糸井 |
でも、どっちでもいいって言いますけど、
逆に、ゲーム的なルールを設定して
遊ぶっていうのも好きでしょう、京極さん。 |
京極 |
ああ‥‥そうかもしれませんね。
おもしろいから。 |
糸井 |
例の、あの文字組なんかも。
※京極さんの著書は、ひとつの文章が
ページをまたがることのないよう構成されています。 |
京極 |
そう、あれはね、よくこだわりと言われます。 |
糸井 |
どっちでもいいだろうって
だれもが言いたがるようなことを、逆に‥‥。 |
京極 |
うん。 |
糸井 |
ああいうのを見ると
ものすごくこだわりのある人なんじゃないかと
思っちゃうんだけど‥‥
ルールを設定して遊んでるんですよね、あれは? |
京極 |
まあ、もっといい方法があれば、
すぐにでもやめますけどね。
まったく固執はしてないの。 |
糸井 |
うん、うん。 |
京極 |
まあ、いちおう意図を言っておくとですね、
1ページだけ破いても、読めるようにというか‥‥。 |
糸井 |
親切心ですか(笑)。 |
京極 |
無駄なサービス(笑)。
屋台のコースターみたいな。
いや、小説でも、映画でも、
読んでる最中、
観てる最中がおもしろければいいって
信念があるんですよね、ぼくには。
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糸井 |
それは正しいですよね。 |
京極 |
主義主張、哲理思想、文学真理、
そんな大仰なものは、まあいらない。
とにかく、ページをめくる指が止まらない‥‥。 |
糸井 |
うん。 |
京極 |
文字を追う目が止まらない。それだけでいいです。 |
糸井 |
つまり、読んでるときに幸せならば
読み終わったときに
ぜんぶ忘れちゃってもいいだろうと。 |
京極 |
ええ、たとえば
「この小説はこの1行だけがおもしろい、
あとはダメ」と言われても
それはそれで、本望なんですよ。 |
糸井 |
うん、うん。 |
京極 |
で、ぼくの小説は無駄に長いから(笑)、
ここでやめたいって思ったときに
つぎのページに文章がまたがってたら、
めくっちゃうじゃないですか。
だから‥‥それは卑怯だなと。
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糸井 |
卑怯って(笑)。
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京極 |
テキストのおもしろさじゃなく、
物理的要因でページめくらせるんだもの。
まあ、ページ内できっちり終わっていれば
そこでやめても、つぎは頭から読めますし。 |
糸井 |
うん、うん。 |
京極 |
そういう理由で文章の「切りそろえ」が生まれて。
で、ぼくはグラフィックデザイナーでもあるし、
あまりにも
見ためがガタガタしてたら気持ち悪いとか、
このページは漢字が多いだとか、
あのページは
ひらがなが多くて真っ白けだなっていう‥‥。 |
糸井 |
デザイン的な問題も大きいんですね。 |
京極 |
というより、「リーダビリティ」ですよね。 |
糸井 |
ああ、読みやすさにも、関わってきますからね。 |
京極 |
つまり、読んでくれる人に対する、
なんというか、ある種のご奉仕というか‥‥。
そういうところも含めて、
小説家の仕事なんじゃないかと思ってるんで。 |
糸井 |
でも、そんなことやってるのは
京極さんだけでしょう。 |
京極 |
いや、商売ですからね。
読者に読んでもらうための作業は
惜しみなくしなくちゃいけない。
「俺は内容だけに責任を持つから
改行は機械がやれ!」って、
それは乱暴すぎるんじゃないかと思うんですよ。
そんなたいそうな中身じゃないし。 |
糸井 |
すごいなぁ。 |
京極 |
商品としていかがなものかと。
商品ですからね、小説だって。 |
糸井 |
うん、うん。 |
京極 |
ぼくは、「小説」という商品の
テキストのパートを担当しているだけなんです。
つまり、校閲・装丁・製本・販売‥‥と、
書籍というのは
みんなで作っているんだという考えなんですね。 |
糸井 |
チームプレーであると。 |
京極 |
そう。そして、そのチームのなかで
ぼくにはなにができるだろうって考えたら、
テキストのパートだし、そういう作業って‥‥。 |
糸井 |
京極さん以外、できないよね。 |
京極 |
まあ、やればできることですし。
やめたほうがよくなるなら、いまこの場でやめます(笑)。 |
糸井 |
そうやって考えていくと、
詩人が改行するのと同じことなんですね。 |
京極 |
そう! そうなんですよ。
こだわってるわけじゃないんです。 |
糸井 |
ようするに、いいものを作ろうとしてる。 |
京極 |
みんなで「小説」という商品を
よくしようという、
ささやかな企業努力の一環なのであって、
個人的なこだわりじゃないんです。 |
糸井 |
なるほどなぁ‥‥。
で、京極さんの「こだわりのなさ」とか、
こういう話が
またいつか「寝ない」につながってくる‥‥と
思ってて、いいんですよね?(笑) |
京極 |
え? ああ、そのうちに、たぶん(笑)。
<つづきます>
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