第5回 物置ふたつ分の冒険。
糸井 伸坊は、苦手なものはないの?
南 いや、オレは、ほら、こないだ、
赤瀬川さんと3人で話したときにも言ったけど
スカイダイビングなんて、絶対やりたくないね。
糸井 オレは、それは平気なんだよなぁ。
南 そんな、わざわざ高いところにのぼってさ、
飛び降りるなんてのは。
糸井 高所恐怖症だっていう、
わかりやすい話じゃないんだよね。
南 あの、それで思い出した話があるんだけど、
オレが昔、マンションの4階に住んでたときにね
隣のおばさんが「ピンポーン」ってやってきて、
じぶんちのカギを子どもが持ってちゃって
家に入れないって言うんだよ。
糸井 ああ、ありそうな話だね。
南 で、要するに、隣に住んでるオレに、
ベランダ沿いに外から入って、
カギを開けてくれって、こう言うんだよ。
ベランダ側のガラス戸は開いてるから、
ひょいと手すりをまたいで外に一回出て、
またまたいで入ってさ、
座敷つっきって中から玄関開けてくださいと。
糸井 うん。
南 で、まぁ、いいですよって言って、
それで、こうベランダ出たらさ、
うちと、その隣の家の間には
物置がふたつ、こう、続いてんです。
糸井 ふたつも。
南 ふたつも。あっちの物置とうちの物置。
ベランダの柵を越えて、外に出るのはまぁ簡単。
簡単つっても、危ないっていえば危ないよ、
四階だから。
右隣だったらその簡単なの、
ところが、左隣りは。ふたつ物置。
2メーター50くらいあったかなぁ。
もうちょっとあったかなぁ。
それね、あとから考えれば、
「これ、ちょっと無理です」っていう状態なの。
糸井 ふたつだからね。
南 ふたつだからさ。でも、なんかオレ、
「やんなきゃ」って思ったみたいで、
それで、こう、行っちゃったんだよ。
柵の外側に出ちゃってさ、とりあえず。
糸井 おお。うん。
南 でね、物置のところってのはね、
もう、つかむところがないんだよ、壁で。
ちょうどオレの顔くらいんとこに、
鉄の「さん」みたいなのがある。
そのでっぱりを、こう、指先に力入れて、
ぎゅうーってつかむしかないんだよ。
その幅がね、もう、数ミリ、
1センチないの。
糸井 (笑)
南 パイプみたいにつかめるもんじゃないんだよ。
指先でマージャンパイつかむみたいに
こーうやって、必死に両手で
もう、すっごく、危ないのよ。
糸井 足は?
南 足もね、このぐらいなんだよ。
5センチないね、4センチぐらい。
糸井 つまり、靴が全部、収まんない。
南 いや、裸足、もう、つま先、つま先。
つま先でこうやって支えながら、
手は、こう、マージャン、きゅうーって。
で、なんとか越えて、
バッて柵つかんでとび越えてさぁ、
玄関開けてあげたらさ、
「あ、どうもー」かなんか言われて、
それで終わっちゃったんだよ。
糸井 (笑)
南 オレもさ、「ああ、どうも」なんつったけど、
どえらいことをやったわけだよ!
糸井 ちなみにさ、そんとき、伸坊、
どっからじぶんちに帰ったの?
南 え? いや、その、開けてあげたからさ、
そこん家の、玄関から出て、
じぶんちの入り口からこう。
糸井 なんだ、ふつうに帰ったんだ。
南 そいじゃあ、つってまたベランダから戻るの?
そんな、そこまで冒険家じゃないよ。
糸井 じゃなくてさ、そこで、
伸坊んちの玄関にカギが
かかってればいいなと思って。
南 ああ、なるほど(笑)。
じゃあ、隣の家の玄関から出て、
じぶんちの玄関まで行ったけど入れなくて、
しょうがないから隣んちの呼び鈴押して、
「すいません、あの、カギがかかってて」
糸井 そうそうそう(笑)。
ぜひかかっててほしかったな。
南 いや、あの、これ、本当の話だからさ。
糸井 それ、誰かに話すときには、オレ、
かけちゃおうかな、カギ。
南 「それで、どうしたと思う、伸坊は。
 またベランダから戻ってっつうんだよ。
 バカだねーっ」て?
糸井 そうそう。
「そんときはもう、
 怖くもなんともなかったんだって」
一同 (笑)
(まだまだ、つづきます)

2008-05-03-SAT


(C)HOBO NIKKAN ITOI SHINBUN