- 松本
- いきなり歌詞が世に出ても
本人も、周りもワケがわからない。
でも、ちょうど『ポケットいっぱいの秘密』の
バッキングのスタジオミュージシャンが、
細野さんの「キャラメル・ママ」。
のちの「ティン・パン・アレー」ですね。
- 糸井
- あぁ。
- 松本
- 最近知ったんだけど、
キーボードで矢野顕子さんも入っていて。
- 糸井
- はいはいはい。
- 松本
- それなのに、なんで糸井さんは
僕だけを羨ましいって言うんだろう(笑)。
- 糸井
- いやいや。もうさすがに今ではね、
恨みも憧れもしないように人間が大きくなりましたが、
若くて飯が食えるか食えないかわからない頃って、
似たような年代の人の動きって、気になるんですよ。
松本さんに目が行く前の段階では、
横尾忠則さんとか、唐十郎さんとか、
ああいう人が何やってるかっていうのを
観に行っては落ち込んでたんです。
- 松本
- はあー。唐さんには憧れてましたよ。
あと、人形作家の四谷シモンとか麿赤兒とかね。
あの人たちがよく新宿の喫茶店にいたんですよ。
で、遠くのテーブルにいたのを見たことあるんです。
- 糸井
- 野武士がその辺を歩いてるみたいだったでしょう?
- 松本
- そうそうそう。
豊臣秀吉と織田信長がお茶飲んでるみたいな(笑)。
それを遠くから見て「あぁ、素敵だなぁ」と思ってて。
- 糸井
- 今考えてみれば、若い人が伸びてきてる
盛りみたいな存在だったはずなんだけど、
あの人たちの主観としては、
天下を取ったような顔してましたよね。
その自信がうらやましかったんだと思うんですよ。
- 松本
- 今でもね僕、Twitterでフォローしてるんですけど、
四谷さんカッコいいですよね。
- 糸井
- あんなふうに自信たっぷりに生きてるっていうのは、
僕の若さと、僕のそれまで生きてきた道のりからしたら、
やっぱりあり得ないんです。
年上の人だからしょうがないかってところもあったけど、
いい映画を観ては落ち込んでいました。
たとえば「状況劇場」を観に行ったら、
唐さんが途中からパッと出てくると満場のファンが、
「唐ぁっ!」って叫ぶわけですよ。
- 松本
- 僕もね、唐組の「紅テント」観に行ったんですよ。
一番後ろの席で、テントだから角度が45度になる。
だから僕はずっと中腰で、背中にテントがあるわけ。
- 糸井
- わかる、わかる(笑)。
- 松本
- 前の人がぎっしりいる中で
なんで俺、こんな窮屈な姿勢で
芝居観なくちゃならないんだろうって。
- 糸井
- あぁ。それをみんなが平気で我慢してたし、
棒を持ったクマちゃん(篠原勝之)がさ、
「そこの地面がちょっと見えてるぞ!」
「もっと詰めろ!」って言うと、客がみんなで詰めて。
- 観客
- (笑)
- 糸井
- 「もう無理だと思っても、まだ詰まるんだ!」
って言うと、お客さんがまた詰めて。
45度の人なんて、いいほうですよね。
お客さんは水もかぶったりするし。
それを平気でやっていられたんだよね。
- 松本
- あれは、70年代のアングラっていう文化ですよね。
- 糸井
- 主観的な強さを持った人が、やっぱり強いんです。
松本さんは「はっぴいえんど」で
バンドマンだった時から、
みんなが聴く音楽を作る作詞家として入ってますよね。
バンドマンとして自分がしたいことをちゃんとやれて、
一方では、人が喜んでくれることをできていた。
僕の主観からすると、
自分に全然力がないと思っているから、
「いやぁ、すごいもんだなぁ」っていう。
- 松本
- 「はっぴいえんど」は観ましたか?
- 糸井
- 「はっぴいえんど」は生では観てないです。
- 松本
- 「はっぴいえんど」はね、
いいバンドだったんです。
- 観客
- (笑)
- 糸井
- そういえば「ガロ」の宮谷一彦さんが
『風街ろまん』のジャケットの絵を描いてましたよね。
僕には、漫画家になりたい時代があって、
「ガロ」の人たちには思い入れがあったんです。
- 松本
- あれ、頼みに行ったんですよ。
最初のアルバム(1stアルバム『はっぴいえんど』)の
林静一さんの時にも直に頼んだんです。
- 糸井
- 「ゆでめん」って書いてあるやつ。
- 松本
- あれは新宿の「青蛾」っていう喫茶店でした。
ものすごく小っちゃな2階建ての喫茶店で、
コーヒーをおじいさんが入れてね。
メチャクチャ怖いんですよ。
話ししてると、怒られるんです。
- 糸井
- はぁ。
- 松本
- 林静一さんに呼び出されました。
「青蛾まで(原稿を)取りに来てくれ」って。
- 糸井
- 「はっぴいえんど」の中では、
依頼するのは松本さんの仕事なんですか?
- 松本
- そうそう。
僕、『風街ろまん』で
クビになってますけど(笑)。
- 糸井
- あらまぁ。
- 松本
- まぁ最初は、うまくいっていたんです。
矢吹申彦さんが全体のデザインをして、
他のメンバーもいなかったから
イラストを頼みに行ったのは僕で。
- 糸井
- なにかと面倒くさいことは、
お前やれよ的なところにいたんですか?
- 松本
- パシリですかね。
- 観客
- (笑)
- 糸井
- ドラムってけっこう、偉そうじゃない?
- 松本
- 年齢的には3番目なんですよ。
- 糸井
- 細野さんが1番ですね。
- 松本
- 細野さんが2個上で、大滝さんが1個上。
そして僕で、2個下が茂(鈴木茂)で。
- 糸井
- あぁ。
- 松本
- 茂だけ呼び捨てなんです。
ものすごく年功序列ですね。
- 糸井
- 昔の人って、意外と年功序列でしたよね。
- 松本
- それを植えつけてるのは細野さんですけどね。
- 糸井
- あとね、細野さんは声が低い。
- 松本
- やたら貫禄がありますよね。
この間もライブで僕がドラムを叩いたでしょ?
ちょっとミスるでしょ?
するとね、細野さんがかばうような目つきで
僕のほうを振り向くの、心配そうに。
- 観客
- (笑)
- 松本
- それ、たまらなく嫌だった。
過保護のオヤジって感じで。
「ほっといてくれ」と思ったけど(笑)。
- 糸井
- ああ、そうだ。
よくステージの上から、
「よく頑張っている」って言い方を
されてましたよね。
- 松本
- そう、なんかね。
- 糸井
- 「ドラム、松本隆。よく頑張ってます」って。
- 観客
- (笑)
- 松本
- 細野さんは、とにかく過保護だと思う。
守ろうとするんです。ありがたいですけどね。
本当、足向けて眠れないくらい。
- 糸井
- でも、細野さん自身は、
そんな兄貴分っぽい人じゃないじゃないですか。
- 松本
- いや、隠れオヤジですよ。
- 糸井
- 隠れオヤジですか。
僕の知ってる細野さんは
もうちょっと甘えん坊ですよ。
- 松本
- 甘えん坊だし、ある意味クールだし。
冷酷なところもあるし、残酷なところもあるし。
でも、僕に対しては、すごい過保護ですね。
- 糸井
- ドラムやってる人って基本的には、
「じゃあ、俺がやるよ」って責任を持ったように
思えるケースが多いんですけど。
昔はドラマーがバンドのリーダーでしたよね?
ジャッキー吉川とか田邊昭知の時代があった後は、
「バンドやろうぜ!」ってなった時に、
「俺、ギター!」「俺、ギター!」「俺、ボーカル!」
「俺、じゃあしょうがない。ベース!」
「誰がドラムやる?」ってなってから、
「じゃあ、俺がやるよ」って決まり方になりましたよね?
- 松本
- 僕の場合は最初から、
「縁の下の力持ち」になるのが好きだったんです。
- 糸井
- それは好みだったんだ。
- 松本
- 自分が目立つよりも好みですね。
だから、作詞家は向いてたなと思って。天職かも。
(続きます)
2015-10-26-MON
(C) HOBO NIKKAN ITOI SHINBUN