- ──
- オール気仙沼、という言葉が出ましたけれど
斉吉商店さん、八木澤商店さん、
アンカーコーヒーさんと立ち上げた
「madehni(までーに)」も、
三陸地方に拠点を置く4社が集まってできた
ブランドですよね。
どんなきっかけで、始まったんですか。
- 石渡
- 地震のあとって、2~3日くらい、
何も食べられなかったんです。
震災後、はじめてものを食べたときの
あの、からだに染み入ってくる感覚のことを
みんなで、話し合ったことがあって。
- ──
- 食べ物が、染み入る。
- 石渡
- そう、それが、とってもありがたくて、
なによりおいしかったんですが、
そういう感覚を
全国のみなさんにも感じてほしいなあ‥‥と。
- ──
- そういう思いが込められてたんですね。
「madehni(までーに)」には。
- 石渡
- たとえば、仕事でクタクタにくたびれ果てて
家に帰る都会の女性が、
途中のコンビニでごはんを買ったり、
昨日の残り物をチンするかわりに、
「madehni(までーに)」のスープがあれば
遅い時間でもスーッと飲めるし、
心と身体に染み込んでホッとできるかなって。
- ──
- なるほど。
- 石渡
- 当初は「特別な家庭料理」をテーマに
なにか商品をつくれないかな、ということで、
「ごはんに合うおかず」を
いろいろと考えていたんですが、
斉吉さんが「‥‥スープにしましょう」って。
- ──
- そこで方針転換して。
- 石渡
- 石渡商店はスープづくりの実績があったので、
技術やノウハウを提供しました。
ただ、洋風の家庭料理ははじめてだったので、
かなり試行錯誤はありましたが。
- ──
- 最初のメニューは、どのような?
- 石渡
- 石渡商店でつくった商品でいえば、
ひとつめが「気仙沼完熟牡蠣のポタージュ」で
次が「ゴマ香る七福芋の美人ポタージュ」です。
- ──
- みなさん、それぞれの得意分野を活かして
スープを開発されているんですか。
- 石渡
- そうなんです、たとえば斉吉さんでしたら
はじめに
「さんま出汁のつみれスープ」
「海老団子とかぶのすり流しスープ」などを
開発しておられましたし。
- ──
- 八木澤商店さんは‥‥。
- 石渡
- 「豆と押麦の満腹スープ」ですね。
- ──
- オシムギ。
- 石渡
- それと「枝豆と白だしのポタージュ」です。
アンカーコーヒーさんは
「メカジキの地中海風スープ」でした。
- ──
- 4社のうち、どの社がつくったスープである、
ということは、パッケージに
小さくロゴが入っている程度なんですね。
- 石渡
- そうですね、みんなで定期的に集まっては
企画開発の会議をしたり、
サンプルの試食をしたりしておりますし、
「madehni(までーに)」は
あくまで4社の共同開発ブランドですので。
- ──
- ひとつひとつの商品が、
それぞれの社の得意分野の技術を背景に、
ていねいにつくられていて
それぞれに個性も感じられるのに、
全体としても
ひとつのブランドとして統一感があるのは
かっこいいと思いました。
- 石渡
- あ、ほんとですか。うれしいです。
- ──
- こうしてラインナップを見てみると、
石渡さんのところの
「湯葉と冬茹(どんこ)のふかひれスープ」は
お値段も高級ですね。
- 石渡
- madehni(までーに)では、
ふかひれは、やらないつもりだったんです。
もし、やるのであれば、
「最高のふかひれスープ」をつくりたい。
でも、そうしないと
「madehni(までーに)」に申しわけない。
- ──
- それほど大事にしているんですね、
ブランドとして。
- 石渡
- そんな意味もあって、いちばんはじめは
冬茹(どんこ)の商品を開発していたんです。
中華料理で、
冬茹を沸騰させずに6時間蒸して出汁を取る、
というスープがあるんです。
そこに「頂湯(ディンタン)」という
上等なスープを混ぜて、
最後に鶏油をかけて蒸したんです。
- ──
- ええ。
- 石渡
- それが、おいしくできたので、
madehni(までーに)の会議に持ってったら、
みんなが「冬茹って何?」と。
- ──
- えっと、海の魚のドンコじゃなくて?
- 石渡
- 干し椎茸の冬菇(どんこ)なんです。
みんなに
「これさあ、おいしいとは思うんだけど
ふかひれスープにしたら、
もっといいんじゃないの」と言われて、
ちょっと考えたんですが、
みんなの意見を取り入れることにしました。
- ──
- そうやってできたのが
「湯葉と冬菇のふかひれスープ」ですか。
- 石渡
- 湯葉はコクを出すために入れています。
- ──
- そうやって、ひとつひとつ、
みんなで話し合って決めていくんですね。
- 石渡
- そうです、ぜんぶ。
サンプルを試食しておいしくないと思ったら、
「まだまだだ」って
みんなで、真剣に言い合うんです。
- ──
- 三陸だけでなく全国にもファンの多い4社が、
本気で切磋琢磨して。
- 石渡
- 楽しくやってはいますが、
企画開発の会議は、とにかく厳しいです。
madehni(までーに)の会議は、
自分のところの仕事を終えてからなので
7時からはじまって、
遅いときは夜中の1時くらいまで、とか。
- ──
- サンプルのスープを試し飲みしては
ああでもない、こうでもないと。
- 石渡
- そう。
- ──
- 課題は、次の会議までに、改良して。
- 石渡
- 自分の会社ならば言いわけもできますが、
madehni(までーに)の場合は
「ごめん」が通用しないので‥‥
そうですね、なんとかしています(笑)。
- ──
- ラインナップは今後も増えていくんですね。
- 石渡
- はい、いろいろチャレンジしたいです。
アワビとか、メカ(メカジキ)とか、
気仙沼で採れる素材で
きちんと商品化されていないものって、
まだまだ、ありますので。
- ──
- 今回、他の経営者のみなさんと
プロジェクトをやってみて、どうですか。
- 石渡
- みんな、自分にないものや新しい考えを
どんどん吸収しようとしますね。
それも、勉強というより、
楽しみながらやってる感じが、あります。
そういうところを、尊敬します。
- ──
- ちなみにお聞きしておくと
madehni(までーに)という名前は‥‥?
- 石渡
- 最初は「サドメンコ」だったんです。
- ──
- サドメンコ。言葉から受けとるイメージが
ぜんぜんちがいますけど、
サドメンコ‥‥どういう意味なんでしょう。
- 石渡
- 俺もわかんない、気仙沼の方言です(笑)。
「めんこ」というのは
「砂糖、甘い、かわいい」という意味で、
全体としては
「うちの娘、サドメンコだからな」
みたいな感じで、使うみたいなんですが。
- ──
- でも、石渡さんがわからないってことは。
- 石渡
- そう、誰にもわかんないよねって話で、
ボツになりました。
そこで、同じく気仙沼の方言で
「ていねいに」という意味をあらわす
「までに」から、
「madehni(までーに)」だな、と。
- ──
- それはなんか、しっくり来ます。
- 石渡
- そう、「までに」は、使う言葉なんで。
「デリ」とか「ママ」とかを
言葉の端々から感じてもらえるかなって
思ったりもして、いいかなと。
- ──
- なるほど、わかりました。
今日はいろいろ、おもしろかったです。
ちなみに‥‥最後に、
石渡さんの好きな食べ物って何ですか?
- 石渡
- 私? 真面目に答えていいんですか。
- ──
- ええ、ぜひ真面目に答えてください。
- 石渡
- いちばんは「プリン」ですね。
- ──
- プリン‥‥。
- 石渡
- プリンです。
- ──
- するどいいサメの歯を
手帳のポッケに隠し持ってる人にしては
意外な感じもしつつ、
でも、石渡さんらしくていいと思います。
- 石渡
- おいしくないプリンって、あまりないです。
- ──
- 名言出た。プリンはだいたいうまい。
- 石渡
- プリンのお風呂に入りたいほどです。
- ──
- 狂気すら感じますね(笑)。
では、ふだんから、よくお食べに?
- 石渡
- 自分でつくってます。
マダガスカル産のバニラビーンズを
お取り寄せしたり、
ふかひれのコラーゲンを入たりとか。
- ──
- すごい‥‥。
- 石渡
- プリンはシンプルなぶん、奥が深いです。
焼いたり蒸したり、いろいろやってます。
- ──
- 逆に嫌いなものは?
- 石渡
- ピーマンとニンジン。
- ──
- プリンが好きで、ピーマンとニンジンが嫌い。
- 石渡
- そうまとめられると‥‥
子どもかよ、という感じですね(笑)。
- ──
- 子どもとは、そのまま大人になるものですね。
本日は、いろいろ勉強になりました。
ありがとうございました!
- 石渡
- こちらこそ、ありがとうございました(笑)。
<おわります>
2016-02-25-THU
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