糸井 | また、あの被害者の 女の子が、ほどよかったんだ。 |
周防 | (笑) |
糸井 | あれがね、憎らしげなやつだったらもっと、 救われる部分があるでしょう。 |
周防 | 実際にね、よく言われるわけですよ。 痴漢の被害もないのに 訴えて金巻き上げてるやつがいるって。 まるで、痴漢の被害を訴える女性が 悪いんだ、という論調に なってしまうことがあります。 だけどね、裁判になってるものは、 被害者もそれだけの責任を持つわけです。 ま、そりゃいろんな経緯があって 検察官にいろいろ言われて、 「ああ、あの人に間違いないんだ」と 思い込んじゃうようなことも あるかもしれないですけど、 でも、被害はあるんだということで描かないと まったく違ったものになってしまいます。 |
糸井 | 痴漢を「それぐらいねえ」というふうに 収めようとするところがあると思うんですけど、 自分が女で、 あきらかに相手のほうが強い状況で 触られちゃったときの恐ろしさを思うと、 そんなこと言えないですよ。 恥ずかしいとか気持ち悪いとか以上に、 ほんとうに怖いだろうと思うんだよ。 鍵かけて入れない自分の場所に 人が立っていた怖さと同じだから。 弱さって簡単なものじゃない、 すごいもんだと思う。 だから、「ちょっとぐらいさ」っていうのはない。 飲み屋でワーだキャーだで 知ってるスケベなハーさんが触った、 というケースと、 電車の中で匿名の者に触られるのは全然違う。 それは怖さが違う。 |
周防 | 痴漢の被害を調べると、 ほとんどの人が怖くて身動きもできない、 声も出ない状態なんですよ。 被害の声をあげる女性が増えてますけど、 いまだに声をあげられない人のほうが 多いと思います。 だからこそ、また痴漢もなくならない。 映画を観た女性のお客さんは、 嫌悪感ではなくて、 むしろ人が人を裁くということについて 考えてくれたので、 ほんとうにその部分が通じたんだと 思いました。 |
糸井 | やっぱり、誠実味が出るんだと思います。 あの映画はどこかで 「これ以上考えるのやめた」という 投げやりなところが1つもないんですよ。 「悪だ、即殴れ」というロジックで 立ち上がった部分がないからです。 観ている人は、みんな、合わせ鏡のように、 映画の中に映ってる自分が見えてくるように できていますから。 ほんとうに、おもしろかったんです。 |
周防 | ありがとうございます。 |
糸井 | 境界線上の扱いっていうのは 何であっても困るはずです。 そこで直接ほんとうは 考えなきゃなんない人がサボってるおかげで、 みんな裁判所へ持ってっちゃってる ということもあると思います。 |
周防 | そうですね。だから、 痴漢された人と、したとされる人というのは、 駅事務室に入った瞬間から 二度と会うことがないんです。 それ以降は写真でしか相手のことを 確認するすべはなくて。 |
糸井 | 僕らはきっと、 手のどこでさわったか、 というような話を、 もっともっとしなきゃダメなんでしょうね。 手の表側か、甲に気持ちはどう入るんだ、 というようなことを。 |
周防 | 女性が嫌だと思ったら嫌だ、ということも。 (つづきます!) |
2007-02-27-TUE |