周防 | 僕らがドラマや映画で見る裁判は、 どこかでその人が 犯人かどうかわかるし、 「真実はこれです」というようなものがあって、 必ず真犯人が明らかになって終わる、 というのが多いですよね。 |
糸井 | そうですね。 |
周防 | 最終的には誰がほんとうのことを言って、 だれが嘘つきだ、とわかるから 安心して観ていられるんです。 でもね、実際の法廷って あたりまえだけど、一切 それは隠されてるんですよ。 誰も何も知らないんです。 少なくとも、知ってるのは被告人だけ。 被告人だけが、 自分が犯人であるかないかぐらいは 知っている。 ときどきそれすらも わかんなくなっている人がいて 困るんだけど(笑)。 |
糸井 | ああ、いるでしょうね。 |
周防 | うん。取り調べや何かでいろいろ言われると、 「ほんとうに俺、やったのかな??」 と思う人もいる。 でも、まあ、ふつうなら、被告人だけは、 自分がやったかやんないかだけは わかっている状況です。 あとは何も知らない人たちがよってたかって、 事実はどうだったかを言い合うんですよ。 考えてみればムチャクチャな、 すごいことをしてるんです。 でも、裁判所は正しいという、 その根拠はよくわからないけど 前提があるから、 そこで決められたことにはみんなが従う。 ま、ルールですよね。そういう約束なんですけど ‥‥ほんとうにそうかな? と思っちゃう。 |
糸井 | 物理学みたいに 必ず当てはまるルールにならない 問題ばかりを争うわけですね。 |
周防 | そうです。 |
糸井 | ‥‥僕、今、急に思い出したことがあるんですけど、 父親が裁判所の中にいた司法書士だったんです。 お使いで物を届けるときに、 いつも裁判所に行ってたんです。 |
周防 | へぇ! そうなんですか。 |
糸井 | 「金返してくれ」とか、簡単な案件だと 書士ですんじゃうようなことがほとんど。 上手に書類ができると 弁護士は要らなかったりするみたいなところが あるらしくて。 |
周防 | はい、わかります。 |
糸井 | それがどうもうちの父親の誇りだったんですよ。 「俺がいると弁護士は要らないんだ」 なんて息子の俺には言ってたなぁ。 そのとき、不思議でしょうがなかったのは、 本棚のほとんどが判例集だったんです。 よくわからないけど、記憶にあります。 何だろうという疑問があって、 これまでずっと考えなかったんだけどね。 結局、前にだれがどうしたかということが 法律の実体なんですよね。 |
周防 | そうです。 いちばん大事で、 裁判官もいちばん気にしていること。 弁護士が何か言うと、 「そういう判例はありましたか」 みたいなことを聞きますもんね。 |
糸井 | それが世間ってやつの 代名詞でもありますよね‥‥。 |
周防 | 判例は、裁判官がいちばん気にしていますから、 逆に言うと、 歴史に残る判例を残すということは、 裁判官にとってはひとつの 誇りになり得るんです。 |
糸井 | 名誉と不名誉が両方あるんでしょうね、きっと。 |
周防 | そう、両方あります。 |
糸井 | 何だろう……ほんとうにね、 何だろうと思っちゃう。 (つづきます) |
2007-02-17-SAT |