バブー&とのまりこの パリこれ! 住んでみてわかった、パリのあれこれ。
2003年、フランスに単身で渡り、 現在はパリを拠点にヘアメイク&フォトエッセイストとして 活躍しているとのまりこさんが、 愛犬のバブーくん(アイルランド出身)を相棒に、 パリ暮らしのちょっとびっくりな出来事や、 へぇ〜っと感心する習慣などなど(*)をお届けします。 *もちろんすべてのフランス人やフランス全土に共通しないこともあります。 週に1回、でも気まぐれにもっと更新するかも? すてきな写真とともに、おたのしみください。 Amusez-vous bien!

 
とのまりこさんと バブーくんのプロフィール
 




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ガラガラの『BHV』と、
戦略的エラーの結末。

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ガラガラの『BHV』と、
戦略的エラーの結末。

バブー

みなさんボンジュ~ル!
今日はパリの人気エリア・マレ地区にある
老舗百貨店『BHV』の話をするよ。
(ちなみに「ベー・アッシュ・ベー」って読むよ)

ボクの愛用してる首輪とかリードとか、
ペット館まであった人気の百貨店だった『BHV』、
実は最近かなり大変な状況になっているんだよ。

 

とのまりこ
『BHV』は1855年創業のパリっ子にとって、
特別な愛着のある百貨店なんです。
高級志向の百貨店とは違って、
日用品や工具を扱う 「バザール」として
スタートしたところ。
特に地下一階のDIY売り場なんかは
DIY大好きなパリっ子の聖地と言われるくらい。

文房具売り場やキッチン用品売り場なども
素敵なものがいっぱいで充実していて、
百貨店というよりは日本で言うと
『東急ハンズ』に近いようなイメージ。
小さな家電製品まで置いてある東急ハンズ、
って感じの百貨店です。

 

バブーの首輪やグッズを色々買っていた
お気に入りペット専門館もあった、
パリっ子に愛されるデパート『BHV』。
数ヶ月ですっかり変わり果ててます。

 

バブー
でも最近行くと雰囲気が全然違うんだよ。
今に行くと、
売り場面積の半分近くが閉鎖されていて、
ガラガラの状態なんです。
エスカレーターもあちこち止まってるし、
トイレ事情がよくないパリで、
観光客にも重宝されていたトイレまで
閉鎖されているという事態に…。

 

私がパリに住み始めた2003年から20年ちょっとで、
どんどんステキな売り場が増えていたのですが、
この数ヶ月で、あっという間に売り場がガラガラに‥‥。

 

とのまりこ
ここ数年、『BHV』の経営権が
目まぐるしく変わったことが
混迷の引き金になったのです。

2023年に営業権を買った
『SMG』という不動産企業の社長が
「マレ地区の活性化」を掲げて、
2025年11月、
ネット専業の格安ファストファッション
「Shein(シーイン)」の世界初の常設店舗を
『BHV』の中にオープンさせるという
思い切った決断をしたんです。
(「Shein」は日本の皆さんはご存知の方も
多いと思いますが、中国発祥のブランド。
現在の本社はシンガポールにあります)

バブー
「Shein」ってあのすごく安い服が
たくさん売っているサイトだよね?
ボクたちの周りのティーンエイジャーたちも
安いからと色々買っているイメージ!

 

 

こちらが『BHV』ががらんどうになってしまった
原因となっているブランド『Shein』。
できた当初はニュースになっていたりもしましたが、
今ではここもほとんど人がいません‥‥。

 

とのまりこ
パリでは以前から、期間限定のポップアップをすると
若者が長蛇の列を作るくらいの集客力があり、
『BHV』に取り込もうとしたのですが
これが大炎上を引き起こしました。

大量生産・大量廃棄が問題視される
ファストファッションの象徴を、
職人技を重んじるパリの中心に置くことへの
猛烈な批判が起きたのです。

さらにオープン直前、
「Shein」のオンラインプラットフォーム上で
子どもを模した人形が販売されているのが見つかって、
フランス政府から市場締め出しの警告が出る
騒動にまで発展したんです。

バブー
店舗前では激しいデモが起きて、
労働組合もストライキを呼びかけたよ。
そしてこれが『BHV』を支えてきた
既存のブランドたちにとって、
耐え難いことだったんだ。

「アニエスベー」「ディオール」「ゲラン」
「サンドロ」「マージュ」など、
100を超える主要なブランドが
一斉に撤退していったよ。

「『Shein』と同じ建物に並ぶことは
自社のブランド価値を著しく毀損する」
という認識。
それでフロアが、あっという間に
ガラガラになっていったんだ。

 

文房具売り場も、キッチン売り場も、子供服売り場も、
ランジェリー売り場も、リビング・サロン売り場も、
全てもぬけの殻と言える感じになっていて、寂しい限り‥‥。

 

とのまりこ
ブランドの大量撤退によって、
今の『BHV』は「4割以上が空き店舗」という
異常事態になっています。

そして実は、ここ数日で再び大きな動きの
ニュースが入ったんです。
6月16日、『SGM』が『BHV』マレの事業を、
「赤字での譲渡」という形で、
現総支配人のコタンダン氏率いる
経営陣に渡すことを発表したんです。

つまり、『SGM』はパリの百貨店事業から
事実上撤退しました。

オフィスに加え新しい経営陣は『Shein』を
「今年のクリスマスまでに完全撤退させる」と明言し、
「あれは戦略的エラーだった」と
はっきり認めているんです。
そして再び、家具、装飾、DIY、照明、本といった
「暮らしの百貨店」へと原点回帰させる
計画を進めているそうです。

 

トイレも閉鎖され、エスカレーターはあっちこっちが
ランダムに止まっていたりするので、
トランクを買った人たちも運ぶのが大変そう。

 

バブー
じゃあまたパリっ子の聖地、
素敵なDIY売り場や
買いたいものばかりの文房具売り場、
パリのお土産もいっぱいの売り場や、
素敵なキッチン用品売り場、
ステキな子供服が並ぶフロアなども
戻ってくるってことなのかな?!

アットホームで日常的な雰囲気いっぱいだった
老舗の百貨店が、
目先のバズと若者の行列を求めて
『Shein』を入れた結果、
驚くほどあっという間に伝統的な
アイデンティティを自ら壊していく姿は
本当に悲しくなったけれど、
その皮肉な結末から、ようやく原点に
戻ろうとしているならよかった‥‥。

 

マレ地区のシンボルのひとつで、
地元パリっ子にも、観光客にも愛されていた百貨店。
ちょうどこの原稿を書いているときに
経営権が再び変わり、
「Shein」の撤退も決まったようで、
また元の姿に戻ることを願っています。

 

一度失われたものがどう戻ってくるのか、
170年の歴史がある『BHV』が
どう生まれ変わるか、
これからも見守っていきたいと思ってるよ。
それではみなさん、今週もステキな1週間を!

 

先週から日に日に気温が上がり続けているパリ。
このコラムが更新される火曜日には、
40度まで上がる予報。
あまりにも酷暑なので、息子の小学校では先週末から
「学校にはこなくてもいいよ」発令が出て
(あちこちの学校でも同じようです)、
息子の付属中学校は1週間前倒しで
夏休みに突入することに(酷暑に便乗して早めに休みに?!)。

 

あまりの暑さでバブーも、ウチで一番涼しい
トイレの奥のタイルを避難所にしています。

 

 

*とのまりこさんの本*


「シンプルシックで心地よい暮らし
パリの小さなアパルトマンで楽しむおうち時間」
出版社 : 世界文化社
発売日 : 2021/5/29

 

 

※この連載を再編集し、
 書き下ろしも入れて新潮文庫になりました。
 こちらをぜひご覧ください!(2015年8月出版)

フランス雑貨のお店オープンしました。
バブーくんは日本滞在時に、お店にいます。

「Boîte」(ぼわっと)
東京都杉並区西荻北4丁目5−24
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illustration:Jérôme Cointre