第7回 みょうにムリのきく体質。

京極 でもね、やっぱりね、
商品を売ってるんだっていうが意識が
低いんですよ、出版業界って。
糸井 うん、それは、わかります。
京極 宣伝ひとつとっても、ひじょうに下手だし、
読者との距離のとりかたも、なんか不器用で。
糸井 業界全体が、まだ
生産優位の考えかただからでしょうね。
京極 たとえば、ドラッグストアが
できてることを
なんで書店で展開できないのかと。
糸井 つまり、消費者の側から考えてない。
京極 流通のしくみからなにから、
見直すべきところは、多々あると思うんです。

たとえば‥‥ですけど、
ぼくは、いまのところ「InDesign」というソフトを使って
小説を書いてるんですね。

で、それだけで、
かなりコストを押さえられるんですよ。
糸井 ほほう‥‥。
京極 工程を5つ6つ、カットできるんです。
それによって、制作費をかなり圧縮できる。
糸井 つまり、そのぶん、予算を他に回せると。
京極 定価を下げることだってできますよね?
それって、
すごくユーザーフレンドリーなことだし、
作り手の側からしてみても
工程がカットされるということは、
スケジュールが短縮できるわけですから‥‥。

今まで以上に、内容を吟味することができるし、
校正の時間だって取ることができるわけ。

糸井 悪いこと、ひとつもないですね。
京極 でも、ぜんぜん普及しないんです(笑)。
少しずつ、浸透はしてきてますけど、
競合ソフトも出ない。
糸井 いっぱいいっぱいじゃないと
生きがいがないって人、
まだまだ、たくさんいるんでしょうね。
京極 そうですねえ。

ぼく、どうも「ガンコ職人」的に
ムズカシイ人に見られがちのようなんですけど‥‥。
糸井 逆だよね、言ってることは。
京極 小説そのものの作りかたは
職人的だと思いますけど、こだわりはないですし。
効率的なのは大好きだから。
糸井 ユーザー側からの視点で
「こうだったらいいのに」ってことですよね。
京極 出版も商売ですからね、
顧客の気持ちを汲めるか汲めないかは、
やっぱり、大事なことですよ。

ひとつの大ヒットより、継続的な需要を獲得せんとねえ。
サービスが足りません。この業界。
糸井 それは、あの‥‥さっきの、
「暑さ寒さを感じない」じゃないけど、
京極さんて、タフでストレスがないから、
なんというか、やりたいことに素直なんでしょうね。
京極 どうなんですかねえ‥‥。
糸井 仕事が辛くてしょうがなかったら
そんなこと思えないですよ、きっと。
京極 それは‥‥そうかもしれない。
糸井 「毎日毎日、辛いんだよ」って人に
「もうちょっと、
 サービスしてみたら?」なんて言っても、
「冗談じゃない、
 おまえになにがわかる!」って。

京極 うん、そうか‥‥。
でもね、ぼく、事務所に入ってるんですけど‥‥。
糸井 ああ、大沢在昌さんと、
宮部みゆきさんといっしょのね。
京極 稼ぐんですよ、そのふたりが。
糸井 でしょうね(笑)。
京極 ぼくも、同じくらい働いてるつもりなんですけど、
いつも、怒られるんです。

‥‥「シャドーワークばっかりだ」って。

糸井 裏方仕事じゃないかと(笑)。
京極 そう。
糸井 買って出てるふし、ありますよね。
京極 いや、決して買って出てるわけじゃないんだけど、
頼まれて、できることだと、やっちゃってるわけ。
糸井 うん、うん。
京極 やりたいわけじゃないんだけど、
結局、効率を考えるとね、早いとか、安いとか‥‥。
糸井 俺、暑くないし、寒くないし(笑)。
京極 だけどね、そうした仕事に対価が発生すると考えたら、
ぼくだって、けっこう稼いでいるのじゃないか。
糸井 あるいは、稼いだ結果として
「シャドウワークしていい権利」を
お金で買ってると考えるとか(笑)。
京極 そう、そうか。そうなんだ。
糸井 つまり、生産と消費を足してみたら、
いちばんの稼ぎ頭かもしれない。
京極 うーん、それでも、
宮部さんにはかないませんて(笑)。
糸井 じゃあ、
読者に発生させた熱量で計算するとか(笑)。
京極 ああ、それだと。
糸井 宮部みゆきと京極夏彦、
それぞれ1ページ読んだときの
カロリー消費量をくらべたら、
きっと、京極夏彦のほうが、
本文が二段組だし、難しい漢字が多いから‥‥。
京極 勝てますかねえ。
糸井 あるいは、本を運ぶときに
どれだけの筋力を使ったかとか。
京極 ‥‥ただね、ぼくの本は
ハードカバーじゃなかったりすることが多いので。
糸井 そうか(笑)。
京極 やっぱ勝てません。
糸井 そうだった(笑)。
京極 まあ、ぼくは勝ち負けがキライだし、
別に不満はないんですけど。
糸井 不満はない(笑)。
京極 不満はないんですけど、心配はされます。

糸井 そんなに仕事して平気なのかと。
京極 みょうにムリのきく体質が、わざわいしてるのか。
糸井 ん‥‥。
京極 だから、その、テーマの「眠り」には
ぜんぜん話が及ばないわけですけども‥‥。
糸井 いや、今またちょっと、なんか寄ってきた(笑)。
京極 うーん、「睡眠」のまわりを
ウロウロ周回してるなぁ‥‥さっきから(笑)。



<つづきます>



2007-12-25-TUE