好きなものを集めたら、
ちょっぴり奇妙な「雑貨」が集まる店ができました。
店の名は『HOBO SUPER OMISE SHOP』。
自分の人生に必要かと言われたら、
そんなことはない。
でも、所持したい。
コレクターになるというよりも、これは所持欲。
自分が買わないで誰が買う。
自分が買わなかったら誰かに買われてしまう。
買わねば。
そして家やお気に入りの場所に飾ることを、
たのしみたい。
バイヤー経験もある目利き店主、
塚本太朗さんが集めた品々を
ひとつずつ見せていただく連載です。
週に2回、火曜と金曜にお届けします。
1月の「生活のたのしみ展」にも出展するので、
どうぞおたのしみに。
中外陶園は、愛知県瀬戸市の陶磁器屋さんです。
もともとは、陶磁器製の置物などを
輸出する会社でした。
だから、「国の中」でつくったものを「国の外」へ、
という由来で「中外陶園」というお名前なんですよ。
へえーっ、そんな意味があったのですね。
当初は、
ヨーロッパやアメリカのメーカーから
オーダーを受けて製品をつくり、
輸出していらっしゃいました。
ですが、先代の社長が
「注文を請け負って輸出するだけではなく、
自社で独自につくれるものを開発しよう」
と決意して、
縁起ものの人形をつくることにしたそうです。
中外陶園さんの人気商品である、
雛人形や招き猫は、そうして生まれたのですね。
いまは、そういった自社製品をメインで
つくっていらっしゃいます。
僕は、7、8年前にお知り合いになりました。
そのころ、中外陶園では
「縁起ものを飾る習慣がない世代にも届く、
あたらしい縁起ものをつくりたい」
と考えていらしたんです。
塚本さんは、どのようなところに
協力したのですか?
既存の製品の一部を
あたらしいデザインに変えることから始めて、
若い人向けのショップで売れるものを
一緒に目指しました。
それまではデコラティブだった置物を、
モノクロの、モダンな見た目にしてみたり‥‥。
僕の事務所のデザイナーと相談しながらつくり、
最終的には、中外陶園の展示会を
プロデュースさせてもらいました。
幸い、それをきっかけに
新規の取引先がついてくれたので、
その後もご一緒させてもらうことになって。
「次はどんなものをつくろう」
と話し合ったときに、アーティストユニットの
tupera tuperaさんとコラボして、
十二支の置物をつくれたらいいなという
話が出ました。
いままでにない、
スタイリッシュな干支の置物ですね。
たしかに、若い人にもよろこばれそうです。
十二支なので、
必ず12年はかかる長大プロジェクトでした(笑)。
だから、大変ではありましたが、
そのぶんいいものができたと思います。
実はこのシリーズ、「丑(うし)」から始めたんですよ。
十二支のいちばん最初の「ねずみ」からではなく?
もともとは「ねずみ」で始める
つもりだったのですが、
中外陶園さんの瀬戸の工房を訪ねたりしていたら、
制作に1年以上かかって‥‥。
ああ、子(ね)歳を逃してしまった、と(笑)。
やはり、作家さんが
「どういうものがつくりたいか」を
想像するためには、まずは瀬戸の工房で、
中外陶園がつくってきたものを
見ることが不可欠だったのです。
これは、tupera tuperaさんに限らず、
コラボレーションしている
どの作家さんにも言えることです。
コラボを通してどんなことができるか、
作家さんみずからが見て
考えることが必要だったのですね。
今年、中外陶園とのコラボ商品を発表した
アーティストのミロコマチコさんは、
もともと猫がお好きで、
よく絵に描いていらっしゃいます。
なので、「ミロコさんの描く猫を招き猫にする」
というプロジェクトが最初にできたんです。
ですが、ミロコさんは、実際に工房を見学したとき、
中外陶園さんの「蚊遣り器」に着目なさって。
蚊遣り器というと、蚊取り線香を入れる置物ですね。
ぶたの形をしていることが多い‥‥。
それです、それです。
中外陶園さんでは、
以前から蚊遣り器を生産していました。
奄美大島にお住まいのミロコさんは、
それを見て「奄美も蚊が多いんですよ」と
お話ししてくださったんです。
これがきっかけで、招き猫だけでなく、
ミロコさんコラボの蚊遣り器もつくることに
なりました。
へえー! まさに、
これまで中外陶園さんがつくってきたものと、
アーティストさんの個性が直接出会ったからこそ
生まれたアイテムですね。
販売はまだ先で、残念ながら
「生活のたのしみ展2025」には
間に合わないのですが、かわいいですよ。
よく見る、ぶたの形の蚊遣り器とは一味違うんです。
おもしろーい。完成がたのしみです。
蚊遣り器を思いついたミロコさんのように、
作家さんの多くは、
職人さんたちの制作現場を訪れると、
たくさんのインプットをして
アイディアを出してくださります。
どんな方とコラボレーションするかは、
基本的には塚本さんがご提案するのですか?
僕が提案させてもらうこともありますし、
中外陶園の社長さんから
「こんなコラボはどうかな」と
お話をいただくこともあります。
僕は、イラストレーターさんをよくご紹介します。
すばらしい平面の作品が、中外陶園の陶器として
立体になったものを見てみたくて。
以前コラボしていらした、
てらおかなつみさんや福田利之さんも、
イラストを描く方ですね。
絵が立体になるイメージをするのは
むずかしそうですが、
どのように制作を進めたのでしょうか。
作家さんと中外陶園さんが
何度もやりとりを繰り返して、
イラストから立体への調整をしました。
「もうちょっと猫背にしましょう」と
角度を1ミリくらい動かしたりと、
根気強く取り組んでくださりました。
ミロコさんの招き猫も、
手で成形した跡がそのまま残っているような、
複雑な形です。
これを量産でつくるというのは、
ほかではあまりできないことですね。
初めて見たとき、
「こんな製品ができるんだ」と感動しました。
その招き猫をつくったときは、
紙粘土での試作品のやりとりもたくさんして、
最終的に首が回るようにできたんですよ。
かわいいでしょう。
彩色についても、
何度も修正を重ねました。
ひとつひとつミロコさんが描いたと言われても
信じてしまうくらい、
ミロコさんのタッチが忠実に再現された絵付けです。
こんな、すごい成形や絵付けができる技術を、
瀬戸の職人さんたちは持っているんです。
三毛猫のぶち模様ひとつとっても、
この味わいを出すのは簡単ではないんでしょうね。
絵付けを補助する型などもないのでしょうか。
ないんですよ。
ひえー‥‥。ショーゲキです。
釉薬自体も、コラボ先のアーティストごとに
ちがうものを使っているように見えます。
絵のタッチに合わせて、つるっとした質感の釉薬か、
マットな釉薬かを選択しています。
僕も、中外陶園さんとお仕事をするまで、
陶器の釉薬にこんな種類があるなんて
知りませんでした。
職人さんたちの
「よいコラボ商品をつくろう」という
熱量が伝わってきます。
アーティストコラボなどによる、
あたらしい形の人形づくりは、
これからもつづけていく予定なのでしょうか。
はい。
僕自身、自分の子どもに雛人形を買うとき、
「ほしい」と思えるものがあまりなかったんです。
1年に一度とはいえ、
毎年使うものなので、好みに合うものにしたくて。
だから、
デザインの選択肢を広げてくれる、
中外陶園のような会社があってくれて
よかったと思っています。