── |
丸光食品さんは
気仙沼でたったひとつの製麺業者さんと
うかがいました。
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茂さん |
最盛期には、気仙沼にも
他に6社ほど同業者がいたんですけれど、
今は、うちだけです。
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── |
つまり、気仙沼の「麺」を
一手に引き受けてらっしゃるわけですね。
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茂さん |
はい、当社、創業したのは昭和33年ですから
50年以上、
気仙沼で製麺業を営んでまいりました。
私の祖父・熊谷光太郎が先代で
父の栄一が二代目、私で三代目になります。
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── |
丸光さんの麺は
気仙沼市内のスーパーマーケットでは
どこでも手に入って、
どの家庭の冷蔵庫にも入っていて‥‥というような、
気仙沼の人には、身近な存在だったと。
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敬子さん |
みなさん、風邪ひいたときに食べてくださったり。
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── |
つくっておられたのは‥‥。
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茂さん |
うどん、そば、ラーメン、焼きそば。
麺類全般です。
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── |
あ、丸光さんの焼きそばって
たしか「最初からこげ茶色」なんですよね。
つまりその、焼く前から。
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茂さん |
ええ、そうなんです。
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── |
それって、なにか秘密があるんですか?
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敬子さん |
なにも着色料とか使っているわけじゃなくて
せいろで蒸すことによって
ああいう、こげ茶色になるんですよね。
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── |
それだけ‥‥なんですか?
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茂さん |
せいろを重ねて、蒸気で蒸し上げますよね。
ほぐしながら水に浸して
さらにもう一度、せいろで蒸し上げます。
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── |
ええ、ええ。
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茂さん |
丸光秘伝の「かんすい」という練り水と
蒸し温度の加減で
ああいったこげ茶色が、出てくるんです。
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敬子さん |
最近では、気仙沼ということで
「ふかひれラーメン」なんかも出してまして。
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── |
あ、気仙沼ってサメが捕れるんですよね!
たしかモウカザメ‥‥でしたっけ。
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敬子さん |
アラ、ずいぶん詳しいんですね。
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── |
以前、日本一のサメ博士に取材したときに
うかがったことがあって。
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茂さん |
ああ、そうですか。
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── |
それと、
栃木県の日光に妻の実家があるんですが、
あの地域って、よくサメを食べるんです。
義父に聞いたら「気仙沼から来る」って
言ってました。
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敬子さん |
へぇー‥‥でね、
うちの「ふかひれラーメン」なんですけど。
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── |
あ、はい。
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敬子さん |
2007年に商品化したんですが、
贈答用で、けっこう人気だったんですよ。
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茂さん |
県から「宮城ものづくり大賞」を
いただいたり‥‥
賞状は流されてしまいましたが。
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── |
気仙沼らしさを醸し出すために
ふかひれラーメンによくある
「しょう油味」ではなく
海鮮風の塩味にされていたとか。
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茂さん |
それまでは、市内のスーパーや飲食店さんに卸す
麺類をつくってたんですが、
もっとオリジナリティのある商品を、
ということで、
2005年くらいから
ふかひれラーメンの開発に着手したんです。
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── |
独自ブランドの商品をつくろう、と。
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敬子さん |
そこで、市販されてるふかひれラーメンを
ぜんぶ食べてみたんですけど、
どれもね、ちょっとちがったんです。
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── |
おいしいのがなかった?
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茂さん |
ええ、まぁ‥‥。
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敬子さん |
気仙沼というのは観光地ですから、
お土産屋さんに
ふかひれラーメン、ふかひれラーメンって
たくさん、並んでたんですよ。
でも、わたしはそれまで、
いちども、ふかひれラーメンというものを
食べたことがなかったんです。
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── |
なるほど、敬子さんご自身が。
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敬子さん |
そう、でね、3食くらいしか入ってないのに
1800円だの
2000円だのって、いうじゃない?
こんなに高いラーメン、さぞかしと思って
ひとつ買って食べてみたら、まずくって。
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── |
はー‥‥。
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敬子さん |
じゃあ、他のやつはどうだろうと思って
全種類買って食べたら、ぜんぶまずかったの。
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茂さん |
まずいまずいって、そんな。
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敬子さん |
だって、せっかく麺屋に嫁いだんですから
どこの商品よりも
おいしいもの、つくりたいじゃないですか。
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── |
ええ、そうですよね(笑)。
その強い気持ちが
さっきの「宮城ものづくり大賞」の受賞に
つながったんでしょうね。
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敬子さん |
おなじ塩味で「気仙沼らぁめん」というのも
やっているんですが、
震災の直前に、注文が殺到していて、
震災当日も、徹夜になるんじゃないかってくらい
忙しかったんです。
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茂さん |
生協のカタログに載せてもらったら好評で、
今後は、単発じゃなくて
毎月かならず、カタログに載せましょうと。
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── |
なるほど。
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敬子さん |
それだけの資材も
あったっていうことなんですけど、つまり。
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── |
‥‥それが津波で。
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茂さん |
ぜんぶ、流されてしまいました。
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── |
ああ‥‥。
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敬子さん |
ですから、工場も資材も丸ごとなくなって
今はつくれないんですが、
今日はいい機会なんで宣伝を続けますけど。
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── |
はい、お願いします(笑)。
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敬子さん |
この「はっと」っていうの、ご存知ですか?
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── |
はっと‥‥知らないです。
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茂さん |
東京でいう「すいとん」ですね。
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── |
あ、じゃあ、うどんをちぎったような。
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敬子さん |
ええ、こっちの郷土料理なんですけど、
たとえば、ベーコンなんかでも
端っこの部分が、安く売ってますよね。
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── |
ええ、はい。
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敬子さん |
うどんでも、半端な部分が出てくるんです。
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── |
つまり、それが「はっと」ですか。
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敬子さん |
それまでは
ゴミに出しちゃっていた部分なんですが、
それをパックに入れて商品にしたら‥‥。
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── |
ええ、ええ。
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敬子さん |
すごく売れちゃって
ゴミだけじゃ間に合わなくなっちゃった、
みたいな。
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茂さん |
あのー、ゴミって言わないで‥‥。
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敬子さん |
はいはい、もちろんゴミじゃありませんけど、
そのままだったら
廃棄せざるを得なかった部分なんで。
だって、うどんって長いものだから。
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── |
はい、そうですよね。
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敬子さん |
ともかく、それを売ったら売れちゃったんで
それ用に、つくらなきゃならなくなったんです。
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茂さん |
うちの「はっと」は
わざわざ、手でちぎってつくってるんです。
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敬子さん |
そうそう、手でちぎることによって
断面がガサガサになるじゃないですか。
そこにつゆが滲み込むんで、味がいい。
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── |
なるほど‥‥。
みなさんのお話をうかがっていると
丸光さんが
気仙沼の製麺業者で唯一残った理由が
わかるような気がします。
エネルギッシュといいますか‥‥。
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茂さん |
ありがとうございます。
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敬子さん |
嫁いだから言うわけじゃないですけどね。
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── |
ええ。
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敬子さん |
ただのうどん屋じゃないんで、うち。 |
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<つづきます> |