黄昏 た そ が れ  日光・東北編       南伸坊さんと、糸井重里。昔なじみのふたりが、始終しゃべりながら小旅行。前回は鎌倉の名所をめぐりましたが、今回は日光、松島、花巻あたりを回ります。ゆっくと変わる風景と、めくるめく無駄話。いったいいつまで続くのかな‥‥? そしてこの不思議な企画は、なんとすべてをまとめて本になるのです。いえ、ほんとの話です。
第35回 ベニヤ板にペンキを塗っていたころ。
南 ベニヤ板ってさ、ものすごく
安物っていうイメージがあったけど、
いまは高いんだってさ。
ほんとかねー。ちょっと信じられなくて。
糸井 わら半紙も高いでしょ。
南 え!
糸井 わら半紙。高いんだよ。
南 つまり、もう、あんまりつくってないから?
糸井 そういうことなんだろうね。
南 ああ、そう言われるとわかるなぁ。
糸井 化学繊維を入れない
ふつうのちり紙もすごく高いんだよ。
南 ふーん。
糸井 クジラのベーコンも、昔は安かったけど高い。
おんなじ理屈だよね。つくってないから。
ベニヤ板も、そういうことなんじゃない?
南 ベニヤ板の場合はとくに、
安いっていうイメージが残っちゃってるんだな。
「ベニヤの板でつくったような」とか
表現としていまだに使われたりするじゃない。
糸井 そうだね。ぺらっぺらなものの象徴としてね。
そういえば、ちょっと前にオレ、
ラスベガスに行ったんだけど、
久しぶりに観光客相手の
アメリカ文化を目の当たりにして、
ベニヤ板的なるものを感じたなぁ。
実際にベニヤ板を
使ってるわけじゃないんだけど、
見えるところと、見えないところで、
ものすごく差がある建築をつくってる。
南 ああー。
糸井 アメリカ中に何百も支店を持ってる
チェーン店なんかが最たるもんでね、
ほんとに見えるところだけ、
ベニヤ板的なるもので
とりつくろってる感じで。
南 そういうのって、
日本の戦後に生まれたものかと思ってたよ。
モノもお金もないっていうときに、
形だけ間に合わせるっていう。
じゃ、もともとはアメリカなんだ。
糸井 それを輸入しちゃったんじゃないかな。
南 でも、ニューヨークなんか行くと、
けっこう古い石造りの
建築物があったりするじゃない。
糸井 だから、ヨーロッパの石の文化を
まるごと移してるところもあるんだよ。
ぜんぶがぜんぶ、ベニヤ板じゃなくて。
なんていうか、合理的に済ませたいところは、
てらいもなくベニヤ板で行っちゃうところが
あの国にはあるんだと思うな。
南 なるほどね。戦後の日本は、
まさにその方式だったのかもしれない。
糸井 あー、そうだね。
南 あの、進駐軍が日本の建物を
接収してさ、その建物は、
じつはすごくいい木をつかってるのに、
どんどんペンキを塗っていっちゃった
っていう話を聞いたことがある。
糸井 ああー。
南 で、そういう、古い建物に
どんどんペンキ塗っちゃうようなことを
いいと思ってる時期があったよね、オレたち。
糸井 あった、あった。大いにあった。
南 なんでもとにかく
白く塗っちゃったりなんかして。
糸井 大瀧詠一さんとかがさ、
福生に本拠を構えて、
米軍が使ってたハウスを安く借りて
みんなで住もうなんてやってたのが、
ものすごくうらやましく思えたもの。
南 うん、そうそうそう。
糸井 ペンキねー。
冷蔵庫とか塗ったよ、オレも。
なんだか素敵な緑色に冷蔵庫を塗ったんだ。
南 ペンキでね。
糸井 自分でペンキを塗るっていう行為が、
すごく、新しい感じがしてね。
なんていうんだろうな。
古い、封建時代の日本を塗り替えちゃう
みたいな気分があったんだろうな。
南 そうだねぇ。
糸井 わざわざ安っぽく
塗り替えちゃうみたいな感じが
当時はとってもよく思えた。
それはそれで、
後悔するような気持ちはないんだけど、
年をとると、まったく逆のことを
おもしろがってるね。
なんか、木の材質のこととかさ。
南 そう(笑)。
糸井 こないだおもしろかったのはさ、
昔のお金持ちの家にあった古材について、
しみじみ説明してくれた人がいたの。
「これ、虫が開けた穴なんですけどね、
 木が硬くて、途中であきらめて、
 こっちから出てきてるんですよ」
っていう言い方をするわけ。
その古材を実際に見せながらさ。
南 ははははは。
糸井 虫食いの穴まで、
そうやって愛でてるわけだよね。
それは、おもしろいし、いいよねぇ。
南 そういうふうに変わるのは、
やっぱり年齢的なことかな。
糸井 そうだね。
やっぱり、ベニヤ板に
ペンキを塗ってるのもたのしいけど、
年齢を重ねていくと、ほんとのことが
知りたくなるんじゃないかな。
南 そうかもしれない。
(あと、どのくらいかな? つづきます)

2009-11-09-MON

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