京極 |
でもね、やっぱりね、
商品を売ってるんだっていうが意識が
低いんですよ、出版業界って。 |
糸井 |
うん、それは、わかります。 |
京極 |
宣伝ひとつとっても、ひじょうに下手だし、
読者との距離のとりかたも、なんか不器用で。 |
糸井 |
業界全体が、まだ
生産優位の考えかただからでしょうね。 |
京極 |
たとえば、ドラッグストアが
できてることを
なんで書店で展開できないのかと。 |
糸井 |
つまり、消費者の側から考えてない。 |
京極 |
流通のしくみからなにから、
見直すべきところは、多々あると思うんです。
たとえば‥‥ですけど、
ぼくは、いまのところ「InDesign」というソフトを使って
小説を書いてるんですね。
で、それだけで、
かなりコストを押さえられるんですよ。 |
糸井 |
ほほう‥‥。 |
京極 |
工程を5つ6つ、カットできるんです。
それによって、制作費をかなり圧縮できる。 |
糸井 |
つまり、そのぶん、予算を他に回せると。 |
京極 |
定価を下げることだってできますよね?
それって、
すごくユーザーフレンドリーなことだし、
作り手の側からしてみても
工程がカットされるということは、
スケジュールが短縮できるわけですから‥‥。
今まで以上に、内容を吟味することができるし、
校正の時間だって取ることができるわけ。
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糸井 |
悪いこと、ひとつもないですね。 |
京極 |
でも、ぜんぜん普及しないんです(笑)。
少しずつ、浸透はしてきてますけど、
競合ソフトも出ない。 |
糸井 |
いっぱいいっぱいじゃないと
生きがいがないって人、
まだまだ、たくさんいるんでしょうね。 |
京極 |
そうですねえ。
ぼく、どうも「ガンコ職人」的に
ムズカシイ人に見られがちのようなんですけど‥‥。 |
糸井 |
逆だよね、言ってることは。 |
京極 |
小説そのものの作りかたは
職人的だと思いますけど、こだわりはないですし。
効率的なのは大好きだから。 |
糸井 |
ユーザー側からの視点で
「こうだったらいいのに」ってことですよね。 |
京極 |
出版も商売ですからね、
顧客の気持ちを汲めるか汲めないかは、
やっぱり、大事なことですよ。
ひとつの大ヒットより、継続的な需要を獲得せんとねえ。
サービスが足りません。この業界。 |
糸井 |
それは、あの‥‥さっきの、
「暑さ寒さを感じない」じゃないけど、
京極さんて、タフでストレスがないから、
なんというか、やりたいことに素直なんでしょうね。 |
京極 |
どうなんですかねえ‥‥。 |
糸井 |
仕事が辛くてしょうがなかったら
そんなこと思えないですよ、きっと。 |
京極 |
それは‥‥そうかもしれない。 |
糸井 |
「毎日毎日、辛いんだよ」って人に
「もうちょっと、
サービスしてみたら?」なんて言っても、
「冗談じゃない、
おまえになにがわかる!」って。
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京極 |
うん、そうか‥‥。
でもね、ぼく、事務所に入ってるんですけど‥‥。 |
糸井 |
ああ、大沢在昌さんと、
宮部みゆきさんといっしょのね。 |
京極 |
稼ぐんですよ、そのふたりが。 |
糸井 |
でしょうね(笑)。 |
京極 |
ぼくも、同じくらい働いてるつもりなんですけど、
いつも、怒られるんです。
‥‥「シャドーワークばっかりだ」って。
|
糸井 |
裏方仕事じゃないかと(笑)。 |
京極 |
そう。 |
糸井 |
買って出てるふし、ありますよね。 |
京極 |
いや、決して買って出てるわけじゃないんだけど、
頼まれて、できることだと、やっちゃってるわけ。 |
糸井 |
うん、うん。 |
京極 |
やりたいわけじゃないんだけど、
結局、効率を考えるとね、早いとか、安いとか‥‥。 |
糸井 |
俺、暑くないし、寒くないし(笑)。 |
京極 |
だけどね、そうした仕事に対価が発生すると考えたら、
ぼくだって、けっこう稼いでいるのじゃないか。 |
糸井 |
あるいは、稼いだ結果として
「シャドウワークしていい権利」を
お金で買ってると考えるとか(笑)。 |
京極 |
そう、そうか。そうなんだ。 |
糸井 |
つまり、生産と消費を足してみたら、
いちばんの稼ぎ頭かもしれない。 |
京極 |
うーん、それでも、
宮部さんにはかないませんて(笑)。 |
糸井 |
じゃあ、
読者に発生させた熱量で計算するとか(笑)。 |
京極 |
ああ、それだと。 |
糸井 |
宮部みゆきと京極夏彦、
それぞれ1ページ読んだときの
カロリー消費量をくらべたら、
きっと、京極夏彦のほうが、
本文が二段組だし、難しい漢字が多いから‥‥。 |
京極 |
勝てますかねえ。 |
糸井 |
あるいは、本を運ぶときに
どれだけの筋力を使ったかとか。 |
京極 |
‥‥ただね、ぼくの本は
ハードカバーじゃなかったりすることが多いので。 |
糸井 |
そうか(笑)。 |
京極 |
やっぱ勝てません。 |
糸井 |
そうだった(笑)。 |
京極 |
まあ、ぼくは勝ち負けがキライだし、
別に不満はないんですけど。 |
糸井 |
不満はない(笑)。 |
京極 |
不満はないんですけど、心配はされます。
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糸井 |
そんなに仕事して平気なのかと。 |
京極 |
みょうにムリのきく体質が、わざわいしてるのか。 |
糸井 |
ん‥‥。 |
京極 |
だから、その、テーマの「眠り」には
ぜんぜん話が及ばないわけですけども‥‥。 |
糸井 |
いや、今またちょっと、なんか寄ってきた(笑)。 |
京極 |
うーん、「睡眠」のまわりを
ウロウロ周回してるなぁ‥‥さっきから(笑)。
<つづきます>
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