糸井 | こんな時期に、 周防さんが、あの映画をつくったんです。 僕にとって救いがあったのは、 外国で観せたら 恥ずかしい気持ちになるものなんだって ことなんですよ。 「外国では、もっと相対的に見られる」 ということはさ、 ここを突破できる可能性があんのかよ、 ということなんです。 |
周防 | そうね、おかしなことやってんですよね。 |
糸井 | 海外からの視点のようなものは、 『シコふんじゃった。』や 『ファンシイダンス』のときから 周防さんはずっと持っていらっしゃいます。 そのね、ずーっと、 テーマは同じなんでしょ?(笑) |
周防 | そうですね(笑)。 『シコふんじゃった。』は、 キリスト教系の大学の相撲道場に 神棚があって、それをみんなが パンパンとやってるのを見た外国の人が 「一体ここはどういう大学なんだ」っていう(笑)。 でも、あれは 日本人にとって笑えないところだと思います。 |
糸井 | 立教で、ですよね。 |
周防 | そう(笑)。 笑えない現実です。 あれは客観的に見ると おかしなことをしてるんです。 |
糸井 | 『シコふんじゃった。』では、 ケツを出す問題でも さんざんすったもんだしますよね。 あそこに痴漢や満員電車と 同じようなことが含まれてます。 「え、いいの? ケツ出して」 ってことですよね、外国からしたら。 |
周防 | はい、そうですね。 |
糸井 | それは、 「密着するようなところに人を詰め込んでいいの?」 ってことですよね。 |
周防 | 「いいの?」ということですよね。 日本的なるものに 僕はすごく興味があるんです。 |
糸井 | うん。すごく強い興味を持ってる。 |
周防 | 極めて日本的な話ばかりをやってる。 |
糸井 | ぼくはちょうどこのところ、 アジア的であることについて 興味を持ってるんですけど、 周防さんの久しぶりの映画には、 もう、何ていうの、 「金のくちばしが当たりました!」の おもちゃ箱みたいに、 いろいろ入ってたんです。 セリフのひとつひとつから うれしくなっちゃって。 |
周防 | 痴漢という犯罪は、 「アジアの数か国にしかない」 という言われ方をしてるんです。 しかも、もしかしたら韓国と日本だけの犯罪かも、 という感じだから、英訳するときに 「痴漢」にピッタリ来る言葉がないんですよ。 |
糸井 | つまり痴漢って、限りなく 匿名なんですね、 西洋の人たちは、どちらかというと 「俺が触る権利があるんだ!」っていうところに 行きたいんじゃないかな? |
周防 | そうですか(笑)。 |
糸井 | そんな気がする‥‥。 でも、日本の痴漢は わからないようにするでしょう。 |
周防 | 痴漢を日々行なってる人たちは ほんとうに上手に触るらしいです。 だから、捕まる人の多くに、常習者は少ない。 |
糸井 | でしょうね。 公園でことにおよんでるアベックの 背後から近づいてって、 男が触ったのか自分が触ったのか わからない状態に持っていくのが最高だ、 という覗きの人の話を どこかで昔、聞いたことがあります。 |
周防 | それは覗きを超えてますね(笑)。 |
糸井 | 手の甲でごまかしたり、紛れたり よくわかんないようにして、 いったいどこが快感なのか ほかの人にはさっぱりよくわかんない。 痴漢や覗きって、 もう、ものすごい不思議なことが 行なわれているんですよ。 それを裁判という、 ひじょうに西洋的な場所で 裁ききれるのかな、と思ったりします。 |
周防 | 裁判が裁いてるのは そこじゃないですもんね。 言い分‥‥特に痴漢事件で特徴的なのは、 お互いの言い分しかないんです。 どっちの言い分がほんとうのことなんだ、 というふうになっちゃうんです。 でも、その言い分が 両方ともほんとうのこともあるんです。 |
糸井 | ありますよね。 |
周防 | だから不幸が起きてしまうわけです。 |
糸井 | あの映画を、 主人公がほんとうにやったんだ、という気持ちで もう1回観てみたいと思ってるんです。 やったかやってないか、わからないですよね。 |
周防 | わかんないです。 |
糸井 | 裁判官の役をされた 小日向(文世)さんが ほんっっっっとうに、憎らしい、というふうに 映画を観た人はきっと思うでしょうけど、 小日向さんは能面の役ですね。 光の当て方によって見え方が違ってくる。 |
周防 | どっちにも見える。 |
糸井 | あの高等技術はたまんなかったなぁ。 (対談は明日へつづきます。 つづいておたよりのご紹介をお読みください。 ) |
いちばん腹のたつのは痴漢という行為をする人ですが 三人の息子を持つ主婦ですので いつ夫や息子が冤罪に巻き込まれるか、 明日はわが身だなぁーと思いました。 裁判の流れは歯の治療と似てますね。 なかなか進まない。 それと裁判官も大変だな、とも思いました。 (主婦・41歳) |
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「それでもボクはやってない」を見ました。 陪審員制度のあるイギリスに住んでいます。 この映画を見るまで、 日本では陪審員制度の導入は しなくていいと思っていました。 ですが、「やったかやらなかったか」の部分は、 以来、ニュースなどで容疑者として |
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周防さんの 「そういう満員電車を選んで乗ってるあなたが悪い という話になるんじゃないかな」 で思ったのですが 日本という国はけっこう 「自業自得だから」で済まされることが 多い国ではないでしょうか。 争うぐらいなら、 |
2007-02-16-FRI |