黄昏 た そ が れ  日光・東北編       南伸坊さんと、糸井重里。昔なじみのふたりが、始終しゃべりながら小旅行。前回は鎌倉の名所をめぐりましたが、今回は日光、松島、花巻あたりを回ります。ゆっくと変わる風景と、めくるめく無駄話。いったいいつまで続くのかな‥‥? そしてこの不思議な企画は、なんとすべてをまとめて本になるのです。いえ、ほんとの話です。
第42回 はなまきの話を詰め込む。
糸井 中華料理屋でね、オレはいつも、
はなまきを頼み忘れちゃうんだ。
南 なに?
糸井 はなまき。中華料理の。
あの、ふかふかした、蒸しパンみたいな、
肉まんの皮部分みたいなやつ。
あれを、いっつも、頼み忘れちゃうんだよ。
南 唐突だね。ま、いいや。
糸井 食べてるときにね、思い出すんだ。
「あ、ここ、はなまきが必要だな」って。
でも、そう思ってから注文すると、
はなまきってのは、蒸さなきゃいけないからさ、
お店の人は必ず、
「ちょっとお時間いただきますけど‥‥」
って言うんだよ。
だから、そのときはあきらめて、
「これからは最初に頼まなきゃな」
って思うんだけど、いつも忘れちゃう。
南 好きなんだね、はなまきが。
糸井 はなまきって、
食べてるときに思い出す食べ物なんだよ。
フカヒレ系の料理を食べているときとか、
ひき肉を使った料理のときとかに。
で、よく行く中華料理屋の店員さんは、
ぼくが、はなまきを注文しては、
「お時間いただきますが」って言われて
がっかりしてるのを何度も見てるから、
いっしょに悔しがってくれるようになった。
「そうそう、はなまきでしたね」って。
南 気を利かせて出してくれるんじゃなく。
糸井 そうなんだよ。
いっしょに悔しがってくれるよりは、
「今日は、はなまきはどうしますか?」
って訊いてほしいんだけどね。
南 そういうことを、
岩手の花巻に行ったなってことで、
突然、思い出したと。
糸井 そうそう。
地名で「花巻」と見かけるたびにね、
この「はなまきを頼めない話」を
しなきゃいけないなと思ってたんだけど、
もう、「花巻」を離れちゃって、
接点もなくなりそうなんでね。
南 はははははは。
話すきっかけがなくなりそうだから、
つながりもなく、唐突に。
糸井 うん。だから、「はなまきの話」を、
旅行前に慌てて詰め込んだわけ。
南 ああ、荷物の隙間に。
糸井 そうそう(笑)。
南 Tシャツと靴下のあいだかなんかに。
糸井 そう。荷造りしおわった旅行カバンに、
UNOをギュッと詰め込む感じ。
南 UNOね。カードゲームのね。
糸井 いっつも持って行かなくて、
現地のコンビニで買っちゃったりするから、
「そうそう、UNO」って
カバンに入れる感じで、
いま、はなまきの話をしたわけ。
だって、花巻に行ったのに、
1回もはなまきの話をしないなんて、
もったいないだろう?
南 つけ加えるようなことじゃないけど、
オレもはなまきは好きですよ。
糸井 お、いいね。おいしいよね。
すこーし、甘味があってね。
南 味が薄いとこがいいんだよね。
糸井 そうそう。で、たくさんは食べない。
そこらへんも含めて、いいよね。
お店側もさ、はなまきで
お腹がふくれちゃったら
料理を食べてもらえなくなるから、
そんなには持ってこないんだよ。
南 あ、なるほどね。
それで、いつもちょっと足んない加減が。
糸井 あるんだよ。そうそう。
南 いいねぇ、はなまき。
糸井 だからこれからはさ、中華料理屋で
しっかり食べるようなときは、
「はなまきもお願いしますね」って言おうね。
南 うん。言おう。
糸井 オレは言うよ。
思いきって、「2個ずつ」とか言う。
南 しかし、あれは、肉まんの外側とは違うよね。
たとえ、成分が同じだとしても、
はなまきとして食べてるときは、
「肉まんの中身入れませんでした」
っていうものとは違うと思う。
糸井 そりゃ違うよ。気概が違う。
南 「気概が違う」(笑)。
糸井 たとえあれが肉まんの皮だとしても、
「この皮を食べさせてやろう」っていう
気概が最初からあるわけだからさ、
皮としての完成度が違うんだよ。
南 どうでもいいけど、
好きな食べ物の話するとき、
ものすごく真剣になるよね、糸井さん。
糸井 ‥‥‥‥。
(たのしい旅も、終わりが近づきます)

2009-11-17-TUE

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