糸井 |
なんか、そう思ったんで言うんですけど、
人の人生って、いろいろだなぁ。
|
田口 |
(笑)
|
|
糸井 |
こんなふうになるなんて、
田口さんだって思ってなかったでしょう。
だから、どうなりたいのかとかって訊かれると
いくら考えても、すでにあったものしか
答えられないじゃないですか。
でも、田口さん、ついに、
いままでなかった野球の人になってる。
|
田口 |
そうですねぇ。
|
恵美子 |
ねぇ。
|
糸井 |
たとえばの話、仮に、どっかと契約して
今年、2試合だけ出たっていうだけでも、
とんでもないことですよね。
|
恵美子 |
そう思います。
|
糸井 |
その1打席とかって
ものすごいもんだと思うんですよね。
自分で治して帰ってきました、
っていう人ですからね。
その、なんていうんだろう、
すごみみたいなものを味わいたいよね。
|
永田 |
ファンとしてはもう、それは見たいです。
|
糸井 |
ただ、巨人戦だと‥‥困るんだけどね。
|
|
一同 |
(笑)
|
田口 |
そこまでいっても応援してくれませんか!
|
糸井 |
いやぁ(笑)。
|
恵美子 |
巨人のユニフォームを着てればいいんですよね。
今日、巨人のユニフォーム
着てくればよかったんじゃない?
|
|
田口 |
いや、ちゃうやろ。
|
|
一同 |
(笑)
|
糸井 |
でも、観たいなあ、球場で。
どういうかたちでも、登場してくれたら、
ほんとにうれしいですね。
|
恵美子 |
でも、きっとこの人、さらっとやるんですよ。
引退のドラマを背負ってる人って、
ふつうもっとすごみがあるじゃないですか。
こう、眉間にしわを寄せてるというか。
|
糸井 |
あ、見栄えがね。
|
恵美子 |
そう、見栄えのすごみが彼はないんです。
ないというよりも、もともと出さない。
|
糸井 |
そうですね。
|
恵美子 |
たとえば、守備も同じで、
がんばってスライディングキャッチするのは
みっともないっていう美学があるんです。
それは追いつけないことの裏返しだって。
だから、いかに物事を外から見たときに‥‥。
|
糸井 |
なんでもなくやってのけるか。
|
恵美子 |
そう、なんでもなくやってるか、
っていうことに、ものすごくがんばってる。
|
|
糸井 |
いいなぁ(笑)。
|
恵美子 |
だから、たとえば今回の件でも、
オレ、がんばってるぜ、
みたいなものは、いっさい見せない。
飄々としてるように、がんばってるんです。
だから、たぶん、彼がこの先、
どこかと契約していただけたとして、
みんなが観てるグラウンドに現れて、
1打席目に立って、それを観て、
私がうわーって泣いたら、彼は笑うんだと思う。
|
糸井 |
なに泣いてんの、と。
|
恵美子 |
って、たぶん言うんだと思います。
|
糸井 |
うん。
|
|
田口 |
‥‥。
|
恵美子 |
‥‥。
|
糸井 |
それは、でも、かっこいいね。
かっこよすぎてツウにしか
わかんないかもしれないけど。
|
|
一同 |
(笑)
|
糸井 |
でも、そこに行きたい人なんだよね。
|
恵美子 |
たぶんそうなんだと思います。
ツウにしかわからないっていうのも
そのとおりだと思う。
でも、言わせていただくと、
そのツウって本当に少ないです。
あんまり見たことないです、ツウの人。
|
田口 |
こらこら。
|
|
一同 |
(笑)
|
恵美子 |
ファンレターもいただくのですが、
妙なかたよりがある。
|
田口 |
こらこらこら。
|
|
糸井 |
あははははは。
|
恵美子 |
とにかくやけに、年配の方が多いんです。
「お前もたいへんだな」みたいな。
「オレと同じだ、がんばれ」みたいな。
それはそれですごくありがたいんですけど、
若い方にはご理解いただけない生き方なのかなと。
あ、年配の女性と、ものすごく小さな子どもは
寄ってきてくださいますが、
妙齢の女性はまず、間違いなく、いない。
|
田口 |
いや、ほんまですよ、これ。
|
一同 |
(笑)
|
糸井 |
けど、まぁ、しょうがないですよね。
こういう道を来てしまった。
|
田口 |
はい、そうです。
|
糸井 |
ぼくの知り合いの中で、
ときどき、自分が好きでやってるように見えて
じつはそれ、あんたがつかまっちゃったんだ、
って思う人が何人かいてね。
わかりやすい例でいうと、
落語っていうものにつかまっちゃった
志の輔っていう人がいるんですよ。
|
田口 |
はい。
|
糸井 |
たとえば志の輔さんは、
毎年、パルコで1ヵ月、やるんですよ。
もう、無理だろうっていうようなことを、
毎年、準備して、今年も乗り切った、
すばらしかった、ってやってる。
たくさんの拍手をもらってるし、
とんでもなくすばらしいものを
やってると思うんだけど、
一方でもう、それはもう、志の輔さんが
落語につかまっちゃったんだね、
って思うんですよ。
|
|
田口 |
あーー。
|
恵美子 |
いま、うかがっていて、同じだなぁと。
|
糸井 |
同じなんですよ。
田口さんもきっと、野球につかまっちゃったんです。
ぼくなんか、質としては比べようもないけど、
なにかにつかまるタイプじゃないんです。
やることは自分で選んでるんですよ、ぜんぶ。
だから、人から見ると、
すごく熱がない人に見られるんだけど、
ぼくは、自分ではっきりとおもしろいんです。
|
田口 |
ああ、なるほど。
|
糸井 |
だって、主人公は「ぼく」だから。
|
恵美子 |
そういう点で、彼は、ほんとに完璧に端役。
主役は「野球」です。
|
糸井 |
つかまっちゃった人は、一生なんですよ。
ぼくは自分から行って、
飽きたらやめる人ですから。
だから、田口さん、その意味では、
まだまだ長いですよ、先が。
|
田口 |
そうですね。
つかまったんで、覚悟します。
|
糸井 |
うん。長いですよ。
|
|
恵美子 |
長いんだー。
|
糸井 |
だってまだ、せいぜい半分でしょ。
寿命からいったら。
|
恵美子 |
え、そんなに野球やるの?
|
糸井 |
野球っていうか、人生。
|
恵美子 |
そうですね‥‥人生が「野球」だから。
|
糸井 |
野球終わったあとは、
庭掃除するだけの人になるんだから、
野球してたほうがいいですよ。
|
恵美子 |
そう、です、ね。
|
田口 |
そうですね。
|
|
糸井 |
いやぁ、おもしろいなぁ‥‥人の話だと。
|
一同 |
(笑)
|
田口 |
人の話だとおもしろいですよね。
|
糸井 |
やっぱり、他人のことって無責任に
なんか「がんばってください!」
とか言いたくなるんですよね。
「かっこいいなぁ」とか、
無責任に言えるし。
|
田口 |
でも、その一言で救われますよ。
|
糸井 |
いやー、でも、ほんとに思ってるんですよ。
|
田口 |
それで十分です。
「かっこいいなぁ」って言われたら
リハビリがんばろうと思いますもん。
|
糸井 |
かっこいいですよ、それは。
誰もいない場所で、
誰もしてないことしてるんだもん。
|
田口 |
そうですかねぇ。
|
糸井 |
あ、じゃあ、こうしましょう。
この対談の終わりにぼくがこう言います。
「田口さんは、あなたの声を待ってます」
|
|
恵美子 |
うわぁ。それ、社交辞令でもいいです!
|
糸井 |
いや、ちゃんとほんとの声が届きますよ。
|
田口 |
来るかなぁ。来なかったらいやだなぁ。
|
|
糸井 |
大丈夫。それ、ちゃんと届けますよ。
|
田口 |
はい。ありがとうございます。
|
糸井 |
今日はどうもありがとうございました。
|
田口 |
ありがとうございました。
|
恵美子 |
ほんとに、ありがとうございました。
それから‥‥ほんとに、
今日、私がしゃべったことは、
なかったことに‥‥。
|
一同 |
(爆笑)
|
田口 |
たぶん、次回、嫁だけが
呼ばれそうな気がするんですけど。
|
|
糸井 |
いやー、ほんと、おもしろかったー(笑)。
|
恵美子 |
いえ、あの、ほんと、私は‥‥。
これで、田口壮さんと糸井重里と、
恵美子さんのお話は終わりです。
読んでいただき、ありがとうございました。
そして、最後に、田口さんへのメッセージをどうぞ!
|