勝川俊雄+糸井重里 対談
日本の魚は「世界一」じゃない!?
 
第6回
三陸から漁業を変える。
糸井 漁業を変えていくという意味では
勝川さんの新書
『日本の魚は大丈夫か―漁業は三陸から生まれ変わる』
にも書いてらっしゃいますけど
「これからは、三陸に期待している」って。
勝川 変わる芽があるとしたら、そこしかないです。
糸井 そうですか。
勝川 今、福島県の漁業者から
いろいろと相談を受けているんですけど、
福島では、震災後3年くらい、
まともに漁業ができていないんです。

そのために、
今、すごく魚が増えているんですよ。
糸井 3年休んだら、魚が。
勝川 3倍ぐらいに。
糸井 3倍。
勝川 逆に言えば、
それまで、どんだけ捕っていたんだという
話なんですけど、
とにかく以前「2時間」で捕っていた量を
今は「30分」だそうです。
糸井 はー‥‥(笑)。
勝川 福島のある漁師が言うには、
震災前、漁業は自分の代で終わりだろうと
思っていたそうです。

でも、今はこんなにも魚が戻ってきている、
これなら十分やっていける‥‥と。
糸井 希望を感じる話だなあ。
勝川 そこで、今のこの状態をキープしたままで
漁業を再開できないかと
ぼくのところへ、相談に来られたんです。
糸井 うん、それはいい人のところに(笑)。
勝川 ただ、増えたからと言っても
震災前と同じように捕ってしまったら‥‥
また、いなくなっちゃいます。
糸井 そうですよね。
勝川 だから、そういう意味では
「たくさん捕る漁業」で勝負できないことは、
みんな、わかってるんです。
糸井 福島では、そこはもう「前提」であると。
勝川 ですから、この機会に
「質で勝負する漁業」に転換できたら、
福島の海から、新しい日本の漁業のモデルを
つくることができるじゃないですか。
糸井 うわあ、いい展開だなあ‥‥それ。
勝川 そこで、うまくいっている例を見に行こうと
単価を上げて高い利益を出している
静岡県由比のサクラエビ漁業を
福島の漁師さんたちと、視察に行きました。

漁獲量を制限することは悪いことじゃない、
むしろ、どうやって捕るかという
「漁業の質」に、フォーカスする試みです。
糸井 やはり「現場を見る」のは、強いですか。
勝川 説得力として、ちがいますよね。

「理屈で考えたらそうなるよね」
というのと
「うわ! なんか、いい暮らししてる!」
というのは‥‥ぜんぜん。
糸井 なるほど、そこが一目瞭然なんだ(笑)。
勝川 ですから、ぼくが自信を持って
「魚を捕り方を変えれば
 日本の漁業は変わる」と断言できるのは、
うまく回ってる漁業を
世界のあちこちで、見てきたからなんです。

日本のほうが条件はいいわけですし、
同じことをやったら
漁業が豊かにならないわけはないんですよ。
糸井 聞いていると、
勝川さんのやってらっしゃることって
「プロデュース」ですよね。

被災地での漁業のお手伝いもふくめて。
勝川 そうだと思います。
「これとこれがくっついたら
 おもしろいんじゃない?」というものを
直感で、つなげてみたりとか‥‥。

そのときに大事なことは
「消費地での物の価値を判断できる人」を、
生産地に送り込むことなんです。
糸井 あ、それは大事ですよね。
「何をどうつくるか」に直結しますもんね。
勝川 電話なんかだと、やっぱりダメなんです。
実際に見てもらわないと。

陸前高田で、居酒屋の仕入れ担当の人に
船に乗ってもらったんですが
そこで「ケツブ」という
殻の硬いツブガイを、見つけたんです。
糸井 ケツブ。
勝川 都会では誰も知らないものだし、
肝が苦くて、処理をきちんとしないと、
舌がしびれちゃったりするので
値段がつかないから、
漁師さんたちは、捨てているんですよ。

でもこれが、食べると、うまい。
糸井 へぇー‥‥。
勝川 漁師さんたちは
「俺、飲むときはいつもこれだから」
なんて言うんです。

そんな、
漁師が食べてうまいものを捨てるなんて
もったいないじゃないですか。
糸井 でも、実際には捨てられてる。
勝川 たしかに、スーパーに
並べておけるようなものではないけれど、
でも、居酒屋だったら?

自分のところで処理すれば
料理として、出せるじゃないですか。
糸井 うん、うん。
勝川 つまり、漁師がうまいと言っている素材を
評価できない流通がおかしいんです。
糸井 だからこそ、
価値のわかる人を連れて行くのが重要、と。
勝川 東京から電話して
「いいもの、ありますか?」って聞いても、
「ケツブあるよ」とは、絶対言いません。
糸井 ケガニだとか、タコだとか言ってもね。
勝川 つまり「青い鳥」は、そこにいるんです。
でも、地元の人には、
当たり前すぎて価値が見えないわけです。
糸井 なるほどなあ。

でも、食文化の研究所みたいなものが
三陸にできるって思ったら、最高ですね。
勝川 食文化は、その地方の歴史そのものです。

でも、30年前、50年前、100年前に、
土地の人たちが
いったい何を食べていたのかってことは、
ほとんど、知られていないんです。
糸井 そうでしょうね。
勝川 漁村の人たちだけじゃないですけど
やっぱり、
自分の浜がいかにユニークかってことに
気づきにくいんです。

他から見て、おもしろいものがあっても、
地元では「当たり前」のものですから。
糸井 昔っからあったんですものね。
勝川 やはり、新しい価値というのは、
地元と外部との接点から、生み出されます。
その意味でも、行き来が増えている三陸は、
チャンスだと思うんです。
糸井 と同時に「価値がある」ってことを、
観念として思い込みすぎるのも、よくない。

つまり
「捕れたてだから、おいしいはずだ」とか、
「うちのホタテが、負けるはずない」とか。
勝川 外部を知らないと、そうなってしまいます。
それは、漁業に限らずでしょうけど。
糸井 うん、うん。
勝川 岩手県の牡蠣を養殖している若い生産者が、
津波でいかだが流されて
やることがないと言っていたので
「築地で、世界中の牡蠣を食べてきたら?」
と言ってみたんです。
糸井 うん、うん。そしたら?
勝川 「俺の牡蠣がいちばんじゃないって
 わかりました」と。
糸井 それを知るのは‥‥大事なことですよね。
勝川 牡蠣って、こんなにも広がりがあるのかと
思い知ることが、第一歩です。

たとえ「いちばん」じゃなかったとしても
他との比較で
自分の牡蠣の特徴を把握して、
そこを、きちんと評価してくれるところへ
出せばいいわけですから。
糸井 現実を知るというのは
ある意味で、苦しいことでしょうけれど、
きっと、必要なことですよね。
勝川 衰退産業、と呼ばれるところにいるなら
なおさら必要なことだと思います。

<つづきます>
2014-06-23-MON
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