南 |
あのさ、夜這いの話をさ、
訊いてみてもいいかな。
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糸井 |
あの、ガイドのかっこいい彼に?
いいんじゃないかな、
ぜひ、訊いてみようよ。
──夜這いの話とは?──
それは、そもそも一行がブータンに来る
きっかけになったともいえるエピソード。
ある日、伸坊さんが観たテレビ番組で、
いまもブータンの辺境に残るという
「夜這い」の風習を特集していた。
夜這いとは、すなわち、
意中の娘さんの寝床に男が忍んでいくこと。
伸坊さんが観たドキュメンタリー番組の中では、
夜這い未体験の純情な青年に、
夜這いの名人が夜這いについて
レクチャーしていたという。
音を立てずにその娘の部屋に入っていき、
寝ている彼女にそっとナスを握らせ、
ナスを握り返したら「OK」らしい。
それって本当? ということが
かつての黄昏で話題になったのだった。
くわしくは、こちらをどうぞ。
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南 |
あのね、ちょっとうかがいたいんだけどね、
夜這いの風習っていうのが、
ブータンの一部には残ってますよね。
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青年 |
はい、そうですね。
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糸井 |
それでね、その夜這いのやり方として、
相手の女性にナスを渡して、
そのナスを握り返したらOKだっていう
話があるんですけど、それはほんとう?
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青年 |
え? ナスを?
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南 |
うん、ナスをこう‥‥。
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糸井 |
渡して、握ると、OK?
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青年 |
???
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糸井 |
うまく伝わらないね。
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南 |
えーとさ、だからさ、
オレが女だとするだろう?
(いきなりその場に寝そべる伸坊さん)
で、この状態でさ、オレにナスを渡すわけ。
それを握り返したら‥‥。
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青年 |
(大笑い)
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糸井 |
伸坊、うけてるぞ。
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南 |
うけるためにやってるんじゃないんだけどな。
ええと、ナスをこう、わかる?
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青年 |
ええと、そういうことをするときは‥‥
‥‥その‥‥すいません。
(恥ずかしくなって黙ってしまう)
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糸井 |
恥ずかしいんだって、やっぱり。
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南 |
いいなぁ(笑)。
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青年 |
自分たちのころは、
相手になにかをあげたりしなかったけど、
昔、ナスじゃなくて、
ドマ(ブータンの伝統的な嗜好品。
ライムの葉などといっしょに噛む)を
あげたという話は聞いたことがあります。
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南 |
へーーー。
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糸井 |
ああ、やっぱり、そうなんだ。
ナスを渡すかどうかはともかく、
夜這い自体はほんとにあるんだねぇ‥‥。
あなたも、実際に経験ある?
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青年 |
ふふふふふ。
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南 |
ふふふふふ。
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糸井 |
ふふふふふ。
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一同 |
(笑)
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青年 |
最近の「夜這い」は
昔の「夜這い」とは違っていて、
泥棒のように忍び込むようなやり方は
あまりやりません。
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糸井 |
ほう。
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南 |
急に雄弁に語りはじめたね。
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青年 |
男性側にも女性側にも
個性や好みがありますし、
相性というのも大切です。
それで、男性側は調査をします。
たとえば、日中、畑などでいっしょに働いて、
ターゲットを定めるわけです。
どの女の子がフレキシブルで、
どの女の子がタフか。
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南 |
「フレキシブル」(笑)。
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糸井 |
おもしろい言い方だねぇ。
つまり、そういうことに
柔軟に対応しそうな女の子が
「フレキシブル」で、
拒絶しそうな子が「タフ」。
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南 |
じゃあ、たしかめるだけじゃなくて、
根回しまでしておくわけ?
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青年 |
そうですね。
日中にだいたい狙いを定めておいて、
口約束くらいは、その場で。
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糸井 |
ああー、そうなんだ。
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南 |
じゃあ、女の子のほうも、
だいたいわかってるわけだね。
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青年 |
ただ、そういうふうに
事前に約束するようになったのは
ごく最近のことです。
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おじさん |
そうそう、最近の若いもんはね、
ずいぶん、ラクをしてるよ!
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南 |
おおっ、いいね、お父さん!
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糸井 |
最近の「夜這い」は
なっちゃぁ、いないぜと(笑)。
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おじさん |
昔はね、夜、女の子の家に行って、
外から石を投げているかどうか確認して、
ドマを渡してっていうことを
やってたもんだけどね、
最近はもう、ほんっとに簡単になった!
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二人 |
アハハハハ!
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おじさん |
昔はね、わざわざね、
歩いて言って確認したもんだよ、ぜんぶ。
でも、いまはぜーんぶ、テレホン!
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二人 |
ハハハハハハハハ!
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おじさん |
昔はね、そりゃぁ、たいへんだったよ。
なにがたいへんって、冬だよ。
冬は寒いだろ?
いちばん暖かいのが火のある台所なんだよ。
だから、台所に一家全員が寝るんだよ。
そんななか、会いに行くわけだからさ。
せっかく昼間にあの娘と決めててもさ、
真っ暗だからどこに寝てるんだか
わかりゃぁしないよ!
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一同 |
(爆笑)
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おじさん |
しかも、よりによってその娘が
一家の真ん中に寝てたりするんだ。
そうすると、ほかの人を起こさないように、
こう‥‥(割り込むように寝る仕草)。
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二人 |
ワハハハハハハハ!
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おじさん |
もー、たいへんなんだよ。
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糸井 |
いいねぇ、いいねぇ(笑)。
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南 |
あー、おかしい。
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糸井 |
すいません、あの、
基本的な質問なんですけど‥‥カギは?
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おじさん |
木のドアに木の窓だもの。
かかってないよ、そんなもの。
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糸井 |
カギがない?
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おじさん |
ノーロック。
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糸井 |
ノーロック。
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南 |
ノーロック。
泥棒がインターネットを
読んでないといいけど。
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糸井 |
大丈夫。
泥棒も、ブータンまで来るのは
たいへんだよ。
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おじさん |
でもね、木のドアはよくないところもある。
なにかっていうと、開けようとすると、
ギッィィィィィィーーっと。
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南 |
あっはっはっは!
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糸井 |
おっかしいなぁ。
ね、おじさん、ざっくりいって
若いころ何回くらいやった?
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おじさん |
村の女の子はすべてトライしました。
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一同 |
(爆笑)
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糸井 |
いい(笑)。
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南 |
はははははは。
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糸井 |
明るいねぇ(笑)。
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おじさん |
だってね、いまは人間だけどさ、
来世に人間に生まれられるとは限らないからね。
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糸井 |
そうだよね、わからないよね。
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南 |
オレなんかゾウだもん。
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おじさん |
だから、現世にいるときくらいは
ナイトハンティングをたのしもうと。
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二人 |
「ナイトハンティング」(笑)。
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おじさん |
ただし、結婚したあとは、
自分の妻や子どもにも、
よくしなければならないので
ナイトハンティングはほどほどに。
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糸井 |
ははははは。
やらないわけじゃないのね。
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おじさん |
結婚したあとは、同じ村で
ナイトハンティングしてはいけないんです。
違う村の人でなくてはならない。
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糸井 |
へーー。
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南 |
そういうところは
妙にきちんとしてるんだね。
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おじさん |
ですから、ナイトハンティングの
シーズンは6月か7月です。
なぜなら、田植えのシーズンですから、
お手伝いするために、行き来がある。
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糸井 |
なるほど。
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南 |
なるほど。
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おじさん |
しかし、私くらい歳をとると、
もう、ダメです。
ですから(青年を指して)彼くらいの若者は、
いいものをたくさん食べて、健康を維持して、
美しい女の子にトライしなくてはいけない。
私くらい歳をとってしまうと、
いいなぁ、きれいだなぁと思う女性がいても、
‥‥なにもできない。これは真実です!
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一同 |
(笑)
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南 |
ははははは。
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糸井 |
生き生きしてるね、お父さん。
(ナスは絶対必要なわけじゃないと。つづきます) |