黄昏 た そ が れ  日光・東北編       南伸坊さんと、糸井重里。昔なじみのふたりが、始終しゃべりながら小旅行。前回は鎌倉の名所をめぐりましたが、今回は日光、松島、花巻あたりを回ります。ゆっくと変わる風景と、めくるめく無駄話。いったいいつまで続くのかな‥‥? そしてこの不思議な企画は、なんとすべてをまとめて本になるのです。いえ、ほんとの話です。
第34回 セミを手で捕る大人。
南 糸井さんって、けっこう、
昆虫関係くわしいよね。
糸井 そうかなぁ。
南 ふつうの人よりは知ってるでしょ。
糸井 そうなのかな。
のぞき趣味が強いのかもしれない。
その、セミの幼虫とか、羽化とかさ、
やっぱり「見たい」んだよね。
南 子どものころは、
いわゆる昆虫少年ではなかったの?
糸井 捕るのは好きでしたね。
いまでも、セミはだいたい手で捕れますよ。
南 手で、セミを?
糸井 うん。網とかなしで捕ります。
南 子どものときから?
糸井 子どものときは手じゃなかったかなぁ。
手で捕るのは、大人になるにしたがって
うまくなっていったような気がする。
南 それは、めずらしいね。
「子どものときはうまかったんだけどな」
っていうのが一般的なパターンでしょ。
糸井 あ、それは、わかりやすい理由があってね、
前にも話したと思うけど、
子どもの前でひょいって虫を捕ると
ものすごく尊敬されるんだよ。
南 ああー、そうか、そうか。
糸井 子どもに「すごーい」なんて言われて、
うれしくなって、自信をつけて、
ますますうまくなる、みたいな循環で
虫とりのセンスが磨かれていくわけ。
南 ああ、それで思い出したんだけどね、
あの、うちの親父は、
病気で寝ていることが多かったんだけど、
なんか、突然、背広着て、
外へ出かけることがあってさ、
そういうときは、たいてい親父は
ソフト帽なんかをかぶってたわけ。
糸井 うん。
南 で、ある日も出かけるということになってね。
玄関でお見送りをするわけだ。
そんで、ガラガラって開けると、
ちょうどそこを、トンボがスイッて飛んできて、
あれはなんの木だったかな?
なんか、玄関先の木にとまったんだ。
糸井 うん、うん。
南 あれは、つつじかな?
つつじみたいに、こう、こんもりしたやつで、
その上にトンボが、スッと、とまったんだけど、
いつもはそんなことぜんぜんしないのにさ、
その日に限って、親父がこう、
自分のソフト帽をスッと脱いで、
それを木にかぶせるみたいにして、
トンボを捕ってくれるっていうことがあった。
糸井 おお、うん、うん。
南 オレはものすごく期待してさ。
糸井 うん(笑)。
南 で、こうー、ソフト帽を網のように構えながら、
親父がソーッと近づいてったら‥‥
フィッとトンボは飛んでっちゃってさ。
あとは、全員、何事もなかったかのように。
一同 (笑)
糸井 ははははははは。
南 でも、なんていうか、
ちょっとは、うれしかったんだな(笑)。
糸井 わかるよ、それは。
そういうことに親が参加してくれるのって、
子どもはすごくうれしいんだよね。
南 そう、そう。
捕ろうとしてくれるだけでうれしいんだ。
で、ちゃんと捕ってくれたら、
もっとうれしいんだろうけど(笑)。
糸井 オレの場合、
父親がそういうことをしてくれたかどうかは
あんまり覚えてなくて、
たぶん、してくれなかったんだと思う。
でも、そうしてくれたらうれしいだろうな、
っていう思いは残っててさ。
南 うん、うん。
糸井 だから、そういうとき、やたらに、
虫を捕りにいく親になっちゃったんだよ。
自分が父親になったときに、
「さぁ、オレの番だ」とばかりに、
行ったねー。どこまでも。手づかみで。
南 ははははは。
(いい話ですねー。つづきます)

2009-11-08-SUN

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