15 目の前の人にだまされたくない。


糸井 ほんとに今日、
周防さんに会えてよかったです。
この対談が実現するのは、
7割ぐらいは不可能と思ってたんです。
周防 あ、そうですか(笑)。
糸井 うん。さんざん出て
ヘトヘトだろうなと思ったんで。
周防 いや、そんなことないです。
糸井 観てくれる人に言いたいこと‥‥ありますか?
周防 何を言ったらいいんだろう!(笑)
カッコよく
「僕は映画監督だから、
 言いたいことはすべて映画にあります」
と言って去りたいぐらいの気持ちはあるわけですよ。
でもね、しゃべっちゃうんです、いっぱい。

糸井 おもしろいですね。
黙っててもOKだと思うし、思うことをさんざん
しゃべってもいい。
それが両方できる映画ですね。
周防 いや、ほんとうにね、尽くせぬ話なんです。
このほかにも、
出された判決に不服があるとして
検察側が控訴する「検察官控訴」を
やめればいいかもしれないけど、
そうしたら今度は、
裁判官はもっと無罪を出しにくくなるぞ、とか‥‥
糸井 ほんとうに、
知ってしまったがゆえに。
周防 人が人を裁くって、大変なことを
やらざるをえなくてやってるわけです。
ほんとうは誰だって裁きたくないですよね。
糸井 総務職に近い、交通整理の上手な人が
頭のいい人の役割に
なっちゃうことがあります。
クリエイティブだとか
おもしろいことの生産量は増えないままに、
あっち流したりこっち向けたりって
コントロールするだけのところに
エリートが立っちゃうと、
何だか富の増えない社会になっちゃうという
感覚があるものですから、
「頭のいい」っていう概念の転換を
何とか図れないかなぁと考えたりもするんです。
周防 法廷では、
少なくとも自分がやったかやってないかを
知っているという意味で、
被告人だけが真相を知ってるわけです。
だけど、被告人に向かって裁判官は、
「あなたはこうこうこうだから、こうした」
というふうに決めつけるわけです。
そのときに裁判官は、
被告人に裁かれているという気持ちが
あるんじゃないかな、と思って訊いてみたら、
「ない」と断言されました。
糸井 へぇ、そうなんですね。
周防 「監督に言われるまで
 そんなこと考えたこともなかった」
と言われました。
そういう恐れを持っちゃうと、
判決なんかできなくなるからか、
わからないんですが、
少なくともそういう発想はない。
「法廷では自分の全人格が現れるんだ
 という覚悟ぐらいはしてるけど、
 目の前に立つ被告人に判決を下した瞬間、
 自分もまた逆に裁かれるんだなんて
 思ったこともない」
って。
糸井 ん? それは、つまり
ジャンル違いということなんでしょうか。
周防 わかんないんですけど。僕なんかは、
糸井 そういうこと、思いますよね。
周防 僕が裁判官だったとしたら、思います。
「俺、こんなこと言ってるけど、
 自分が正しい判断をしたかそうじゃないか、
 この人だけは知ってるんだ」
って思っちゃいますよ。
糸井 ですよね。
「しめしめ」って思うかもしれないし、
「バカじゃないか」と思うかもしれないし、
ホッとしてるかもしれないし。
周防 そう。
糸井 そういうようなセリフがあったじゃないですか。
「とっても頭のいい人たちというのは――」
周防 ああ、そうそう。
「目の前にいる人にだまされたくない」
糸井 あのセリフもよかったなぁ。
あれは、渾身ですね。
周防 もうね、とにかくね、
だまされたくないんです。
糸井 僕も、人と会ってるときに、
「騙されたくない油断のなさ」にふれると
ちょっと疲れたりします。
周防 「この人にだったら騙されてもいい」と思う
瞬間、あるんですけどね(笑)。
なかなかないのかな。
糸井 それが多分、僕らの好きなものなんでしょうね。
歌謡曲の、
どうせ私をだますならだまし続けてほしかった、
あれ共感しますもんね(笑)。
周防 しますよ。
だまし続けてくれたら真実になっちゃいますから。
糸井 けれども、そんなことは
あってはいけないんですよね。
周防 あってはいけないんですね。
いい意味の諦めとか、
いい意味の寛容とか。
糸井 逆に、自分に対しても
追い詰めちゃうことになるでしょう。
「私は自分が許せなかったんです」つって
グローブを投げるみたいなことになっていく。
野球の選手だってさ、ときには
「監督が憎らしかったんです」と言ったほうが
俺らには腑に落ちるんですよね。
ずいぶん話は飛びましたが(笑)。
周防 (笑)でもほんとにだいじな気がします。
諦めとか許すとか。
糸井 タイトすぎるんですよね。

周防 そういう「ほどのよさ」が‥‥‥‥
いや、そういうのはきっとあるんでしょうけど、
なんかそれがその場所でその瞬間に
そういうふうにならないで、
違うところでそうなっているように思いますね。
あるべきところでもっとルーズでいいはずなのが
タイトになってて、
タイトじゃなきゃいけないところで、
けっこういい加減だったり。

(つづきます!)




『それでもボクはやってない』特製
トートバッグを周防正行監督のサイン入りで、
2名様にプレゼントいたします。
メールの件名を「それボクプレゼント」として
2007年2月28日午前11:00までにpostman@1101.comまで
メールにてご応募ください。

(第1弾で応募された方も、
 遠慮なくご応募くださいね!)

※プレゼントの募集は終了しました。
たくさんのご応募、
ありがとうございました。


厳選なる抽選のうえ、当選された方には
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(応募のメールには、住所やお名前などをお書きいただく必要はありません)
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うれしいです。
お待ちしていま〜す。

トートバッグプレゼントに当選された
みなさまを発表します。

高山 さま
地上のフピさん。 さま


おめでとうございます。
        (2007.3.6)


2007-02-28-WED


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