋の社長が自分で仕込みをするのが
いちばんいいと思ったんです。
『ことしはこんな味になったね』という話ができる、
そんな個性をもつ日本酒があってもいいだろうと、
それが『よしかわ杜氏の郷』のスタートだったんですよ」



それゆえに「有りがたし」には、
その年の天候に左右され、
生産量の変化、味のちがいが生まれました。
大切なお米を削らずに
さらに、玄米での酒づくりというチャレンジも、
永田先生の提案。



「先生から言われたんですよ、
『山本君、玄米で酒を作ったらどうだい?』って」



米づくりの農家でもある山本さんにも、
「大事に育てたお米を削らずに酒がつくれたら」
「米は米として最後まで」
という思いがありましたから、もちろん賛成。
けれども杜氏の方の意見はちがいました。
「できるわけがない」という反応だったのです。



「最初に担当してくださった杜氏は、
富岡さんという、当時60年のキャリアを持つ
おじいさんでした。それで僕が
『申し訳ないけど、磨かん酒作ってください』
って言ったら、ムチャクチャ怒られました。
『俺の顔に、お前、泥を塗るのか』と。
うまくできるはずがないということだったんですね。
玄米の外側についている糠は、
たんぱく質や脂質を含み、
それが、麹菌や酵母が発酵するのを邪魔しますから、
理論的には『できない』と言われても
しかたのないことでした。
それでも、『失敗したら、俺が全部桶ごと買うから、
個人で買いますから、とりあえずトライしてください』と
伏してお願いし、小さなタンクで始めてもらったんです」
写真
そうして、そのむずかしい仕事に、
富岡さんはチャレンジ。
そしてやっと来た
「おい、できたぞ」という日──。



「富岡さんが、試飲に来いと僕を呼び、2人で、
杜氏の部屋で出来上がった酒を飲んだんです。
そのときの富岡さんの顔を、
今でも僕は忘れられません。
ニカッと笑われてね、
『おい、山本。いけるじゃねえかよぉ』って」



そうして完成したお酒に「有りがたし」という名前がつき、
毎年、出来上がったぶんを売り切るかたちで
生産・販売が続けられてきました。
熟成することで味がかわる
そのなかで、毎年、すこしだけ売らずに残し、
実験的に貯蔵をつづけていたぶんがありました。
ワインほどではありませんが、
日本酒も、原液のまま熟成させることで味が変化します。
しかも「有りがたし」は玄米からつくることで、
搾りたてと、寝かせてからでは、
うま味が変化する率が大きく、
熟成させることで酸味の角がとれ、
舌ざわりがなめらかで、
香りにもこうばしさが出て、
まろやかな味わいになっていくんです。



「よしかわ杜氏の郷」では当初、
搾りたてを春に、寝かせたものを秋に
販売していました。
いまでは3年貯蔵の「有りがたし 熟成原酒」も
商品化していますが、それより古い、
蔵にしまったままのものがあり、
これを、今回、「ほぼ日」にすこしだけ
分けていただくことになりました。
「ほぼ日酒店 YOI」での販売は──。
「よしかわ杜氏の郷」との出会いから21年、
「ほぼ日ストア」で「有りがたし」を販売します。



ラインナップは、4つ。
あらためてご紹介します。
写真
有りがたし 純米 720ml
2,069円(税込)
「杜氏の郷」として江戸時代からの歴史をもつ
新潟県上越市吉川町にある
「よしかわ杜氏の郷」でつくられた純米酒です。
原材料、製法、生産数の貴重さから
糸井重里が「有りがたし」という名前をつけました。
永田農法で育てた酒米・山田錦をほぼ玄米の状態で、
お米をまるごと、でんぷんだけでなく
たんぱく質までも残したまま、
尾神岳の伏流水を使って仕込んでいます。
お米本来がもつ旨みがひじょうに強く残り、
一般的な大吟醸などのお酒にくらべて
3~4倍のアミノ酸が含まれています。
写真
有りがたし 純米 古酒 200ml 2013年/2016年
2,810円〜4,015円(税込)
「よしかわ杜氏の郷」の蔵で熟成させた
2013年から2016年までの4年分の古酒を、
「YOI」メンバーで飲み比べ、
軽さ、重さ、甘さ、辛さが、微妙にことなるなか、
いちばん個性のきわだったふたつ、
2013年と2016年をご紹介します。



[2013年もの]

濃く、古酒らしい芳醇な香り、
米らしさのなかに、熟した果実みがあります。
尖ってはおらず、かすかな酸味が残り、
けれども口にまとわりつくことはありません。



[2016年もの]

くせがなく、さわやか、さらりとしています。
米っぽさの中に、フローラル香、フルーティさ、
甘さがあり、すっとのどに通るやわらかなキレ、
ぱっと消える鮮やかさもあります。
写真
純米梅酒 リキュール 720ml
2,200円(税込)
「純米酒 有りがたし」で仕込んだ梅酒です。
「よしかわ杜氏の郷」が開発した製法で、
梅のおいしさをひきだしています。
梅の実は、吉川町と同じ上越市内の名立区で
有機農法で特別栽培をしている梅です。
グラスに注ぐと立つ香りは、梅そのもの。
花が咲いたような香りが鼻をくすぐります。
グラスに口を寄せるとその香りはますます強くなり、
口にふくむと、こんどは味と香りが一体に。
もともと「有りがたし」の持っている旨みとともに、
梅らしい甘さが、とても自然に感じられます。