周防 | 例えば「人権」という言葉がありますが、 それをやっぱり僕らは ちょっとわかってないところも あるんじゃないかな、と思いました。 何というか、皮膚感覚でわかってない。 それが人権侵害であるかどうかを 理屈で考えないとわからないんです。 だけど、欧米の人はもしかしたら、 何かあったときに、 反射的に「人権侵害である」というふうに わかるんじゃないでしょうか。 その差がすごく大きい。 |
糸井 | どこかのところで、根っこの根っこでは、 僕らはみんな同じ場所からの出身だと 思ってるのかもしれませんね。 満員電車であれだけ密着してることについて、 「他人じゃないんだから」 と思わない限り、あれはちょっと無理ですよ。 |
周防 | くっつきそうなところで人と人が 顔つき合わせるなんて、 それだけで欧米の人はいやですよね。 距離がなくなってる。 |
糸井 | そうだよなぁ。 |
周防 | 日本のプロ野球選手が 大リーグと最初に契約する中で、 アメリカで女性を見るときに、 顔からパンダウンして足元を見て、 もう1回同じように 足元から顔へと見返すことはしないように、 という注意事項があるんだそうです。 |
糸井 | 上から見て下から‥‥あ、なるほど。 |
周防 | そうそう、そうやって じろじろ見ることはやめたほうがいい、と。 人から聞いたことで、 ほんとうかどうかわかんないですけど。 |
糸井 | それは非常に、 防衛的なルールですね。 |
周防 | ええ。それでもうひとつピンと来たのが、 アメリカに行ったスタッフから聞いた話。 エレベーターのドアが開いても、 女性が1人で乗っていたら、 それには乗るな、と言われたらしいんです。 |
糸井 | うん、うん。 それは日本でもときどき 言われますね。 |
周防 | 密室で2人きりになったとき、 もし何もしていなくても 何かを言われたらアウトだから、 気をつけなさい、ということなんです。 じゃ、自分が1人で乗ってるときに 女性が入ってきたら それは降りなきゃいけないのだろうか? |
糸井 | それも防衛的すぎる滑稽さがあるけど、 冗談じゃないんだろうなぁ。 |
周防 | そういう意味ではアメリカにだって、 混んだ電車の中で 人を触る痴漢はいないかもしれないけど セクシャルハラスメントという意味での 性的犯罪はいっぱいあるわけです。 |
糸井 | アメリカのドラマや映画でも そのことはたくさん描かれてますよね。 でもさ、いろんなルールがそうやって できていくのを見て、思うんですけど、 自己の体は自己の所有なんだろうか。 |
周防 | そりゃすごい哲学ですね。 |
糸井 | たとえば、自殺について いろんなロジックがありますけど、 吉本隆明さんが年を取って海で溺れたあと、 死んじゃおうかと 思ったことがあったらしいんです。 自殺っていう選択肢はあった、と。 |
周防 | はい。 |
糸井 | ただ、そこで考えて、死というのは 自己に所属してないんですね、って言うんです。 「結局、僕が決めたからって 周りの人が死なないでほしいと思ってる場合には、 自分の意思でやったことが ものすごい迷惑なことになる」 |
周防 | そうですね、はい、裏切りますよね。 |
糸井 | 「死んでほしいと思ってる人がいることも含めて、 1人の人間がいるとかいないとかってことは、 関係から成り立っている。 それは自分の決裁できることではなくて、 さらにいうと他者の決裁できることでもなくて、 自然というものが入ってくるエリアである。 こう思ったんで、死ぬのはないなと思った」 って説明を聞いたんです。 |
周防 | すごいなぁ。 死のうと思ったときに そこまで考えつくとこがすごいな。 |
糸井 | ええ。そういうことが 習い性になってる人なんでしょうね。 ちょっとゾクゾクするよね。 自殺は、自分を人質にとって脅かしてるんですよ。 殺人者であり被害者であるという関係を 持っちゃってるわけで、 そのときには、それは卑怯なことだと 言ってあげないといけないんじゃないかな。 あらゆるものに所有という概念が こんなに染み渡っている世の中のほうがおかしくて、 そこで「俺が決められるんだ」という思想が 生まれたんだとすると、 それはとっても間違った考え方じゃないかな。 |
周防 | 傲慢かもしれないですね。 |
糸井 | ルールが半端に行きわたっちゃったときに 起こってくる問題ですよね。 ルールと人の関係。 |
周防 | まさに法律って、別に 自然界にあったものではないんですよね。 共同生活を営むために、 その共同体のルールを 人間が決めてきた歴史です。 |
糸井 | それはほとんど 国家の起源に近いようなものですよね。 |
周防 | だから相手は絶対に 国家権力になるわけです(笑)。 |
糸井 | なるんですね。必ずなるんですね。 |
周防 | ならざるをえない。 そういうものなんです。 (つづきます) |
2007-02-15-THU |