糸井 | ほんとに今日、 周防さんに会えてよかったです。 この対談が実現するのは、 7割ぐらいは不可能と思ってたんです。 |
周防 | あ、そうですか(笑)。 |
糸井 | うん。さんざん出て ヘトヘトだろうなと思ったんで。 |
周防 | いや、そんなことないです。 |
糸井 | 観てくれる人に言いたいこと‥‥ありますか? |
周防 | 何を言ったらいいんだろう!(笑) カッコよく 「僕は映画監督だから、 言いたいことはすべて映画にあります」 と言って去りたいぐらいの気持ちはあるわけですよ。 でもね、しゃべっちゃうんです、いっぱい。 |
糸井 | おもしろいですね。 黙っててもOKだと思うし、思うことをさんざん しゃべってもいい。 それが両方できる映画ですね。 |
周防 | いや、ほんとうにね、尽くせぬ話なんです。 このほかにも、 出された判決に不服があるとして 検察側が控訴する「検察官控訴」を やめればいいかもしれないけど、 そうしたら今度は、 裁判官はもっと無罪を出しにくくなるぞ、とか‥‥ |
糸井 | ほんとうに、 知ってしまったがゆえに。 |
周防 | 人が人を裁くって、大変なことを やらざるをえなくてやってるわけです。 ほんとうは誰だって裁きたくないですよね。 |
糸井 | 総務職に近い、交通整理の上手な人が 頭のいい人の役割に なっちゃうことがあります。 クリエイティブだとか おもしろいことの生産量は増えないままに、 あっち流したりこっち向けたりって コントロールするだけのところに エリートが立っちゃうと、 何だか富の増えない社会になっちゃうという 感覚があるものですから、 「頭のいい」っていう概念の転換を 何とか図れないかなぁと考えたりもするんです。 |
周防 | 法廷では、 少なくとも自分がやったかやってないかを 知っているという意味で、 被告人だけが真相を知ってるわけです。 だけど、被告人に向かって裁判官は、 「あなたはこうこうこうだから、こうした」 というふうに決めつけるわけです。 そのときに裁判官は、 被告人に裁かれているという気持ちが あるんじゃないかな、と思って訊いてみたら、 「ない」と断言されました。 |
糸井 | へぇ、そうなんですね。 |
周防 | 「監督に言われるまで そんなこと考えたこともなかった」 と言われました。 そういう恐れを持っちゃうと、 判決なんかできなくなるからか、 わからないんですが、 少なくともそういう発想はない。 「法廷では自分の全人格が現れるんだ という覚悟ぐらいはしてるけど、 目の前に立つ被告人に判決を下した瞬間、 自分もまた逆に裁かれるんだなんて 思ったこともない」 って。 |
糸井 | ん? それは、つまり ジャンル違いということなんでしょうか。 |
周防 | わかんないんですけど。僕なんかは、 |
糸井 | そういうこと、思いますよね。 |
周防 | 僕が裁判官だったとしたら、思います。 「俺、こんなこと言ってるけど、 自分が正しい判断をしたかそうじゃないか、 この人だけは知ってるんだ」 って思っちゃいますよ。 |
糸井 | ですよね。 「しめしめ」って思うかもしれないし、 「バカじゃないか」と思うかもしれないし、 ホッとしてるかもしれないし。 |
周防 | そう。 |
糸井 | そういうようなセリフがあったじゃないですか。 「とっても頭のいい人たちというのは――」 |
周防 | ああ、そうそう。 「目の前にいる人にだまされたくない」 |
糸井 | あのセリフもよかったなぁ。 あれは、渾身ですね。 |
周防 | もうね、とにかくね、 だまされたくないんです。 |
糸井 | 僕も、人と会ってるときに、 「騙されたくない油断のなさ」にふれると ちょっと疲れたりします。 |
周防 | 「この人にだったら騙されてもいい」と思う 瞬間、あるんですけどね(笑)。 なかなかないのかな。 |
糸井 | それが多分、僕らの好きなものなんでしょうね。 歌謡曲の、 どうせ私をだますならだまし続けてほしかった、 あれ共感しますもんね(笑)。 |
周防 | しますよ。 だまし続けてくれたら真実になっちゃいますから。 |
糸井 | けれども、そんなことは あってはいけないんですよね。 |
周防 | あってはいけないんですね。 いい意味の諦めとか、 いい意味の寛容とか。 |
糸井 | 逆に、自分に対しても 追い詰めちゃうことになるでしょう。 「私は自分が許せなかったんです」つって グローブを投げるみたいなことになっていく。 野球の選手だってさ、ときには 「監督が憎らしかったんです」と言ったほうが 俺らには腑に落ちるんですよね。 ずいぶん話は飛びましたが(笑)。 |
周防 | (笑)でもほんとにだいじな気がします。 諦めとか許すとか。 |
糸井 | タイトすぎるんですよね。 |
周防 | そういう「ほどのよさ」が‥‥‥‥ いや、そういうのはきっとあるんでしょうけど、 なんかそれがその場所でその瞬間に そういうふうにならないで、 違うところでそうなっているように思いますね。 あるべきところでもっとルーズでいいはずなのが タイトになってて、 タイトじゃなきゃいけないところで、 けっこういい加減だったり。 (つづきます!) |
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2007-02-28-WED |