糸井 |
震災当時は、千田さんたちも
「やはりおにぎり1個を何人かで分けた」とか、
そういう感じだったんですか?
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千田 |
はい、そうですね。
地震から1週間くらいは
どこへ行っても
みんな抱き合って無事をよろこんで‥‥肩を叩いてね。
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糸井 |
ああ‥‥。
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千田 |
もう、忘れられません。
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糸井 |
いちばん深刻なときの状態については、
ぼくたちが
いくら想像しても、追いつかないです。
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千田 |
でも、いまはこの町を復興させなくちゃいけない、
という思いで気が紛れてますけど、
2年や3年経って
仮に、わたしらの力の及ばぬことが出てきたとき、
みんながどうなるか、心配です。
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糸井 |
そうですか。
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千田 |
みんなで役割分担して、
やれることを、やっていくしかないでしょうけど。
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糸井 |
あるていど目鼻がついたら
よその町が「気仙沼の真似をしようぜ」って
言ってくれるようになるといいですよね。
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千田 |
それには、みんなで知恵やアイディアを出し合って
ひとつひとつ実現していかないと。
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糸井 |
たくさんの会社を「経営」なさってきた
千田さんが言うんだから、
本当に、それがすべてなんでしょうね。
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千田 |
これまで、いろんな会社を譲り受けてきました。
ダメなところを譲り受けたことも、あります。
そのときは、ていねいに原因を調べて、
その原因に人をはりつけて、
ひとつひとつ、解決していきました。
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糸井 |
ええ、ええ。
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千田 |
だからやはり、今回の復興に必要なのも
しつこさ、粘り強さじゃないでしょうか。
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糸井 |
その経験を応用するのが今、ですね。
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千田 |
はい、そう思ってます。
でも、今度はどうしてやろうかというね、
ここが俺の「病気」なんですけど、
ふつふつと‥‥
たのしくなってきてるんですよ(笑)。
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糸井 |
おもしろい病気ですねぇ(笑)。
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千田 |
うん、楽しいですよね。
「こうしてやれ」って考えるのは。
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糸井 |
あの、失礼ですけど
千田さんって‥‥何年生まれですか。
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千田 |
昭和13年。73歳。
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糸井 |
お若いですね。
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千田 |
若くないですよ、もう(笑)。
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糸井 |
いや、千田さんとは、丸10歳ちがうんです。
ぼく、23年生まれなんで。
だから、こんなに元気でやってる先輩を見ると
励みになるんです、本当に。
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千田 |
それは、うれしいです。
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糸井 |
千田さんのお話で、とてもいいなと思ったのは
一見、複雑に見えることを
簡単なことばで、表現されているところ。
問題が「どのくらい複雑か」を語る人は
山ほどいるんですけど、
千田さんは、
「何をされてうれしかったか、
何をされて嫌だったか」
が、73年の人生でいちばんの財産だって。
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千田 |
なんぼ飾っても、
長くやってくうちには、本質が出ますから。
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糸井 |
その間には、
行き詰まったことも、あったんですか?
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千田 |
その場合は
どうやって打ち破るかを、考えてきました。
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糸井 |
そうですか。
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千田 |
打ち破ることができなければ「倒産」だから。
何日もかけて、じーっと考える。
ごはんを食べてても、とにかく考える。
でも、しばらく出てこないんです。
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糸井 |
突破の方法が。
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千田 |
ところが、不思議なことに、
集中して考えていると
いつしか、壁のどこかに「穴」が見えてくるんです。
で、その穴を見つけたら、全力投球。
なんとかこじ開けるわけです。
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糸井 |
そのときの集中力、すごそうですね。
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千田 |
商売を生業にする者独特のものでしょうね。
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糸井 |
失礼な言い方かもしれませんけど、
けっこう「愉快」だったりも、しませんか?
「壁の穴、見つけたー!」みたいな。
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千田 |
ええ、ええ、そりゃ愉快です(笑)。
赤字の会社を引き受けて、
苦労して‥‥黒字にしたときなんか、もう。
誰に褒められるわけじゃないけど、
自分で「どうだ」っていう、うれしさがね。
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糸井 |
「穴」は、必ず見つかるものですか?
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千田 |
いままでの経験で
商売を中途半端でやめたことはないです。
つまり「穴」は、必ず見つかるもんです。
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糸井 |
‥‥いいこと聞きました(笑)。
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千田 |
そして、行き詰まりを打ち破って、
すべてうまくいったときには
助かってよかったなと、自分を褒めます。
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糸井 |
‥‥今回の復興についても。
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千田 |
逆に言えば、絶好のチャンスです。
いま、こうして、たくさんのかたが
気仙沼へ来てくださっています。
「ああ、また来たいな」と
思われるような町に、再建していかないと。
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糸井 |
‥‥千田さんが「仕事を忘れる時間」って、
あるんですか。
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千田 |
震災の前までは、お酒を飲む時間ですね。
じまん話をしたり、じまん話を聞いたり。
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糸井 |
震災のあとは‥‥。
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千田 |
先ほども言ったかも知れませんが、
修理工場も、本屋も、みんな流されてしまって
すぐそろばん弾いたら
「5億2000万」くらいの被害がありました。
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糸井 |
はー‥‥。
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千田 |
甚大な被害です。
でも‥‥この歳になると
あんまり慌てることもないな、と思いました。
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糸井 |
おお。
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千田 |
ただ、自分のこころに「タガをはめよう」とは
最初から決めてましたね。
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糸井 |
タガ?
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千田 |
つまり「がむしゃらに、はたらこう」と。
これから1年間、
朝の8時から夜の8時まで、
365日、一日も休まずに仕事に専念しようと、
決めました。
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糸井 |
じゃあ、震災後はまだ休みなし?
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千田 |
今日まで、1日も休んでいません。
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糸井 |
はー‥‥。
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千田 |
ただ、自分で決めてきたと言っても
まわりが何にも見えなくなってしまっている、
つまり
自分の考えがグルグルめぐってしまうことも
やっぱり、あるんです。
そういうとき、ほんとの友だちがありがたい。
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糸井 |
なるほど。
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千田 |
おまえ、ちがうんじゃないかと
言ってくれたり、
相談に乗ってくれる友だちがいるってことは
たいへんな財産。
年齢なんかは、関係ないですね。
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糸井 |
ちなみに、奥さまは
どう思ってらっしゃるんでしょう?
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千田 |
女房?
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糸井 |
ずっと、おふたりで会社をやられてきて、
震災後、
そんなにはたらいている千田さんを見て‥‥。
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千田 |
やっぱり女房も、わたしのような目線でしか
ものを見れなくなってますよね。
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糸井 |
じゃ‥‥。
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千田 |
つまり、おんなじ。
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糸井 |
相棒としては最高ですね。
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千田 |
ええ‥‥そうですね。
<おわります> |